#119 My Poor Brain(クソみたいなアタマ)

 さて、既出の場が含有する刺激的で見慣れぬ温度や雰囲気はともかくとして、何はなくとも僕が相談する段は整った。


 年下ながらも男女間の関係において僕よりも遥かに経験豊富な彼女に、恋人と情を交わすことについてのアドバイスを求めようとした矢先――相談相手スペシャリストの方が先じて口を開いた。


「ここで一つ。相談を受ける前に私個人の悲痛な主張さけびを聞いて下さい」

「え? 何? 突然どうしたの?」


 強い語調にされる形になる。胡乱うろんな感想を挟む間も無くつらつらと。


「貴方はイメージ出来ますか? 私の抱える心労が? 心理的な負担が如何程いかほどであるか理解出来ますか?」


 僕の間抜け面で察したのか、返答を待たずに続ける。

 そんな可哀想なものを見る様な侮蔑っぽい眼はやめてくれ! 自覚はあっても普通にヘコむから! これから頑張って考えるから!


「貴方は舐めてますよ。実の姉と恋人との性事情――それも不一致ネガティヴな情報を聞かされる妹の気持ちを…」

「え?駄目なの? 君みたいな『クソ程パリピなリア充陽キャ野郎』には良くある話だと思ったんだけど……」


 女子会とか言う男子禁制な謎の会合でキャッキャウフフな高い声で語るんじゃねぇの? お互いのパートナーの夜の不満を声高に、高笑いしてディスりながらぶちけてるんじゃないの?


「なんと言うか…もうアラタさんは誤解って範疇に収まらない、過大な幻想とか幻影とか、そういう偏見にまみれた差別を私に――と言うか、世間の大多数に抱いてますよ?」

「マジで? これでもかなり、思想には偏りなくリベラルでフラットな方だと自負してるけどなあ…」


 それはそうと、本当に違うのだろうか?

 田舎の不良並みにそんな話ばかりしてないの? 会話の八割はSEX AND THE CITYみたいな感じで、そんでもってアメコミ映画はノーサンキューなんだろ? それ位は知ってるぜ、僕は。


「だってさあ、恋人と別れた次の週には新しい人がいて。それが友達の元恋人だったりするのがザラじゃないの? そんなことを猿みたいに繰り返してるし…てっきり倫理観モラルバグってるのかと…」

「うっ…そういう習性については否定しづらいものがありますが、それでも――行為や結果に何も感じないわけではありませんよ? 他者の機微についてと自身の感情の全てをうしなった訳ではないです」


 ぷんすかと頬を膨らませた後に即ガス抜き。

 ピンスポを独占する女優プリマの様な表情で「それに…」と前置き、道化クラウンの様に茶化して崩す。


「貴方は感情から来る、をご覧になったでしょう?」


 瞬間よぎる彼女の痴態…改め、取り乱した姿。それは紛れも無く、感情と倫理に苦しみ悶える人の姿だと思う。

 …ってか、そういうワードチョイスはやめろって言ったばかりのに…もっと『醜態』とか『失態』なんかで代替出来ただろに。


「確かに。そりゃそうだ。ゴメン、僕の思い込みだな」


 だけど、これ以上議論を進める気にはならなくて。溜め息と共に投了と降参ホールドアップ


 しかし、彼女は非紳士的にも付き合う気は無いらしい。追加の爆弾を投下した。


「それに私だって切り捨てた男が幸せになると腹立つし、った男がが良い女を手に入れるてとムカつきますよ?」


 それは実に人間味のある――なんとも理不尽で非論理的な心の揺れ動きで…はあるのだが、だけど―――


「それこそ身勝手だ。それも『潔癖』じゃなくて、『嫉妬』や『怨恨』の類。率直な感想としては…ろくでもない」

「はい。だからこそ、私はここにいます」


 そう言ってにこやかに微笑むが、主張の意図することが僕には分からない。


「まあそれはそれとして。じゃあ、改めて話すけど――」


 多少の遠回りにはなってしまったが、これでようやく本題に入れる。カウセリングを受診する身だ、それ位許容しよう。


 モテカワ女子大生の義妹いもうとが有する知慧ちけいを得るには飯代位では足りない。

 それが分かっただけでも、本来は御の字だとすべきなのだ。

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