#21 Take Me To The Place(僕を連れて行け)
「う~い、おまたせ」
「お~う」
指定時刻の三分前。
僕が居を構える実家近くに
道路を挟んで向こう側――ハザードを焚いて停止している白い車に乗車して、助手席に腰を掛ける。ドアを閉めるとともに、滑らかかつ速やかに発進。
手狭でユーズド感満載で小汚い車内を流れるのはジャック・ルーシェが解釈したドビュッシー、その淡く幻想的かつ美しい
美しいとしか言えない音楽と解釈に心が弛緩し、自然と音楽に身を浸しそうになるのをグッと堪える。
おのれ、
上記のような糖質一歩手前のひねくれた反骨心を以てして、口を際限無く尖らせる。
「てか、そもそも。男二人で悲しく連れ立って、一体何を買いに行くんだ?」
とは言え、僕が幼馴染に投げたのは至極当然の質問であると思う。
運転席でハンドルを握り、くわえタバコで器用に紫煙をくゆらせる悠一からは『買い物に行く』としか伺っていない。
はてさて、その仔細な目的は?
我々御一行様の行く先は?
「そりゃあ何ってアレだよ。サラリーマンの新生活に必要な諸々の数々だよ」
そんな曖昧かつ意味不明な回答から掘り下げて、深く聞くところによると上京に際してフレッシュマン的な準備をするのだという。
その中で、「いや僕達は真っ当な社会人とは程遠い
窓の向こうに流れる見知った町並みを横目に刹那の逡巡。
代わりに吐き出したのはこれ以上何を揃えるのかという純粋な興味。
「新居とかは事務所が用意してくれるんだろ? そこにそれ以上何を付加するっていうんだ?」
上京した後の僕達の拠点は既に事務所によって確保されている。
都心の中でも更に心臓部に位置取るロケーションに家具付き1LDK。その一室が各個人に与えられ用意されている。当面の新生活に支障は無いどころか十分過ぎる程に十二分なはずだ。
「分かってねぇなアラタは。新居とは言え、そんなの最低限度のものしか詰まってない空箱に等しく虚しい箱だぜ? そこに如何に自分の
「確かにその理屈は分からないでもないけど…」
ドリンクホルダーに刺さった筒型の灰皿に煙草を押し付けた悠一は無意味にアツい台詞を口にした。
謎発言と共に見せるドヤ顔サムズアップが定番の決め顔の色男。いい加減突き出した親指を叩き折ってやりたいね。
だが、僕が言いたいのはそういうことではなく、
「それに僕が付き合う意味が分からないって話だろうが」
どいつもこいつも謎理論で論点をズラして巧みに
話が微妙に――いや意図的かつ巧妙に逸らそうとする奴が僕の周りには多過ぎるな…僕は違うけど。良くも悪くもそんな話術を持っていないんだよなあ、悲しくも。
「そりゃあアレだよ。アラタが一番暇そうじゃん」
「よし、お前は此処で飛び降りろ。僕は機材を搬出しに行くから」
やいのやいのの押し問答を醜く執り行う幼馴染の後ろで静かに透明な歌声を披露するジャックジョンソン。
てか、さっきから何だよ…あれか? ひょっとして車内のBGMはジャック縛りなのかよ。なら次はホワイトストライプスか?
「まあそれも勿論あるが――」
「何だ悠一。そんなに飛び降りたいなら先に言ってくれよ」
茶化すなよと左手で僕を制す相棒。
「極めて私的な買い物だ。気心の知れた奴とじゃなきゃ、何か…アレだろ?」
うわっ、女々しい!
良いだろ別に。買うのは生活必需品や家具なはずだろ? それ以外に…私的に一体何を買うの? 流石に性癖的な玩具とかだと僕も中々困るんだが……。
僕の心中を察した悠一の少し上擦った声。それなりレアだが特に価値のないシーンである。
「いっ…いや。多分お前が思うのとは、恐らく違うぞ? やっぱな! 親友だろ俺達? 幼馴染で相棒じゃん!」
「何か『親友』とか『相棒』の使い方が金をせがむ瀬戸際の奴みたいな反応だな。普通に信用出来ない感じ。言っとくが金は貸さないぞ?」
だからそうじゃねぇってと緩い黒波の髪を掻き毟る親友の姿。
こういうのもたまには良いだろうと薄く暗い笑みが綻んだ。
基本的に僕よりも口が上手い彼に何度煮え湯を飲まされたか…あれ? 本当に僕達の関係は親友の正しい姿なのか? 間違いなはず無いよな!
「大丈夫分かってる。お前が何か買うんなら、次いでに僕も少し見てみようかな」
「流石、お前なら分かってくれると思ったぜ!」
大きく息を吐き出す彼を気遣う一言。
「
マジで勘弁してくれよと、潰れた箱からやけくそ気味に煙草を引き出す悠一の表情はソコソコ面白い表情でした。
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