吝嗇

「えぇ~! なんで、これだけなんですか、セルジオさん!」


 惑星イラエ23のサルベージからちょうど一日経った頃、ルードは顧客に承服しかねると訴えていた。


「これだけの稀少資源なんですから、あと五〇は固いでしょう!」

「お前さん、幾ら何でもそれは吹っかけ過ぎカモ」


 ルードと黒壇の机を挟んで相対しているのは、イラエ23でのサルベージのクライアントである。サルベージ協会の重鎮の一人でもあるが、かなりの吝嗇家との噂は嘘ではなかったらしく、資源買い取りの話になった途端、査定額の値切りを始めたのだ。


「こんなんじゃ、経費差っ引いたら生活費とちょっとの小遣い程度しか残りませんよ! せっかく新しい浮遊推力二輪車スラストバイク買おうとしてたのに!」


 そうは言うものの、実際には経費を引いたとしても、セルジオが提示した金額は事前の取り決めよりは安いが、小遣い程度というには額は多いはずなのだが。


「ちょっとの小遣いって、お前さんどれだけ散財しているのカモ。しかしだなぁ、儂もこれ以上は出せんカモ」


 大男のわりにかわいらしい声をしたセルジオは、しかし断固として契約履行を拒む。自身が惑星潜りサルベージャーに強い影響力を持っているという自負から来るのだろうが、それにしても重鎮が取る態度としてはあまりにも小さすぎたのも事実。


「セルジオさん。それじゃ契約違反ってことで、それなりの話ができるところで話し合いましょうか」


 契約不履行を盾に法的手続きを仄めかすルードだが、実のところ本気ではない。そもそも、財力的にフリーの惑星潜りサルベージャーと協会に名を連ねる男……争いになればどちらに軍配が上がるのかは火を見るよりも明らかである。だが、少年はセルジオという男のもう一つの側面を利用しようとしていた。


「そんな面倒なことはごめんカモ!」


 丸々と太った姿から推察できてはいたが、セルジオはこれも巷間で聞いていた通り面倒を非常に嫌う性格をしていた。財力に物を言わせてルードを叩き潰すこともできたろうが、資源買い取りで値切る吝嗇振りと面倒臭がりの両面から、大男は唸る。


「……わかった。では、一つ仕事を紹介するカモ」

「また、金額を値切るつもりじゃないでしょうね……?」


 すでに一度、値段を引き下げられたとあっては、二度目がないとは断言できない。ルードの大男を見る懐疑の視線も当然といえば当然のものだ。


「安心してもいいカモ。今回は仕事の紹介だけで。金銭的なことは直接クライアントとやり取りしていいカモ。クライアントと連絡するから、明日この時間に来るカモ」


 つまり、セルジオはクライアントから紹介料をせしめるということらしい。だが、値段の交渉はクライアントと相談できるという部分は大きい。こういった紹介された仕事は、往々として中抜きが横行するので、直接クライアントと金額の話ができるケースは珍しく、そしてありがたい。


「なんで、そんなおいしい話、俺に紹介してくれるんです? 罪滅ぼしにしては破格すぎるでしょ」


 しかし、先程、彼の吝嗇家の噂が裏付けられたばかりとあっては、ルードはこのおいしいヽヽヽヽ話に別の側面があるのではないか、と邪推する。


「な、なんにもないカモ。ただ、子飼いの惑星潜りサルベージャーは別の大仕事で出払っているし、それなりの腕前が無けりゃ危なそうな仕事だから、お前に紹介するだけカモ」

「それならいいんですけど、嘘はないでしょうね?」

「ないカモ。むしろ、払いのいいクライアントだカモ、嫌ならいいカモ」


 少年は願ってもない仕事の話に唸る。即決したいところだが、どうにも裏があるような気がする。この吝嗇家どケチ惑星潜りサルベージャーの人数が揃わない程度で、金払いのいい依頼者からの仕事を人に譲るだろうか……。


「わかりました。もちろん、報酬の件で見合わなければ断ってもいいんですよね?」

「そんなことにはならんと思うが、それでもいいカモ」


 やけに自信がある様子の大男だが、ルードとしては最悪の際の逃げ道を確保できる段階で、それなりに信用のおけるクライアントなのだろうと判断した。


「では、明日、ここに伺います」


 久々の大口となるかもしれない依頼に胸を弾ませて、ルードが退室する様子を眺めるセルジオの目は、どこか冷たく沈んでいた。


「そりゃ、それなりに積んでくるカモ。お前さんの生命の値段だカモから……」

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