犍陀多
「へえ、なかなか面白いことになってるじゃあないか」
惑星イラストリアス4の軌道上……トレジャー号と並ぶ形で
完璧に整えられた空調は、
白く華美な衣裳を纏った女性二人――龍神神門の乗るEMP’sを圧倒し、その翳で
「彼女たちは何者なのでしょう」
黒い
「ジラさん、貴方が彼女たちと戦ったとしたら……勝てますか?」
「……侮辱しているのかな、僕を」
EMP’sに乗った龍神神門を圧していたとはいえ、実力で彼に勝るジラが負ける理由がない。そもそも、龍神神門の実力もあの程度ではない。戦闘目的の兵器に搭乗していたとすれば彼女らを容易く斃してのけた、とジラは確信さえしていた。
「……わかりましたわ」
ジラの回答は彼女の予想通りだったとみえ、アリアステラは地上の様子に眼を移す。脳内チップが見せる
「とにかく、彼女達が何者なのか、何を目的としているのかが不明です。我々も降下するべきでしょう」
「……では、己の出番というわけだな」
その場にいたというのに、我関せずを決め込んでいた
「そうだね。どちらにせよ、確実な〝口封じ〟は必要だし、僕らの目的――〝
「……〝口封じ〟?」
悪魔の申し子がうそぶいた不穏当な単語に怪訝な表情を見せるアリアステラ。しかし、ジラは彼女の様子を封殺して、話を進める。
「
「ああ」
部屋から立ち去るジラ。自動扉が開閉する密やかな音色が、室内を満たす。
「では、己も征く」
極めて事務的に告げて、
残された栗色の髪の少女は、窓の外の宇宙空間へと眼を向ける。底に渦巻く灰がわだかまった、黒い広漠とした空間――そのさなかで煌めく宝石の星々。アリアステラには、この光景が何処か世界の縮図のように思えた。
惑星イラストリアス4――結社の呼ぶところの〝塔の惑星〟。この灰色の
* * *
コンテナ内部へと入った神門は、万一のために用意していたMBに火を入れる。主からの下知を受けたMBは平穏な眠りに別れを告げて、今、戦いの旗の元で立ち上がろうとしていた。
ヘルメットと網膜投影型ヘッドギアをかぶった神門からは相貌が隠れ、その感情は一切見えない。
自己診断プログラムが立ち上がり、車体の簡略図と共に、各部の診断状況がプログレスバーで示される。左から右へとバーが伸び、終端で異常なしを顕す緑色へと変化する。診断結果、
コンテナの闇を四角く切り取った灰色の空が広がる大地。そこへ向けて、歩を進めさせる。曇天が支配する惑星の大地を、今、戦闘兵器たるMBの脚が踏んだ。
MB――マニピュレータ・バイクと呼ばれる、銀河人類文明で広く普及している三~四メートル級の多脚式歩兵型戦闘車輛である。安価かつ安定した陸戦戦力――特に都市戦で真価を発揮する――をフリーランスの神門が選んだのは、必然とさえ言えた。
黎い車体は艶なす
MB、小烏丸。神州秋津は叢雲重工製造のMBだ。秋津製MBには独自のレギュレーションが存在し、その一つが
「…………」
「…………」
行く手の空は旋回する雲が不気味に手招いているように見える。どこかで低く、何かが唸っているような音が聴こえてきた。しかし、怖じてばかりではいられぬ。ルードを救出することこそが、我が目的。幸い、ルードの生体モニターは彼の身に危険が――今はまだという但し書きはつくものの――差し迫っていないことを示していた。
しかし、安穏としていられる状況でないことも事実。彼女らは、正体さえ定かならぬ、それだけで人の身体能力を遥かに超える〝怪物〟なのだ。それに……危険分子が彼女たちだけとは限らないのだ。
待ち受けるものの不吉な予感を神門は感じていた。
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