悪喰
「では、俺と助手がまず降下、その後にそちらの調査班が降下を始める……ということでよろしいですか?」
「ええ、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。じゃあ、準備整いましたら連絡します」
大まかな打ち合わせが終わり、トレジャー号へと戻ろうとするルードにアリアステラは声をかける。
「お待ちください」
「……?」
振り返った
「あなたの助手には依頼主の素性は一切伝えないという条件は覚えていますか?」
「? ええ、勿論」
そう、護衛兼助手を雇う旨を伝えた折に、アリアステラは一つ条件をつけていた。それが、依頼主の情報はあくまでルード一人が所持し、たとえ助手であっても他言はしないこと――条件の理由は教えてはもらえず、訝しいものを感じざるを得なかったが、世の中には自身の存在を出来得る限り秘匿したいという富裕層もいることを心得ていたルードは、それ以上の質問を控えていたのだ。
「それならいいです。くれぐれも我々のことは……」
「わかりましたよ。お名前も何もかも伝えていませんよ。彼が知っているのは、依頼主がこの宇宙艇に乗っている……それだけです」
踵を返したルードの背中を眺めながら、ジラがギラつく笑みを浮かべる。
「気負っているな。それほど、龍神神門が恐ろしいか?」
肉体に直接打ち込んだかのような白い鎧を着た男。否、彼の場合、これこそが肌であり、外骨格でもあるのだ。
「……は? ……面白い冗談だね、
「……!」
よほど彼の言葉が癇に障ったとみえ、獣笑をそのままにジラは仲間であるはずの
その尋常ならざる場の変化に口を挟もうとしたアリアステラを
「では、教えてもらおう。必要のない殺気を振り撒いて、
「普段口数が少ないくせに、ここぞとばかりに囀るじゃないかッ」
ジラの相貌の中心から光が放たれる。鮮烈な閃光は当然、眼を射る程度では済まされぬ。強烈な光にはそれに見合う熱量が籠められ、人ひとりなど容易に溶解せしめる威力があった。これこそ、〝光却のサウゼンタイル〟と彼が呼ぶ、彼が
だが……。
破滅光は白い鎧の男を滅することはなかった。豪熱を伴とした光線は、しかし
一線を踏み越えたことで両者の気配が濃密さを増していく。過密とさえ言える殺気に満ち満ちた空間が悲鳴を上げる音か、耳鳴りに似た甲高い絶叫がアリアステラの鼓膜を揺らす。より一層大気が緊迫し、引き絞られた弓弦の緊張へと至ろうとしたとき、金髪の少年が口を開いた。
「……じゃあさ、証明してあげるよ。この僕こそが、〝相克の儀〟に真に相応しい存在だと。……龍神神門を
粘つく視線を
「狂犬だな。己も似たようなものだが」
「…………
「…………」
アリアステラの声に、白き甲冑の男は先程光線を払い除けた左拳が溶解している事実に気がついた。ひとたび意識すると灼痛が存在を主張していく。肉が爛れ、骨にまで達した灼熱の名残りは、彼の左拳だったものを黒い
「!」
息を呑む声から察するに、彼女はそれを知らされていなかったのだろう。
コールタールじみた黒い粘性が傷口から溢れ、盛り上がって次第に五指を象どっていく。例えるなら溶けた五指を逆巻きに見るが如き、不自然極まる
「まさか、貴方は……」
秒にして二、三。瀝青が完全な五指の輪郭を描くと、表層を撫でる描線が白い装甲を映し出す。調子を確かめるように
「そのまさかだ」
それだけを言い残し、黒い軍用
アリアステラは彼の後ろ姿を見送りながら、得心もしていた。なるほど、確かにこのイラストリアス4――結社が呼ぶところの〝塔の惑星〟において、彼以上の適任はいない。幾ら
* * *
トレジャー号格納庫――。EMP’sの調整を終えた神門は、刀の手入れをしていた。流石に実用本位の宇宙艇では、格納庫は必要最低限の照明しか用意されていない。仄暗い庫内で抜かれた秋津刀は、
ふと、己の双眸を閉じ込めた
得も言われぬ感覚だが、自分が目指す目的に着々と近づいている予感を……確かに神門は感じていた。
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