峻険
ゼクスルクの膨大なアルマは曇天を突き、
眼前には同じく
足元には、心ここに非ずといった白金と桃李。今は呆然とした白金だが、気を取り直した途端、再び桃李に手をかけないとも限らない。黒き君より桃李を任された以上、彼女を傷つけられるわけにもいかぬ――と判断したゼクスルクは、彼女を五指で掴み上げた。
しかし、それは明らかな空隙。無防備極まる悪手だった。おそらく
迸る閃光は〝白き
――致し方ない、か。
胸部装甲を展開し〝御座〟をせり出す。本来ならば〝主〟たる黒き君が坐すべき〝御座〟だが、事ここに到っては身を護る術のない桃李を護り切るに足る場所は他にない。桃李を胸部から伸びた〝御座〟へと導き――『乗れ』と、短くともはっきりとわかる、不承不承とした声色で石像機の王が告げると、声の主を理解しているのか、桃李は首肯して〝御座〟に坐した。
瞬く間に〝御座〟が収納され、後顧の憂いをなくした〝穢れた
『ウソッ⁉』
「…………ッ、デタラメな!」
『あまり調子に乗らないことだ』
王たる威光を放つゼクスルクの姿は、なるほど魔の時代の覇者に相応しい出で立ちだ。ただ、その威圧の中に桃李を〝御座〟へと導かなければならなかった悔恨の念が微量含まれていたことを、相対する久遠もルードも知りはしなかったが。
「ゼクスルク……?」
泳ぐのは輝く粒子。瞬きを見せるそれは、浮遊するアニマの
『元来ならば、その〝御座〟は相構えてお前ごときが坐することは許されぬ座だ。しかし、黒き君の命に背くことはできん。おとなしく座っておけ』
ゼクスルクの声を呼び水に、唐突に桃李の視界が開けた。普段の自分よりも標高が高い。万象を睥睨できると思わせられたのは、
そして、彼女の瞳にはゼクスルクと相対する久遠の姿も映っていた。黎い花嫁か花弁といった印象の
「〝白き
桃李が初めて眼にする長槍の名を口にしたのは、何もその銘が彼女の知識にあったからではない。映し出された外界情報を補足する形で、槍の銘が浮かび上がってきた故だ。その言語は――神門やルードが眼にしたならば瞠目を隠せなかっただろうが、銀河標準文字だった。とうに太古と呼ぶに相応しい
瞬間。弾けたと紛う程に鋭い穂先が、曇天の幽い光を照り返した。噴水より出づる透明と虹の曖昧色に染まる水飛礫は瞬間に生ずる芸術じみてはいるが、実のところ殺意の飛礫であり、脱魂の咒いが籠められた波濤でもある。一撃の重きよりも疾きの手数を旨とした刺突の群れは、しかし、一手一手が軽いとはいえ容易く捌けるかといえば逆だ。少しでも仕損じれば、翻って必殺足り得る一手へと転じる、巧妙な攻撃。
だが、ゼクスルクも音に聞こえた古強者である。眼前の勇者の槍撃の質を即座に見切り、巨剣を扱っているとは思えぬ程に巧みに暴威の飛沫を掃いていた。剣尖を戦乙女に向け、〝白き
鮮麗な連ね突きもこうなっては形無しだ。誰が思おうか、必殺の――一手が通じぬならば更に重ね、去る頃には存在すら許さぬ槍技が、王に栄光のヴェールを飾るだけに終始するなど。
対手から見れば、悪夢としか思えぬ。巨剣を自らの手足同然に繰り、緻密かつ鮮麗な冴えた剣――他の殆どの樋嘴が、質量と膂力に着目した最大火力を導き出す方程式に終始している中、彼はそれにとどまらずに対手を禦する技を磨き上げた。豪快な力技ではなく、繊細な技巧に訴えかけた――これも〝穢れた
だが――。高速を誇る点の攻撃から、線に転じてはどうか。疾く急所を穿つ刺突も軌道が読まれていれば、避けられやすく捌きやすい。対して、横の攻撃は動きは捉えられやすいものの、一撃の面積は刺突には及ばぬ制圧力を持つ。ましてや、穂先の連射に慣れたゼクスルクであれば、即座に対応はかなわぬだろう。そう、目論んだ勇者は黎い
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