勧誘

 近衛隊キングダムガードは王室麾下の直属護衛部隊である。


 主な任務は護衛だがそれだけにとどまらず、直下部隊として作戦行動には仕える王族の命令以外の命令系統はもたず、王衛隊に所属しているが独立部隊としての性質ももつ。隊員数は六名までとされ、基本的に王衛隊またはバラージ軍から王族の指名で加入――当然拒否権は存在するが――される。


 王族の数だけキングダムガードが存在し、編成は護衛対象の王族の性質により変化する。これは王族が『王権・勅令』をもつことを前提とされている故で、その能力の性格に適合させているが故だ。

 例えば先王のように近距離での直接攻撃に長けている場合はその援護を行える猟兵が多くなり、現王キルシュタインのように遠距離への牽制に長けた王権ならばそれを援護射撃として歩兵が突貫する、といったように。

 また、その数も対象の王族によってかなり異なり、先王ヴァレンタイン二世は定員数限界の六名を編成していたが、現王キルシュタインに至っては現ラミナス家当主であるサダルメリクの父ただ一名のみとなっている。


 近衛隊の説明と川のせせらぎを聞きながら、神門は河川に映った溶けそうな街の灯を横目で見つめている。茶店を後にし、今、彼は旧市街の中央を流れるバランジ河の"クリーフ"と呼ばれる舟に揺られていた。

 クリーフは自動化されていないかいでこぐ人力舟で、急速な都市化に負けじと古雅の風情を今に伝えている。向かいにはオリヴェイラとカウスメディアと名乗った金髪の少年、横には船着場から合流したサダルメリクが若干窮屈そうに座っている。


 どうやら、サダルメリクとは船着場で待ち合わせていたらしい。元々快闊な人柄なのか、昨夜の一件から彼は既に友人のように気さくな雰囲気で神門に接してきている。

 神門としては、こんな気を許すのが早い男が護衛に向いているとは到底思えぬのだが、こう見えて情に流されずに人を処断できるたちであるかもしれぬ。


「――で、どうだい? 一緒にやっていかない?」


 カウスメディアが茶店に引き続いて勧誘を続ける。


 今、彼らがクリーフに揺られているのは、カウスメディアの不用意な発言が原因である。


 彼は会話の内容の危うさに気づいているのかいないのか。軽い口ぶりだが、いくらオリヴェイラ自身が無権能者であろうと、この惑星全土でも有数のVIPである事実は変わらぬ。その護衛の勧誘を――誰の耳目に触れないとも限らぬ街中、しかも人がいる茶店で行ったとは――。


 流石に調子に乗ったとすぐに気がついたのか、カウスメディアは「あっ」と息を漏らし、河岸かしを変えようと茶店を出たのだ。その際のカウスメディアを見つめるオリヴェイラの視線が少々冷たかったのが印象的だった。


 神門はちらりと船頭へと視線を向けた。クリーフの船頭は王家の関係者なのか、彼らの会話内容に耳をすませることなく、ただ操船に注視している。


「盗聴の心配ならいらねーよ。既に、装置類が仕掛けられていないことは調査済だ」


 神門の思考を先取りしたサダルメリクは笑って言った。大柄な彼にはクリーフは狭すぎ、笑みに若干のぎこちなさが含まれているのは致し方ないところだろう。


「まあ、カウスの馬鹿が口を滑らしたせいで、あわてて舟を用意したんだがな――」


 じろりと視線を向けられたカウスメディアはふくれている。


「なんだよ、自分だってよくとちってるくせに……」

「まあ、確かにな」


 他人事のようなオリヴェイラの一言に二人が声を揃えた。


『いや、君が言うか?言っちゃう?


 彼らは和気藹々と、友人同士のような雰囲気を生み出している。およそ、王族とその護衛が生み出す空気ではない。


「昨日、ジャローマにやられて気絶って喰われそうになったのは誰でしたっけ?」

「待てって言ってるのに突っ込んで返り討ちになったのは誰だっけか?」


 異口同音に昨日の失態を攻められ、オリヴェイラは戸惑ったような顔で「え~~~っ」と声を上げた。


「そもそも、俺を護るのがキングダムガードの仕事だし……」


 反論のつぶやきは二人にむべもなく切り捨てられた。


「調子乗り」

「考えなし」

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