第3話 誰でも最初は雑用から
若草色のスカートがふんわりと広がったワンピース。その上から白いエプロンをし、頭はオレンジの髪を三つ編みにおさげして、スカーフというか頭巾をまく。
私の現在の服装です。就活はこのような服装でいいのでしょうか。このような街娘の恰好に腰に下げられた剣は似合いませんが、仕方がありません。
私はこれから先日洋服を汚してしまった男の人のところへと行ってきます。もちろん謝罪だけの為ではありません。就職活動です。
石で舗装された道をこつこつと底のすり減ったブーツで歩いていきます。
この街、広すぎます。ギルドもいくつか立ち並び、みんな似ているので見分けがつきません。しかし、文句は言えません。百ペニャンしかもっていない私にはなんとしてもそのギルドを探し出して面接を受けなければならないのですから!
「あ、ありました……」
別にものすごく方向音痴と言うわけではありませんでしたが、私がそのギルドを見つけ出したのは夕方近くでした。
もちろん朝から何も食べていませんので、私のお腹はペコペコです。ぐうぐうです。
特別大きなギルドというわけではないようです。そのあたりに並ぶ酒屋とそう変わらない大きさ。しかし、それに似合わない大きなお庭が付いています。ものすごく雑草だらけの。
私は意を決してそのギルドのドアを叩くのでした。
綺麗な金髪の女の人が事情を聞くと、二階へと案内してくれました。
中は外見とは違い、なんかかっこよく言うとオフィスと言うのでしょうか、木造か石造りがポピュラーな現代ですが、これは何で作られているのでしょう、石を溶かして固めたような……
ぶつぶつつぶやいていると、私は女の人が立ち止まったのに気が付き、あわてて足を止めました。今日は涎垂らしていませんが、いいにおいのしそうなこのお姉さんにぶつかってはいけないような気がしました。
その女の人は先に部屋に入ると、しばらく出てきませんでした。
なにやらあわただしい音が中から聞こえますが、急に訪ねた私が悪いのです。例えこの中で黒魔術が行われていようと気にしません。
「ど、どうぞ」
しばらくすると女の人がドアからひょっこりと顏を出しました。すこし先ほどよりやつれているようですが、気にしません。
「し、失礼します」
ガチャガチャと似使わない剣を揺らしながら、私は手と足をぎこちなく動かして部屋の中を歩きます。
部屋は案外普通でした。お部屋の中央奥に机があり、そこに腰掛けるのはあの日であった優しそうなおじ様。
「こ、こここここここんんんんんにににちっちはん」
意味が解りません。
その意味の解らない言葉は私から発せられたのですが、私もよくわかりませんでした。
「あははは、そんなに緊張しないでいいよ」
組んだ手の上に顎をのせる形でそのおじ様はゆったりと笑みを浮かべました。
「本当に来てくれるとは思わなかった」
「迷惑、でしたでしょうか」
うん。って言われたらどうしましょう。私は体を固くしてぎゅっと目をつぶりました。
しかし、そのおじ様は見た目通り優しい人でした。
「いやいや、来てくれて助かったよ。今ちょっと人手が足りなくて」
「ほ、本当ですか! モンスター退治ですか!? お偉い様の護衛ですか!? それとも密書を!? この剣に誓ってなんでもいたします!」
私は学校から拝借した剣を掲げます。
それを見て、おじ様はにっこりと笑いました。
「いやいや、本当に助かった。君も見たと思うけど、このギルドは庭ばかり広くてね。誰か草むしりしてくれないかなって思ってたんだよ」
私は静かに剣を下ろしました。
「詰まるところ」
「うん。君の仕事は草むしりだ」
私の冒険は終わってしまった!
いやいやいや、大丈夫です。私、草むしり得意ですもん。
サギとか思ってませんって。最初はみんな草むしりからなんですって。そう、お仕事があるだけありがたいご時世なのです。
「あ、そうそう、お給料前払いしておくよ」
「え、いいんですか!?」
これで今日のご飯は豪勢です。
◇◇◇
「るーるる、ららー」
私は炎天下の中、草むしりをします。ブラック企業って言ってましたけど、草むしり十時間くらいじゃ死にません。大丈夫です。ブラックと言うからには、二十四時間労働かと思いましたが、そんなことありませんでした。よかった。ギルド自体は二十四時間らしいですが、私達日勤の人はほぼ固定なのであまりかかわりがありません。
お昼が近くなって、太陽が頭の上へと昇ります。暑いです。
でもへっちゃらです。なぜなら、お給料前払いと言う名の『麦わら帽子』をもらったからです。
わぁい、麦わら帽子。
ギルドに居ればお昼ご飯は出るので、そこで一杯食べます。
そろそろお昼なので、私も室内に戻ることにしましょう。
就職先は超ブラック企業でした。 樹 @amano_sora
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