第3話 散りゆく花びら ①
その次の日、俺は早朝からせっせと部屋を掃除した。
つまりどういうことかと言うと、「傍にいたいから、居候させてもらいたい」ということだ。
そもそも、いい歳した大人が二人、しかも異性で同じ屋根の下で生活するのはまずいのではないかと思った。
でも、彼女はそれでも良い、と言うばかりだった。
そこまで散らかってもいなかった部屋は、たった十分で引っ越し前の状態まで綺麗になった。
部屋に物がないと、本当に殺風景なものだ。
丁度掃除が終わったタイミングで、インターフォンが鳴った。
「どうぞ。鍵空いてるから」
「お邪魔します」
天野さんは、またもや白いワンピースに今度は空色のカーディガンを羽織っていた。
小さな白いポシェットを肩にかけており、白いキャリーバックを手に持っていた。
大きな真っ白な帽子を被っており、表情はよく分からなかった。
部屋をきょろきょろ見渡すと、小さなテーブルの前に座った。
「和風な部屋ですね」
「畳は暖かいんだ。夏は暑いけどな。荷物は適当に置いてもらっていいから」
ありがとうございます、と天野さんは言って、キャリーバックを部屋の隅に置いた。
六畳しかない小さな部屋だったが、人が二人いるだけでも、一つキャリーバックがあるだけでも、さっきよりも賑やかになった気がした。
彼女は落ち着かない様子で、さっきと同じように辺りを見回していた。
「何もない部屋だろ」
「そうですね、何もないです」
「お金がないからさ。でも、悪くはないし、俺にはそんなにお金は必要ない」
「私も同じです。どうせ、死にますから」
天野さんはそう言って、ポシェットから小さなノートを取り出した。
白い花の絵が描かれている、黄色いノートだった。
とあるページを開いて、テーブルに置いた。
そこには、彼女の書いたと思われる字で『私の未練』と書かれていた。
「死ぬまでにやりたいことか?」
「間違いではないですが、ちょっと違います。かつての私がやりたかったこと、と言うべきでしょうか」
「なるほど」
未練は全部で五つ書かれていた。
そのどれもが漢字一文字で書かれており、俺には意味が分からなかった。
「夢、恋、断、結、花……。どれも、よく分からないな」
「そうですね、多分、誰にも分からないと思います」
夢と恋は、何となく分かりやすいような気がする。
しかし、あとの三文字は全くと言っていいほど見当がつかなかった。
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