銃才

「撃ったことがあるのか?」

「ああ、十年くらいけっこう前にな」


 息をついて銃を下ろしたオリヴェイラは銃を神門へと返そうとしたが、神門は受け取らない。


「そこまでして、みさおを立てなくてもいいと思うがな」

「え?」

「権能がない奴が権能があるように振る舞っても、生命を落とすだけだ」

「どういう意味だ?」


 神門の発言の意図が見えないオリヴェイラは首を傾げながら問うたが、その答えは思わぬところから与えられた。


「つまり、あれじゃ。無権能者が、権能者みたいに剣や矢にこだわって戦う理由はないってことじゃろ」


 いつの間に起床していたのか、アラカムが二人を見下ろすように言った。神門に驚いた様子がないことから、彼は元より気がついていたらしい。となると、オリヴェイラが銃を構えて集中していた時から、近くにいたのかもしれぬ。彼なりに噛み砕いた意訳だったが、伝えたい事自体は過不足無く伝わっているとみえ、神門は黙したままだ。


「いや、王族が率先して戒律を破っちゃ――」

「そうでもない」


 苦笑いで応えるオリヴェイラを制したのは神門だ。


「マルディアール教典グロリア書一二章二節『与えられた権威を胸に抱く、あなたはそれ以上の武威と火で制する暴威を以って獣を傷つけることなかれ。あなたの権威はそのためにあるのだから』……確か、この『権威』は権能、『火で制する暴威』は銃火器を顕しているんだったな?」


 マルディアール教とはバラージ王国の国教となっている宗教であり、その紋章は王衛隊にも――当然キングダムガードにも採用されている。グロリア書とは、サダルメリクが首に下げている紋章にもなっている水と戒律を司る女神グロリアの言葉を記したとされる教典だ。


「ああ、如何にもその通りじゃ」


 オリヴェイラより先にアラカムが答えた。

 神門のような外様の人間がMBや銃火器を扱える理由。国教で定められている範囲外――つまり惑星外の権能をもたぬ人間が、制限があるとはいえ近代兵器の恩恵をあずかれるのは、グロリア書のこの一節があったればこそだ。


「王位継承権が無くなったとはいえ、王族が銃火器を使えば世論が――」

「充分な装備なく王族を死なせるよりはいいと思うがな」


 むべなく言い放つ神門。追い討ちをかけるようにアラカムが続く。


「然り。じゃからこそ、お主に限ってMB搭乗が解禁されていたんじゃろうて」

「……」

「王位継承権がないならなおさら、じゃと儂は思うがの」


 反駁はんばくの言葉が思いつかず、オリヴェイラは沈黙してしまった。


「それはやる。……お前はそっちの方が才能がある」


 話は終わりと、神門は立ち上がり――最後に付け加えた。


「かなり前に扱っていてそれほど構えが安定しているなんて天才的だ」

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