妄執
クワイエットハルディアン。両者を追う猟犬たちがこの街を看過することなど当然なく、金髪の被造子と白い人狼は高度から狂風吹き荒ぶ街を見下ろしていた。
「いきなり再会するのか。早ければもう決着がつくのかな?」
〝光却のサウゼンタイル〟に重なる半透明の翳はジラ・ハドゥのものだ。残酷な笑みに端正な相貌を歪ませているジラに、この街の行く末を慮る心などあるはずもない。むしろ、総てを灰燼と帰するほどの圧倒的な存在を待ち望んでいると言っていい。そこには、請け負っている任務など頭の片隅にすら残っていないように思われた。
「……己たちの受けた任は、龍神神門の神化を促すことだと忘れてはいまいか?」
「うるっさいなァ。龍神神門を死ぬ寸前まで追い込んでやったら、嫌でもそうなるんじゃないの? 勢い余っちゃうかもしれないけどね」
尽きぬ憎悪の源泉は己が最優であり最強であるという、盲目的とさえ言える妄信と矜持だ。遺伝子的に――いわば、
「お前には殺せないさ。絶対に」
「はァ?」
確信を持った
「己でも、三神官にも、メルドリッサだろうとも……
「試してやるよ。奴を
兇相を貼りつかせたジラが、〝光却のサウゼンタイル〟の単眼に覆われた顔面に浮かび上がった。対して、
――場合によっては、彼女をここで投入することになるやもしれんな。
無骨な機械に戒められた銀姿の少女。彼女こそが龍神神門の神化を促す存在であり、鍵でもあるのだ。
「では、好きにしろ」
どちらにせよ、ジラ・ハドゥに龍神神門を仕留めるなど叶わぬ夢。これは、単純な強さでは測れぬ領域だ。彼自身の意思を越えて生き残るという宿命は、
だが、もし。ジラの抱く
「……仮に、龍神神門を
自己の強さを求道する者として、何より同存在の犠牲の上に成り立っている者として、
「当然、その先を。玄天君に成り代わって〝相剋の儀〟を執り行って、紫天君も
その時が来ると確信しているように、合わせ鏡のジラには罅めいた笑みが彫られている。吐いた言葉の危険な意味を解していないかのようで――だからこそ、白い人狼は彼の底に眠る、遍く森羅万象への超越慾求とも言える慾動に偽り無きことを察した。
「
「……へぇ。止めないのかい?」
否、金髪の悪魔は己の危険な思想に自覚的であり、
「ほんの少しだけお前に興味が湧いた。不可能だとは今も変わらぬ見解だが、せいぜい宿命とやらを覆してみるがいい」
「責を取らされるかもよ?」
尽きぬ自信の在り処は何処までも湧いて溢れる、己の
「むしろ、お前が神門卿を
「ふぅん。一匹狼を気取る、気に喰わない奴だと思っていたけど、意外に話せるじゃないか? 少しは好きになれたよ」
「戯れ言は
白い人狼は、先程から宙に浮いていた疑問をあえて口にした。
「仮に――己と事を構えたとして、無事に済むと思っているのならば、甘い考えだと否定させてもらおう。それに、だ。己無しでこの惑星から離脱できるのか?」
「はァん? 蠱毒程度が僕に克せないとでも? それこそ甘い考えだね」
何の保証も無いというのに、彼の口をついた――言葉を発する口が存在しない〝不可視の雷霆ゼギルゼウス〟への表現としてはおかしいが――のは強烈な自負。計り知れぬ自身への妄信は、この〝塔の惑星〟よりも巨大でなおも膨張している。一つの
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