第3話 散りゆく花びら ②
「野咲さんは、やり直したいことありますか?」
突然の質問だった。
やり直したいことなんて、山のようにある。
でも、それが俺にとって本当にやりたいことなのかは別である。
二浪もして大学に入った結果が今だ。やりたいことを追いかけ続けたことで、本来の目的を見失ってしまったかのように、ふと自分のやっていたこと、やりたかったことに虚無を感じる。
「やり直したいことなんてのは、多分山のようにある。本来それを望んだとして、それが叶ったとして、俺にとっていいのか悪いのかは分からないけどな。もっと、友達作って、恋もして、人並みの生き方で人生やり直したいと、いつも思っている」
「人並みの生き方、ですか」
「そう、人並みの」
何をもって人並みというのかは俺にもはっきり分からない。
ただひとつわかるのは、もう少しまともな人生を歩めば人並みである、ということだけだ。
天野さんは、ノートをじっと見つめていた。
「もし、私にも人並みの生き方ができたならば、この未練は生きる目標にでもなるんだと思います。今の私にとっては、価値のないものですけど」
「死んでしまったら、価値も何も残りませんから」と彼女は付け加えた。
天野さんは、俺とは違った意味で人並みから外れた生き方をしてきたのだろう。もしかしたら、俺達は似た者同士ではあるが、どこかが全く違うのかもしれない。
俺は頭を掻きながらノートを手に取った。
「俺は、君と違って自分の死ぬべき時は分からない。だから、人並みの生き方ができなかった仲間ではあるけれど、その質自体は全然違うのかもしれない。そんな負け組でも、折角ならこれから三日間でここの未練、全部やってやろうぜ」
そう言って俺はノートを差し出した。
天野さんは驚いたように目を見開いたが、ゆっくりと受け取り、大切な宝物を扱うようにノートを両手で抱えた。
「そうですね、折角ならそれもいいかもしれません。それにしても、本当にあの時と違って生き生きしていますね」
くすくすと笑っている彼女の言っていることは、確かに間違ってはいなかった。
自分でも分かるくらい、今の俺は生きている。
あれだけ生きている感覚がなかった、死んでも変わりないと思っていた自分が、今はここで生きている感覚に浸っている。
単純回路なもんだ。その感覚にしているのは、紛れもない目の前の彼女だ。
俺はそれを誤魔化すように、こほんと咳払いをした。
華結び 雨野 結 @yui_0105
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