侵入
同時刻――。
先日、玄天街のテロリストの侵入を許した青龍門はその堅牢な門扉の一部が破壊された事もあり、
警備を固めるのは
当然、彼らが任に着いてから近づく者は一人としていなかった。
脳内チップによる情報同期により、上空で戦闘が開始された事を居ながらにして知った彼らは、気を引き締めて警戒に臨む。混乱に乗じて侵入者が無いとは限らぬ。
むしろ、上空での花火を陽動にして、地上に戦力が投下される事も充分にありうる。
――と、突然、情報同期が不具合を起こしたのか、情報の転送速度が極端に落ちた。
「!? なんだ?」
「リンクが途絶えた?」
「サイバー攻撃か?」
訝しんだ警備兵がどよめき始めたのを見、警備隊長が声を張り上げた。
「混乱するな。我々は此処を守り抜く事を考えていればいい! 三分
警備兵にしては過剰な装備も許可されている彼らだ。
多少、情報リンクに問題があろうとも、この場所を警護するだけならば充分に対処できる。
警備隊長の自信を
そこにつけ込むものは獲物の機微を嗅ぎ分け、密やかに忍び寄り嵐のように襲い来るもの。この時、彼らを包む大気の色が変化した事に気づいた者が、はたしていたのかどうか。
「――?」
最前線を見回っていた警備兵は辺りを見回していると、突然、自分の視界が幾ら首を回しても変化しない事に気づいた。
ちょうど他の警備兵から死角になる、ほんの僅かな、彼の歩行速度からすると時間にして一秒にも満たずに通り過ぎる位置。そこを狙い澄まし、本人が気づかぬほど鮮やかに斬首に処されたのだ。
本来ならば首を斬られた段階で、情報リンクされた他の警備兵の知るところとなるのだが、哀れなことに現在の情報から隔離された状況では彼の死を
「隊長、そろそろ三分になりますので、端末に向かいます」
「よし、行って来い」
先ほど指示を受けた警備兵が数ブロック先にある端末に向かった。
普段、人が歩きまわるように作られていない場所故、辺りは暗闇に支配されている。
視覚野を
しばらく進むと、
端末にアクセス、どうやら、この辺一帯の端末も不具合を起こしているらしく、情報の閲覧はある程度可能だが、こちらから情報を送信する事が出来ないらしい。
どうにも不自然な状況に、外部からのクライムハックを受けているのではないか、という疑惑が更に重くのしかかってくる。
――隊長に本部まで一度、直接確認を取る事を進言した方がいいか?
そう考えつつ、何はともあれ持ち場に戻った彼を待っていたのは、
――一体、どれだけの数の敵がこんな事を……。
持ち場を離れていた時間を鑑みても、彼に気づかせる事なくこれだけの人数を、しかもMBに至るまで破壊せしめるとは悪い冗談としか思えない。
だが、隊長の――人工心臓を抜き取られた遺骸を見て、彼はこれが現実の光景だと改めて認識し、義体だというのに背筋が凍る感覚を味わった。
「ッ?」
普段なら気にする事もない、何かが落ちる軽い音が――
ぎぎぎぎぎぃぃぃぃ……。
聴覚に喰い込む耳障りな音が大気を震わせた。
方向は背後、数メートル。
そこまで瞬時に解析された情報が視覚化されて表示されるも、彼は何故か即座に振り向けない。振り向いてしまえば
しかし、不明なものの正体を確かめようとする人の本能に逆らえず、錆の切れたぎこちなさで振り向いてしまった。
補正された視覚は背後にうずくまる男の姿を映した。墨色の血
音の正体は、爪に引き裂かれた床面の悲鳴。自身を認めた事を知ってか、再び爪が床面の肌を痛めつける。
「アッハァ!」
やおら顔を上げたそれの瞳が蒼い鬼火に燃えて――刹那、強化された神経が迫る死神の姿を認めるも
意識の伝達速度を上回る速度で襲い来た襲撃者は、先ほど床面を虐めた爪を警備兵の胸部に突き立てると、人工心臓を奪い取った。
「え?」
あまりの出来事に理解が追いつくより先に、そっと頭に手を乗せられると過剰な圧力に圧し潰され、彼の耐衝撃加工された筈の頭蓋は
襲撃者は奪いとった人工心臓に爪を立てる。血管に喰い込んだ爪が内部の義血を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます