対決
南側の大通りでは神門が
纏った鎧で弾丸の驟雨を受け止め、接近戦を挑んでくるものには大質量の車体を武器にして体当たりで粉砕、射撃戦では武器庫さながらの兵装で焼き尽くす。時折
そして、遂に終点――大仙楼へと到達した。
南側昇降口から顕れるMBと
だが、いくら高威力であっても弱点は存在する。ステークで固定しなければ、受け止めきれない反動の強さ。そして装弾数の少なさだ。
三発装填していた弾丸は、先程の攻城槌の一撃で使い果たしてしまった。爆砕ボルトでデッドウェイトとなったカノン砲を、即座に切り離す。
エリナが組んだ火器統制プログラムは順調に走っており、神門は残弾数と照準補正、銃身の状態がつぶさに見て取れる。
既に全体装弾数の過半数を消費している。かなりの弾数を持ち込んだガトリングはまだ余裕があるが、ミサイルポッドに至っては既に撃ち尽くして、切り離した後だ。
カノン砲の鉄槌を免れたMBと
MBにはグレネード、
その手には長大な銃身に威力の程を誇る対物ライフル。過剰な装甲板で守られた神門のサイクロップスだとて、流石に至近距離でこれを撃ち込まれてはひとたまりもない。
ならばと刹那の判断でホバーブレイドを全開にし、爆発的加速でもってこれを轢く。流石に、ここまでの加速は読み切れなかったのだろう。
当然だ。軽量級とはいえピクシーを撥ね飛ばせるほどの暴虐的な車重だ。如何な重
だが、彼の行動により弾幕に切れ間が生じた。
最後に残ったケンタウロスが銃煙の彼方から食らいつく。
ケンタウロスが右腕に装備されたランスバンカーを楯にして迫る。あのランスが狙い通り火薬により押し出された時、サイクロップスの装甲を悉くに貫通し、こちらの命運が尽きるのだ。
まざまざとランスに満ち満ちてくる殺気。片脚のホバーブレイドを開放、微妙な角度を付けつつ跳ね上がった
だが、ランスバンカーにとって装甲の僅かな抵抗が命運を分かった。
微妙な角度を付けて跳ね上げた膝部装甲、更にそれが帯びていた丸み。二つの要因が装甲を貫通されつつも突貫のベクトルを逸らしたのだ。
ベクトルを狂わされたランスの剣尖は腹部装甲を削ったが、肉厚を突破する事叶わず空を掻いた。もはや互いの装甲が擦過する無距離の間合いで、神門は動いた。
「――オオッ!」
鐙を蹴り踏み、ホバーブレイドを全開放。増加した自重にケンタウロスの車重を加えたにも関らず、ホバーブレイドは舗道に削り削られつつ、四条に重なる火花の軌跡を描き突進した。ケンタウロスを楯にしたサイクロップスは今、一つの塊となり昇降口まで一息に駆け抜ける。
カノン砲で大穴の空いた門扉を通過、そのまま突き当たりの壁にしたたかぶつかった。突進による衝撃の殆どを押し付けられた四脚MBは、壁とサイクロップスに圧縮され沈黙した。
「はぁはぁ……」
ようやく大仙楼内部へ侵入した神門は、身体が欲するまま酸素を取り入れる。耳奥で心臓の鼓動が早鐘の勢いで聞こえる。
体温調整はしているはずだが、汗が止まらない。何割が本当の汗で、何割が冷や汗なのか、入り混じった汗はもはや神門本人でさえ判別できない。
これまでの戦闘が激戦の連続であった裏付けに、甲冑のそこらかしこが傷だらけだ。もし、増加装甲無しで戦いに挑んでいたのであればとうの昔に死んでいるだろう。それほどまでに、今宵は長く、そして苛烈だ。
一階フロアは電灯が落とされ、差し込んでくる
二階が吹き抜けとなっており、MBも入れるような二つに並んだエレベーターがあり、一つは四〇階、もう一つは二階で止まっていた。
遠雷のような銃声が時折轟き、上階で戦闘が行われている事を物語っている。
十秒だけ神門は深呼吸し、更なる戦闘に備え……ようとした矢先。
――カン!
彼方から一発の銃弾が飛来し、グレネードランチャーの銃身を曲げた。
「――!」
脊髄反射でグレネードランチャーを切り離しつつ、更なる狙撃を避けるため、まずは身近な物陰目指し、遮二無二にホバーダッシュを敢行。
寸毫の際どさで足元の床面が間欠泉のように弾けた。おそらく対物ライフルでの狙撃であろう。通常ならば、狙撃でこの分厚い鉄塊を突破するなど不可能と言えるのだが……。
不意を突かれたとはいえ、最初の一発に、神門は隠しようのない戦慄を覚えた。
グレネードランチャーの銃身の最も脆い箇所を、正確に撃ち込まれたのだ。二発目で、狙撃地点の見当は掴んだが、そこからだとグレネードランチャーの銃身の殆どは装甲の陰に隠れてしまっていたはずだ。
僅かな間断を狙い澄ました、まさに魔弾の狙撃といえよう。
更に、二発目の銃弾は、一瞬でも行動が遅れていればホバーブレイドを破壊していた。狙いの正確さは言わずもがな、その照準速度。
――恐ろしい奴ッ!
神門は物陰に潜むと、暗視モードに切り替えたカメラアイで射手を探ったところで、更なる衝撃に襲われた。
――MB!
蒼い車体を義血の墨で濡らしたMBの姿があった。射手は前面装甲を開放させたMBから、対物ライフルでの狙撃を行っていたのだ。
更に、
「ハハッ。なァァんだァ。全然大したことないじゃないか」
仄暗い玄関フロアに謳うような少年の声が響き渡った。彼の調べにどこか不吉めいた何かを感じるのは、声色の場違いな緩さ故だろうか。
神門の身体に刻まれた行動は迅速だった。
戯言で己をひけらかすなど、度し難い愚か者だ。生を賭けているのならば、一つの言葉よりも一発の銃弾こそが必要だ。
神門の身体はその事を雄弁に語っていた。
物陰から身を乗り出すと同時、繰り出した
だが、
機械装置の如き反射速度だ。オドナータは翻りつつも前面装甲を閉ざすと、左腕部のマシンキャノンを撃ち放す。
反動で暴れる照準を抑えつけるというよりは導くように、着弾点は収束している。
右肩の鋲留めした装甲と装甲の隙間。集中して連射される弾丸の勢いに、装甲板が負け始め、ぎしりぎしと破滅の音を響かせる。
――剥がされる!
神門が直感した瞬間、遂に銃弾の杭打ちに屈した右肩の装甲板が捩れて、床面に倒れ伏した。
だが――神門も危機の中感嘆しているばかりではない。物陰で潜んでいようとも、いずれは捉えられる。左肩装甲を楯に、ショルダータックルの要領で肉食昆虫じみたMBへ突進する。
――奴のマシンキャノン。連射性能と本人の狙いは確かだが、威力は然程でもない。ならば!
マシンキャノンの精緻な射撃に剥がされていく左肩装甲。だが、それ以外の箇所は毒牙に晒される事なく、虚実入り交じった動きで距離を詰める。神門が看破した通りに、オドナータの火器は強力なものではなかった。
神門のサイクロップスを押し留めるだけの火力はない。左肩装甲を犠牲にしながら、オドナータとサイクロップスの距離が近づく。
だが、神門は悟るべきだったのだ。何故、オドナータの火器に単純な威力を求められていないのか。
左肩装甲が集中弾雨の圧力に
捉えた――と、神門が確信した刹那。左に右にと柳のゆらめきを見せていたオドナータが、突然、
目に焼き付く、下から掬い上げる軌道で繰り出されるクロウバイトからこぼれ出る妖光。
頭部から胸部にかけてを略奪するかのようで――神門は咄嗟の判断でクロウバイトの驚異を左腕で庇った。クロウバイトは、左腕の回転式機関砲を捕食するかのように引き千切った。
だが、退く事は成すすべもなく死を待つ事と同義だ。
何故なら、回転式機関砲を失った今、サイクロップスに銃火器は存在しない。距離を開ければ、逃げ惑う事しかできない。
そして、目の前の蒼いMBがそれを許すわけがない。ならば――この距離を維持する方が勝機がある。
死地に飛び込んだまま、サイクロップスはオドナータの左脇へと逃れると膝蹴りを叩き込む。
蒼いMBは右旋回しつつクロウバイトを繰り出すと見せかけ、逆に急速に左旋回し右肘装甲をサイクロップスの胸部へと叩きつけた。胸部装甲は
エルボーアタックの衝撃に耐えながら、左肩のワイヤーウインチを撃ち出す。
予測したのか、単純に反射したのか。オドナータの次なる動きで狙いが逸らされ――
動くオドナータのマシンキャノンを
「ハハッ、アハハハハッ!」
暴食を行いながら、機械昆虫は笑っていた。怖気の走る哄笑を聞きつつ、神門は起死回生を狙うべく必死にサイクロップスを駆っていた。
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