鬼笑
大仙楼の社長室で豪奢なソファーに身を沈めながら、
「お呼びですか、メルドリッサ査察官」
王の背後で、少年と思しき声が響いた。
この少年、
「貴公には、彼女の警護にあたってもらう」
臣下に命を与えるメルドリッサの口調は、己の王国が焼かれているとは思えぬほど優しげだ。
「という事は?」
「左様。今宵、龍神神門がここに来る」
「――くはっ」
何が可笑しいのか、心底愉しそうに嗤う少年を一顧だにせず、王は小さく嘆息する。
「そんなに、彼が憎いかね?」
「当然です」
急に笑いを止め、少年は剥き出しの殺気をまだ姿を顕さない神門へと叩きつける。歪ませた端正な
「奴を始末して、僕こそが次代の神の座に坐する者となる。それを証明してやりますよ」
そう嘯くと社長室を出ようとする少年を、魔都の王が呼び止めた。
「ジラ・ハドゥ。貴公に合わせて用意したMBを用意してある。是非使い給え」
「ありがとうございます」
「ああ、それから。――エレベーターは何があっても破壊しないように、な」
少年――ジラはメルドリッサに一礼すると退室した。
メルドリッサ手ずから調整したジラは独立戦闘ユニットとして技術的に完成していると断言できる。
反応速度、肉体的頑強さ――なによりも殺人を厭わぬ精神性所以の殺傷技術は熟練の手合いにも劣らぬ鬼才の
だからこそ、今回、データ収取も兼ねて専用機を用意していた。
社長室を退出し、MBドッグに用意された車体を見たジラは、口笛を鳴らした。
MBらしかぬ流線で構成されたデザイン。匂い立つ雰囲気は洗練されていながらも兇暴さを隠そうともしない、まるで肉食昆虫の冷淡さ。胸
部装甲にある
MBオドナータ。艶めいた蒼い車体は、いざ戦闘となれば迷彩効果など望むべくもないが、そんな
真新しい匂いの前傾姿勢型のシートを跨ぎ、操縦桿を握り締めると、己の為だけ存在するMBが自分の身体の延長のように、自分がMBの身体の一部のようにさえ感じる。それだけで、ジラはオドナータが自分のライディングに充分耐え切れる珠玉の車輌である事を確信した。
確かに、専用と銘打っているだけはある。ジラのスペックをここまで活かしきれるMBは現状存在しないだろう。武者震いに鳥肌が止まらない。もはや恋情にさえ似た疼きが全身に染みる。
「さて……行こうかァ?」
舌舐めずりをしながら、天井面から伸びたケーブルと連結した
いける。こいつは自分という乗り手をずっと待っていた。
残虐無比な戦闘昆虫が今、戦場へと飛来する。その
一陣と風となり、仄暗い大仙楼の通路を趨るジラは、いつしか、
蒼い車体に墨じみた義血が付着するが、ジラは一向に構いはしなかった。むしろ誉れだ。
ぐちゃりと濡れた音と鉄がぶつかる硬い音を聴き、ジラは程なく訪れる戦いに心躍らせる。このボディに真っ赤な血の花を咲かせたら、どんなに素晴らしいだろう。
さあ、行くぞ、龍神神門。この僕の優位性を証明してやる。
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