#27 Sweet! Sweet!! Sweet!!!(甘々)

 さてそこから先、その後の話は最早語るまでも無いだろう。

 互いの思いが通じ合い、その果てに成就した関係に到達した男女の密な関わり方など、余りにも予定調和めいたテンプレで、今更言葉にする必要は無いし、殊更詳細に描写するまでも無い…、


 …などという妄言を不遜に吐いたのは何処の誰だったか?

 恐らくは古都の有名国立大学に席を置き、妄言甚だしき薔薇色のキャンパスライフを夢見る言い訳がましい半濁の青年だっただろうと記憶している。なんか四畳半の世界を延々と永遠に放浪したりしそう。


 まあ何にせよ、この一文はくだらぬ薀蓄知識であり、現状の僕とは別段関係の無い話なんだけどさ。一切繋がりの無い与太話なんだけどね。

 そもそも僕的には全然成就してねぇしな。小さく細やかな一歩を踏み出しただけだし。


 てか、思い返してみれば、大前提として僕の人生は予定調和どころか予想通りに運んだこと無いし、コントローラブルな状況で上手く行ったことなんかねぇよな。

 僕の生きる道は常に予想外であるし、常に想像の斜めを行き来する人生―――そう表記すればそれなりに魅力的に映るだろうか? 映らないね。はは、私の人生の起伏ヤバすぎ?


 僕の人生の可否――もとい価値とかそういう高尚で哲学的で曖昧なものは脇に置いて、いや実際、本当に殊更文章にする様な華々しい逢瀬では無かったんだ。

 僕達が過ごした時間は本当に些細でありふれて、極めてありがちな――それこそデートと呼ぶのもおこがましいレベルに位置する無垢な連れ合いだったのよね。


 尤も、僕にとって至福で無かったとは口が避けても言わないが。


 ただそれは本当に幼稚で稚拙な出来栄えの合作で。

 未熟な僕と、恐らく同等の彼女とが連れ添った所で出来上がるのは低次元の芸術作品。そんなの自明の理。


 だけど、それは僕にとって筆舌に尽くし難い――未体験の連続であった。

 異性と共に同じ時間を共有して、同じ体験をする――なんだこれ? 有象無象に氾濫するカップルはこんな照れる上に恥ずかしいことやってんの? マジかよ、正気か? 恥ずかしいことこの上ない。恥ずか死にするわ!


 しかし、同時に実感することもある。未熟でも逢瀬の価値と意味を。

 

 でもさ、本当にくだらなくてしょうもない、努めてありがちな日常でいいんだって気付かされたし、吐いて捨てる様なささやかこそが至高なのだとこの数時間で僕は学んだ。


 異性と一緒に服を見たり、他愛の無い言葉を交わしながら雑貨を選んだりは勿論、同じパーソナルスペースを共有している感覚が僕と――恐らくは彼女も――自身の周辺を満たし、交じる感覚が面映く、なんとも心地が良い。


 こんな刹那の閃光が永遠に続くのであれば恋をして、人を愛することに価値があると思えるし、自らの信仰を他宗派に鞍替えして改宗してもいいとさえ思えてくる。なんて、流石にみっともないかな?


 それに別に何か目的が無くたって良い。こうやって並んで歩いている瞬間だって最高に幸せだ。

 例え二人の両方の距離が友達よりも少し遠いのだとしても全然違う。すれ違う赤の他人とはかけ離れた関係性だって実感出来る。もう本当世界って素晴らしい!


 互いに少しだけ、ぎこちなく歩み寄りながら言葉を探して拙い会話をするだけで、僕は十分に楽しいし、最高に幸せだ。そんでもって、願わくば彼女にとってもそうであれば本当に良いんですけどね。


 けれど、僕は浮かれて自分を見失い、忘却して失念していた。僕自身の特性を軽視して、度外視していた。


 前提条件の大前提として、僕の人生は決して平坦なストレイトでも無ければ、コントローラブル出来る容易なものでは無いことを考慮して、それを踏まえて行動すべきだったのだ。


 勿論、それに留意し万全を期して行動した結果、僕の望む方向に人生が動いたかどうかなんて未知数で不確定なものではあるし、分の悪い賭けにも程がある。


 しかし、僕の行動と選択次第では『彼女』の胸に刺さる棘を一本でも減らすことが可能であったかもしれない。詮無きifではあるが、そう考えると自身の迂闊さと無力さを呪い殺したくなる。


 僕はもっと周りに気を配るべきだった。彼女を脅かす邪魔者を索敵し、一つ残らず排除すべきだった。

 軽薄な言葉を撒き散らしながら、彼女を食い物にしようとする黒い影を見逃すべきでは無かった。


「ねえカーノジョ。そこのきれいな黒髪のおねえさんっ。そう、今振り向いたそこアナタ。いや~あのね、ピンときちゃったんスけどね…」


 ゲーノーカイって興味ありませんか?


 正に正しく、空気を一切読まない上に相当胡散臭い風貌の闖入者は、僕達の間に物理的に割り込み無遠慮かつ無粋極まりない言葉イバラを差し込んだ。

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