高度にハイコンテクスト化が進んで心象が言語そのものに成り得た近未来で「今年の流行語大賞」を中心に巻き起こる事変を描いた人類滅亡ディストピア

文学テロ

厳重な検閲のなされる電波放送上でのテロを目論み、新たな思考概念の特性を持ち得る言語を産み出し、それを風流させることによって特定のイメージを植え付ける。そして、流行語大賞という言葉の臨海点に辿り着いたとき、それ以降穏やかに消えゆく運命を辿るその言葉が人々に死をもたらす。

テロリストの黒幕は流行後の緩やかな言語の消失によって自己の概念を世界から消された男。__No image彼自身がテロのために造り出した言葉は、個人の過去の記憶、というイメージであった。人とは連続した過去の記憶と現在の状況をもとに自己を作り出している(すなわち自由意思による選択の結果もすべてこれによる)ため、個人のもつ記憶が言葉として明確に形作られ、その言葉の持つイメージに付与された場合、言葉の消失と共に記憶も消えてゆき、結果的に自己の消失を引き起こすことと考えそれを狙っていた。消失した彼を形容する言葉は名前であったために、名前を主軸に彼という存在を形成していた周囲の人々の記憶からは彼に対する大部分の情報が失われたが、彼自身は自らを定義づけるものが名前以外の様々な要素に分割されていたため、名前を失っても自身を失うことはありえなかった。その彼のなかで彼を形成する主軸となっていたのが過去の記憶である。


緩やかな言葉の消失・・・緩やかな言葉の消失とは流行語大賞をピークとしてそれ以降は緩やかにその言語が使用されなくなり、流行語大賞を獲得しなかったほかの言葉にくらべて確定的に言葉の消失が起こり得る現象を指したことば。また臨海点にある言葉をピークスピークスと呼ぶ。


テロリストの目論みとは裏腹に、人々は過去の記憶に依存し、結果的に緩やかな言葉の消失は起こらず、人々は過去の記憶のなかに生き続ける「此処にある亡者」と成り果ててしまう。


緩やかな言葉の消失の原因は


今年の新語!流行語大賞は!!


スクリーンのなかで、奇抜なデザインのギラギラと輝くメガネをかけた胡散臭い男が声高々とお決まりのフレーズを読み上げ、そしてドラムの連打されるSEへと引き継ぎ、その先の言葉を引き延ばして、見る人々の期待感を煽る。毎年繰り返されたこの運びは今日も飽きることなく使われ続けている。

「緩やかな言葉の消失」

流行語大賞の候補に並ぶことはなかったが数年前にそんな言葉が巷で囁かれるのをよく耳にした。流行語大賞の選考基準は応募と

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二分間物語 駄菓子屋 @008

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