#7 SAD AND BEAUTIFUL WORLD(切ない世界)
自分の原点である遠き過ぎ去った過去の記憶を反芻し、その在り方を確認した僕は現在の戦場に帰宅。アテナに裏口は無いので堂々と正面玄関から入る。
その過程で普通に、謂わば当然の帰結めいた回帰として、至極ナチュラルに待機列を形成するモノ好きなファンの方々に見つかった。
やはり僕に歴戦のスネークめいたバーチャスティックでスニーキングミッションは向いていないらしいと楽観的な感想を苦笑いで噛み潰す。
学生時代は空気と似たような存在感であったはずなのに、思えば遠くに来たもんだと目を遠くしなくもない。
ただ、全くを以て箸にも棒にもかからない、個人的な浅い感想とは別に込み上げる感情も勿論ちゃんとある。
ここで念の為言っておくが、僕は断じて不感症の感受性貧相なマグロ男などでは無い。
というのも現時刻は開演一時間だというのにも関わらず、結構な人数が望んで待機していてくれているのだ。それが何よりも嬉しい。
尤も、そう言った純粋な感想に付随する、極個人的な思いと感傷が全く無いと言えば嘘になる。
何と言っても、自分の身勝手な想いを詰め込んで、書き綴った楽曲に共感し、賛同に近い感情を抱いた人間が少なくない人数存在するのだと認識すれば、何と言うか人生を生きる息苦しさから解放される感じがするからだ。
とは言え、マイノリティを自称する自分が限り無く平均の範疇にいることに無意識的な安寧を覚え、喩え用の無い落胆に身を焦がすことも事実であることは偽れない。
「あれ? ひょっとして…ボーカルのアラタ?」
「まじで? 意外と背低いのかな?」
「うわ…かっけえ。やっぱなんやかんやでオーラあんな」
僕のピュアな感想めいた思考を削るのが目的か―――面映ゆくこそばゆい、身の置き場に困るような種類の感想が――恥ずかしさと嬉しさとが同居する言葉が口々に方方から聞こえてくる。
その何とも言えない重い空気に耐えられなくて、首元にだらし無く下がったストールを口元に持ってきてしまう。
そしてはたと、些か唐突に考えて思考する。
純白の――何一つも潔白な一切合切汚れなき女性遍歴の割に、思いの外異性にも人気あんのね僕は。
ならば逆にどうしてモテないんだろうと哀しい物思いを添え物に。
尤も、その理由としては僕自身の抱える問題とか、環境とかタイミングとか様々な要因があったりなかったりするのだろうけど。
それらを畢竟するに、世界が求めているのは僕じゃなくて、あくまでハンマーヘッズのギタボのアラタなんだろうなと自嘲気味な結末に落ち着いた。
世間一般の多数がそれなりに興味があって好意を向けるのはシンガーでソングライターなミュージシャンなんだ。
そのベクトルはミヤモトアラタ個人――ましてや一人の童貞青年を求めてるわけじゃない。事実とは言え、なにこれツラすぎる現実じゃん。
黄色く華やかな声を掛けてくるファンに握手や笑顔で答えながら思う。
この有象無象の中に一人くらい僕の人間性を好きな誰かがいないのかと。
何処の世界にもいる顔ファンとかミーハーな観客はともかく、
僕の思想や哲学をぶつけた楽曲に感情移入するのに、発言者当人の人間性には無関心なのだろうか?
閉じ籠った偏向的な思考が飛躍して、案外美形のモテ人間もこんな気持ちを感じるのかもなと邪推してみたり。
チヤホヤされるが、本人の内面的な部分は褒められない。果てに『それ』が無ければ自分に引力は無いと思い悩んだりとかするのかもしれない。
なんてのは自意識過剰で穿ち過ぎ、唾棄すべき益体も無い妄想だね。思い上がりも甚だしい点もマイナスだわ。僕がモテナイのには何か他に原因があるんだろ。あるだろ多分。あんのかなー?
曖昧に手を振ってファンをやり過ごしてから、逃げる様に楽屋に戻る。
「うーい、ただいま」
適当に放った帰宅の挨拶に応えたのは相棒の連絡事項。
「一時間前だ。そろそろアップしとけよ」
はいよ。プロとして、シンガーとして。
じわじわ来てる系バンドのギタボである存在―――現実と乖離した偶像の産物である『アラタ』として唄うために、気合を入れて
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