桃季
一方、
しかし、ライダーはMBの持つ気配とは裏腹で、炎を見つめる神門はゼクスルクの声を漫然と聞いていた。
「ルード殿はおそらく人像柱に囚えられています。あの、覚醒の光柱……あれこそ、
「接触……?」
「ええ。本来ならば〝白き
正直、ゼクスルクの言うことは理解はしていない。一つ言えることは、彼が何らかの秘密を知っていて、それがこの惑星イラストリアス4において重大な意味を持っているという一点だ。
「俺はルードを助けるだけだ」
「ええ。心得ています。変異体の覚醒に関わったとなれば、人像柱も手にかけることはありえません。私と戦えるのは変異体のみです。その変異体の戦力を殺ぐなどしようはずがない。確信を持って言えます。ルード殿は生きています」
絶対の自信を持って言い切る青年。眼鏡の向こう側にある虹色の瞳が炎の光にゆらめいている。
「どちらにせよ、私は変異体と戦うことになります。その時にはルード殿を救出する方法があるはず……。いつになるかはわかりませんが、私も変異体も〝世界柱〟を目指しています。遠からず、その時は訪れます」
「……だといいがな」
復讐。追い求めるもののために、神門はこの惑星に来た。プラメテルダ銀河に残された謎の数々。あの正体不明の怪人たちがその一端を担っていると、神門は半ば本能で察していた。追いかければ近づく……そう信じて、巡礼の旅を続けるしかない。だが、この惑星での謎が何処につながるのかは彼自身、全く想像がついていなかった。
「!」
思惟に耽っていると、突然、空が白く染まった。夜闇を遮る
「……人像柱、か」
ゼクスルクがごちる声がやけに耳に残る。またも襲撃か。白光に灼かれた瞳が視力を取り戻す僅かな間が、紅や橙に移ろう斑の万華鏡が像を結ぶまでがやけに長きに感じられた。
しかし。
――攻撃が、来ない?
次第に色を取り戻しつつある中、神門の瞳にやけに主張してくるものがあった。濛々たる灰燼が棚引く中、ひと一人が入れるような
「
秋津に伝わるお
「このまま
そう
あくまで事務的な様子で大剣を振りかぶるゼクスルク。そこには人像柱に見せる嫌悪というよりは、どこか慈悲じみた表情があった。
「待て」
「……? わかりました」
神門の制止の声に往きどころを無くした大剣は、顕現したときと同様に滲む光に包み込まれ、相当の質量を持っていたというのに、跡形もなく消え失せた。
止めた理由は自分でもわからない。生まれる前に可能性を摘まれる様を視たくない……ただ、それ一点だけだったのかもしれぬ。
「生まれます」
「……ん」
瞳も髪と同じ灰桜色。人像柱は誕生の瞬間から既に肉体的に完成しているのか、襲いかかってきた〝白騎士〟とそれほど年格好は変わらない。数理的な美しさは人像柱ならではなのだろうか。その髪色と瞳の色と人にはあり得ぬ整美が、何処か飛海塞城の闇の中で再会した少女の姿を蘇らせる。
そう、一糸たりとも纏わぬ姿に到るまで……。
「…………ッ!」
女性慣れしていない神門は即座に頸を背ける。一方、ゼクスルクにはそんな感情は持ち合わせていないのか、平然とした顔色を微塵も変えていない。しかし、神門の反応自体には思い当たる部分があったようだ。
「…………」
青年が少女へ掌を向けると、瞬間、空間より紡がれる衣服が彼女を包み込んだ。
まるで、はじめから彼女に誂えられていたように、虚空から伸びる絲は絶妙な採寸でもって少女を飾り立てる。先の街――〝眼馬ザルディロス〟が眠っていた街に入る際の衣類もまた、同じ
黒を基調とした、
肌色の責め苦から開放された神門は、衣裳を着ているというのに正視しづらい彼女を視て、再び赤面しそうになる。だが、布の面積が多いが、計算で導き出された艶は心穏やかならざるが、それでも裸体のほうが目の毒だ。ある意味では、最も適切にカリアティードの魅力を引き出す服装を選んだと言えるのだが、ゼクスルクに少々恨めしい気持ちさえ生まれた。
呼気を深くし、浮き足立とうとする心を無理に押さえつけた神門がゼクスルクの様子を窺うと、彼の人像柱に対する態度から予想の範疇であったが、やはり彼女と干渉する気はないようだ。正直、女性と話すことが――というよりも他人と話すこと自体が不得手な神門は内心ため息を吐いたが、ゼクスルクを制止した自分に責があると諦めた。
「……大丈夫か」
結局
「……ん」
差し伸べられた手の意味は理解していたとみえ、少女は神門の手を握った。彼女の握力は、生身の銀河人類が到底及ばない膂力を持つ人像柱とは思えぬほど、弱い。そのまま引き上げるも、身体つき以上に軽く感じる。そして、彼らの様子をゼクスルクは漫然と眺めるのみだ。
「…………俺は龍神神門。こっちは、ゼクスルク」
「…………」
自己紹介を最も苦手なものの一つと挙げられる神門にとって、この簡潔な言葉を吐き出すだけでかなりの労力をつぎ込むこととなった。彼の言葉が指す意味を悟ったとみえ、少女は自らの右手を胸に置いて自らの名をつぶやく。
「……
「
こくり、と首肯する、灰桜色の頭。誕生直後から言葉を解するなど、やはり銀河人類とは異なる。
「……よろしくな」
ぶっきらぼうな物言いの神門は、女性と話す気恥ずかしさから顔を赤く染めている。一流のライディングテクニックからは想像できぬほどの朴訥な性質を、少年は持っていた。兄弟同然に育った幼馴染ならば、この程度のことは自然にこなすのであろうが、女性に声を掛けるだけで赤面する神門に望むのは少々以上に酷と言える。
「……任せる」
不器用であると自分を認識している神門は、卑怯と自覚しながらもゼクスルクへと振る。当然、自分が命じれば彼は否めないと理解した上で……だ。
「黒き君……ッ、承知いたしました」
流石に想像の埒外だったとみえ、眼を見張ったものの、案の定、ゼクスルクは表情に人像柱への不快感を微量ながら貼り付けていたが、不平を飲み込んで了承はした。
「私はゼクスルクだ。お前の身の回りについて仰せつかった」
不承不承ながらも引き受けたとなれば無視もできず、眼鏡を引き上げながら青年は少女へと言葉をかける。長身の青年は少女からは見上げる程に高く、峰の麓の丘に等しい。
「ゼクスルク……?」
「そうだ。よろしくとは言わんがな」
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