11th Day : 1221 "Kiss The World"

#141 All Ideals(望む全て)

 そんなこんなで。


 ここ数日を経た所で、マジで代わり映えしないにも程があることに定評のある僕のクソみたいで最高な一日の始まりは――この世におぎゃあと生誕以来の長い付き合いで、馴染みまくって慣れ親しんでいるにも程があって余りある…が、間もなくお別れする事になっている自室の寝床にて、何のドラマも無く一人で孤独に起床する所から始まるんだよねコレが。


 最近の悪滅で壊滅的な悪習慣の繰り返しと違う点はと言えば、朝日と共にきちんと健康的に起きて、久方ぶりに家族と一緒に朝食をとった事くらいか。


 その席で今後の生活や人生設計について、説教交じりの質問を半覚醒状態の寝惚け半分の頭脳で処理しながら母親の手料理をもしゃもしゃ咀嚼そしゃくする。

 いずれ僕も一人立ちして、その中で実家の味を寂寞して懐かしむ時が来るのだろうかと霧のようにぼんやりと考えた。


 その微妙にポエミィでパーソナルな感情と感傷を引き摺りながら自室で上京のための荷造りなんかをちょっとして、その過程で散らかり放題の部屋の掃除なんかに軽く取り組んだ。

 いやぁ、久しぶりに掃除とかしたけれど綺麗な室内ってのもいいもんだね。作曲活動がはかどりそうだよ。


 という感じで愛用のギターを取り出して気分良くジャカジャカ適当にき鳴らす。少しばかり閃いて抱えたイメージやコードアレンジがあるんだ。


 左手でフレットを抑え、シンプルなパワーコードを乱雑に鳴らしながら思い浮かべるのは昨日聞いた文豪の話。

 世界的に著名な文豪である以上に、その上で恋人の父親である人間の過ごした過去。

 彼がかつて抱いた感情を自分なりに思い浮かべて想像し、そこに便宜上のストーリーを加えて行く。半生の話をつたなく再構成し、僕の歌詞ものがたりとして解釈・再構築しながら自分勝手に昇華し改編する。


 載せる歌詞は適当に英語混じりの日本語で、仮歌未満で実に不安定な道標。

 漠然とした閃きが固定された確信に変わりつつあるのでレコーダーを起動し、自分の声と音を拙く入れていく。


「これは結構、アリなんじゃないか?」


 自らの起こした録音物を聴いた直後、口から出たのは純粋な感想。

 環境への不適合を恐れて、アップデートを久しく行っていないDTMソフトに適当なリズムのクリック音を設置してギターを載せていく。デモの為のデモみたいなスケッチの完成だ。 


 さて本格的にイジろうかと息巻いた頃、母親が昼食が出来たと呼びに来たので敢え無く中断。実家ぐらしの弱点を露呈する形だ。自身の自由よりも家族間の規則ルールが優先される。

 専業主婦の母親と二人でコゲた焼き飯を喉に入れて、僕はお袋の味を一体いつまで―――以下略、前述の通りの繰り返し。


 部屋に戻って作業の続きでもと考えていたのだが、ベッドの上に投げ捨てられたデバイスの通知LEDが点灯しているのに気が付いた。


 冷たい布団にダイブしてから手に取って確認すると、どうやらメッセージが届いているらしい。差出人は――、


「お、彩夏アヤカか…」


 意図しなかった愛しい想い人からの私信に顔がほこぶ。

 多分その瞬間の顔を鏡を見たら、想像の三倍位だらしなくてみっともないんだろうが、気にしたら負けだな。愛は賢人すらを盲目に変えるもので、僕の様な愚人なら尚更なのさ…きっと。


 シャチホコ張った浅い哲学と共に中身をあらためれば集合予定時刻が記載されていた。

 成る程、決戦は夜と言う訳だ。そしてその場所は彼女の家―――そう表現すれば少なからずアダルトな匂いが醸し出されるが、そんな色気のある展開にはなるまいよ。


 返事を手早く送信して、再びギターを抱えてパソコンの前に座る。

 以前思い付いた「resonance」や「フライング・ハイ(仮)」なんかにも手を付けたいが、今はクオリティよりも品数を増やしたい。

 バンドのアレンジャーであるジュンの助力も無く、僕一人では高品質なブラッシュアップは期待出来無いから、取り敢えず保留という感じ?


 主戦場をインディーズからメジャーに移すアーティストとしての心構えや覚悟モチベーションは未だ行方不明で目下のところ捜索中だけれど、作曲活動に関する意欲は消えてはいないらしい。


 自らの手から何かを生み出すという傲慢で手に余る贅沢に、しばしの間酔うことにしよう。

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