小烏丸
コンテナ内部へと入った神門は、万一のために用意していたMBに火を入れる。主からの下知を受けたMBは平穏な眠りに別れを告げて、今、戦いの旗の元で立ち上がろうとしていた。
ヘルメットと網膜投影型ヘッドギアをかぶった神門からは相貌が隠れ、その感情は一切見えない。
自己診断プログラムが立ち上がり、車体の簡略図と共に、各部の診断状況がプログレスバーで示される。左から右へとバーが伸び、終端で異常なしを顕す緑色へと変化する。診断結果、
コンテナの闇を四角く切り取った灰色の空が広がる大地。そこへ向けて、歩を進めさせる。曇天が支配する惑星の大地を、今、戦闘兵器たるMBの脚が踏んだ。
MB――マニピュレータ・バイクと呼ばれる、銀河人類文明で広く普及している三~四メートル級の多脚式歩兵型戦闘車輛である。安価かつ安定した陸戦戦力――特に都市戦で真価を発揮する――をフリーランスの神門が選んだのは、必然とさえ言えた。
黎い車体は艶なす
MB、小烏丸。神州秋津は叢雲重工製造のMBだ。秋津製MBには独自のレギュレーションが存在し、その一つが
「…………」
「…………」
行く手の空は旋回する雲が不気味に手招いているように見える。どこかで低く、何かが唸っているような音が聴こえてきた。しかし、怖じてばかりではいられぬ。ルードを救出することこそが、我が目的。幸い、ルードの生体モニターは彼の身に危険が――今はまだという但し書きはつくものの――差し迫っていないことを示していた。
しかし、安穏としていられる状況でないことも事実。彼女らは、正体さえ定かならぬ、それだけで人の身体能力を遥かに超える〝怪物〟なのだ。それに……危険分子が彼女たちだけとは限らないのだ。
待ち受けるものの不吉な予感を神門は感じていた。
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