風街
〝比翼の魔杖ビルヘイムフル〟――。そう呼ばれる石像機が眠る街、クワイエットハルディアン。〝魔の時代〟より旧き世界、〝灰の時代〟から生き延びた高殿が林立する街だ。
その、
「ここがクワイエットハルディアンか。ここにウィータを持つ……何とかって一体が眠っているんだろ?」
「〝
ルードが忘れていた名称を久遠が呆れた様子で教える。
「そう、その〝魔石貴族〟。そのビルヘイムフルって強いのか?」
「正直、〝比翼の魔杖ビルヘイムフル〟の本当の強さというのはわからないわ。その外見から察するに遠間からの攻撃を得意としていたのではないか……とは言われているわね」
白金が街の中心に吸えられているのであろう石像機の姿を透かし見るように応える。〝比翼の魔杖ビルヘイムフル〟に限らず、眠りについている石像機の性能については、大地に恩恵を与える規模や外観からでしか推し測るしかできぬ。とはいえ、周囲に肥沃さを与えるアニマの吐水量も、結局は吐水量に応じて性能が高くなる傾向があるというだけに過ぎない。稀少ではあるが、アニマの吐水量が少ないというのに強力な個体の例も存在している。
そう、喩えば
されど、あくまで例外を念頭に置くのは如何にも危険な考えだ。
「アニマの吐水量からすると、そんなに容易い相手ではないと思うわ」
アニマの吐水量が絶対的な基準になり得ず、石像機の性能に完全に比例するものではないとはいえ、指標にはなる。そもそも、〝魔石貴族〟と称されている特別な石像機が――〝眼馬ザルディロス〟に勝るとも劣らぬ面積に恩恵を与える〝比翼の魔杖ビルヘイムフル〟が、禦しやすき相手とは考えられなかった。
「アニマ……ね。一体何なんだろうな」
他の惑星にはみられぬ要素――アニマ。緑の繁殖を促すなど、ただのエネルギーとするには少々理屈が合わぬ。なにか、単純なエネルギーだけではない何かが付随しているとルードは考えていた。
「とにかく、今日のところは〝緑の玉座〟には近づかないでおきましょう」
脳内で考えを巡らせている内に、白金は今後の方針について語っていた。
「そんなにゆっくりしている余裕があるのか?」
久遠の問いかけは当然と言えた。危急しているからこそ、久遠を脅迫してまで
「正直、余裕はないけれどもね。けど、旅で疲弊した身体で魔石貴族に勝てるのかしら? それに、お優しい勇者様の大好きな住民へ避難の触れを出さないといけないでしょう」
「……嫌な言い方」
挑発めいた白金の言葉に、当の〝勇者〟と呼ばれた美女は、顔をしかめてそっぽを向く。白いカリアティードは涼し気な目元をそのままに、しかし稚気の浮かぶ微笑みを返した。
「貴方の物言いが移ったのかもね」
久遠が美顔を赤く染める。気の短めな彼女は、白金の挑発が親しき者に向ける冗談と理解していないようだ。
「ま、まあ、とりあえず今日のところはゆっくり休めるんだからいいじゃないか。俺たちが動くのは明日から! もう地べたに眠るのは飽きたから、そろそろ柔らかい寝床で思う存分眠りたいなぁ? へへへ……」
二人の間に割って入った
「……そうね。なんだかんだで歩きっぱなしだったし。私もベッドで眠りたい」
「では、宿へ行きましょう。その後、私はこの街に避難の触れを出してくるわ」
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