#2.5 Pictures(僕の思い出)
そして、身内たるバンドメンバーが全員揃ったので今更ながら、誠に実に。
何とも遅まきながら。
このタイミングで自身と、メンバーの紹介をしておこうと思う。
実に遅いこと請け合いなんだけどね。
まず語り部たる僕の名前は宮元
彼女は常に募集中で、恒久的な愛を求める孤独な旅人だが、冷やかしは決して許さないアーティフィシャルフラワーでは無い、自称ミュージシャン。
そんでもって、好きな異性のタイプは『僕を好きになってくれる女性』と言って憚らない!
何にせよ、親しい人間からはアラタと呼ばれる僕は二十四歳独身。
来春よりメジャーデビュー予定のバンド『ハンマーヘッズ』のギターボーカルで、恥ずかしながら作詞作曲も担当している……。
あれ?
そんなに紹介すること無かったな?
薄っぺらい人間性が特徴なのか? まあその…なんだ、趣味嗜好を含んだその他はその内に。
ということで流れるようにメンバー紹介行きまーす!
まずはドラムアンドコーラス。
僕と共に物語の最初から登場していた長身イケメンの幼馴染。
それが田中悠一。
僕とは違って必要以上にモテまくる。
言っちゃなんだが、地味な名前なのに何故かモテる。担当はドラムなのに…僕は作詞作曲するギタボなのに…。
あれかな髪型かな? デコ出し後ろ結びのサムライスタイルが革命とか進撃とかを望む日本人女子に有効なモテの秘訣なのかな? 多分違う。
醜い嫉妬はさておいて、幼稚園の頃から付き合いのある彼と中二の時に発足したバンドと言うかユニットというか。
中二の夏に彼と二人で作ったグループが『ハンマーヘッズ』。
後にファンからは『ハンズ』なんて、お洒落系ホームセンターみたいな愛称で呼ばれることになるバンド。
発足当時はピアノとギターの二人という奇妙で奇怪な集団であったことを知る人は少ないだろう。
そんなこんなで僕が音楽を始め、今此処にいることが出来るのも悠一のお陰であるのは事実であり、実際否定出来ない部分が多岐に渡り存在するが、長くなるので割愛。番外編でやります(多分)。
続いてはベースの
一見した所、粗暴でワイルドに見える彼との出会いは高校生の時。
時代錯誤的なアナーキズムに満ちたパンクをこよなく愛する彼。
初見で『俺、割とマジでベースやってんだけど、お前ら何か界隈で有名らしいじゃん? ツラ貸せよ』的なアグレッシヴかつスパンキーな言葉を吐いて攻撃的に絡んできたのは忘れ難い、結構鮮烈な記憶である。
ちなみに現在の彼にこの
当人曰く『当時は若く、尖って噛み付きたい年頃だった』とのこと。いやはや人に歴史ありとはこのことである。
彼の黒歴史は当人の心の問題であるので、どうすることも出来ないが、紆余曲折のあれこれを経て彼が加入したことで『ハンマーヘッズ』はバンドの形をどうにか整えることが出来た。マジ感謝。
スリーピースバンドとして再起動である。活動の幅が広がり様々なイベントやコンテストに参加出来るようになった。
そして紹介順も最後、加入順も最後にはなってしまったが、リードギターである
その主人公みたいでイカした名前がコンプレックスと語る彼は大学に入ってから出会った寡黙な男である。
彼の加入には一つの理由がある。
というも当時の『ハンマーヘッズ』は一つの危機に貧していたからだ。
年齢とキャリアを重ね、学外での活動が増えたこともあってか各々の演奏技術も上がり、バンドとして着実にレベルが上がっていた。
僕自身のことで言えば作曲スキルや歌唱力が確かに向上していたと思う。しかし致命的な欠陥が一つ。
僕のギターがまるで上達しないのだ。
曲は作れる、作曲は出来るんだが、演奏できない。自分の曲を歌いながら弾くことが出来なかった。
なんということでしょう。自分の曲を弾けない悲しみ。
もはや僕のギターは『ハンマーヘッズ』の楽曲レベルに追いつけていなかった。作ったのは僕なのに。
やべえどうしよう。どうしようもない。やるしかない。
絶望に打ちひしがれた僕は一級河川沿いに腰掛け、陽気にトランペットを吹くオッサンに混じって、練習に明け暮れた。
そんな折、半ば指定席と化した木製のベンチで自作曲の練習をしていた所、唐突に眼前に出現した痩身のミニマリストに自身の技術をディスられた。
「いい曲だね。でも君のギターとアレンジが少し残念」
その時の僕はと言えば怒りというよりも呆気に取られた。
彼の「ちょっとギター貸して」という言葉にホイホイ従う程に混乱していた。
思考の次は心を奪われた。彼のプレイに惚れ込んだのだ。
ナニコレ? 本当に僕が書いた曲か? 嘘だろ。同じコードで同じギターなのに、演奏者次第でここまで変わるのか?
感嘆の裏側で潮騒めいた血液が加速して、思考のパルスを活性化させる。その果てに築かれる理想の国。僕の思いはそこにある。
「この曲のポテンシャルならコレくらいは楽に表現できる。勝手だけど、参考になれば――」
一万円のアコギを僕に返還しつつの余裕の発言。
「参考にはならない。僕には必要ない」
だから君が弾いてくれと、ギターを受け取りながら勧誘開始。
僕の突然過ぎる無遠慮なスカウト行為に対して返って来たのは妥当で自然な疑問符。
それでも僕は止まれない。もう僕の中では確定事項だ。
「君が弾いた『それ』は僕達のバンドの新曲なんだ。でも僕にそれを弾く能力は無い。だから、君に演奏して欲しい」
僕にはもう見えている。慇懃無礼なミニマリストがリードをし、僕がリズムを重ね唄に集中する青写真が。
目線を縦横無尽にキョドり走らせた後、痩身の彼は重たい口をゆっくりと開いた。
「この曲は…君が書いたの?」
「一応ね。弾けないけど」
会話のレスポンスに独特のリズムがある。テンポを計りかねる。
「ボーカルは?」
「それも僕」
またもや暫しの沈黙。顎に手を当て考えるポーズ。ズレた眼鏡を右手で直しながら問う。
「歌詞は、もうあるの?」
「仮歌程度なら」
そう――
「じゃあ僕がギターを弾くし歌ってよ」
全ては君次第だと微笑む。
「僕がこれを弾く価値があるのか、君に与する意味があるのか。後は君の声次第」
「良いよ。そういうのは嫌いじゃない」
再びギターを剥ぎ取り、クールな外見を裏切るようにエモーショナルな演奏をする彼に僕も全力で答えた。
それはもう、帰宅途中のベリショの女子高校生が足を止めて聞き入る位に全霊で叫んだ。
余談だが、あの時は結構恥ずかしかった。
潤との演奏終了後、涙を流した金髪の年下女子に褒めちぎられて、握手をせがまれた僕の気持ちは照れ臭さで充満していた。
その後の結果は察しの通り。
残りの二人に彼を紹介し、何度かのセッションやミーティングを経て、正式に四人目のメンバーとなった。
加入後の潤の役割としてリードギターは勿論、その他僕の作曲のブラッシュアップを担当してもらうことが多い。
エフェクターを無駄に沢山持っている潤は音の演出に詳しい。僕の野暮ったく拙い曲を、僕の望む方向へ洗練し研いでくれる。頼りになるプロデューサー。多大な感謝を捧ぐ。
これでメンバー紹介は完了なのだけど、思えば感謝してばっかりの人生だ。感謝の積み重ねで本来の自分の姿を見失いそうである。
親に感謝。友達に感謝。仲間に感謝。何だよ、僕…ラッパーかよ。
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