第2話 縁は異なもの味なもの
「騙しやがりましたね!」
私はペニャソ硬貨を地面に叩きつけました。こんなことってあっていいんでしょうか。この荒んだ世界は、まったくもって優しくありません。人の心が荒みまくっています。よく、騙される方が悪い、なんて言いますけど、そんな人は一旦騙されてみればいいんです。
私は三ペニャン失った。
私は百ペニャソ手に入れた。
偽硬貨です。ペニャソ硬貨、なんて忠実に作られているんでしょう。悔しいです。
もうどこの宿にも泊まれません。ご飯も食べれません。雑草でもむしりに行きましょうか。
それでもお腹はぐぅぐぅ鳴っています。体は正直ですね。だから私は少しこの街の露店でにぎわっているところに行こうと思います。
いいんです。こういうのは匂いだけでもお腹がいっぱいになるんです。
「ああ、なんていい匂い」
肉を焼く匂い。香ばしい食欲をそそります。甘そうなフルーツは宝石のように輝いています。
ああ、逆に空腹なのが惨めになってきました。よだれなんて垂らして……
「おふぅっ」
いけない。誰かにぶつかってしまいました。目の前に広がるのはあの甘くておいしい高級品。チョコレートと同じ色の世界、正確には、私は食べ物に夢中で前方から来た殿方にぶつかり、そのポンチョをよだれで汚してしまいました。
「ご、ごごごごめんなさい!」
私がぶつかってしまった男性は、苦笑いをして私を見ています。私の身長が低いせいか、そのお方はとても身長が高く見えます。年は三十代半ばといったところでしょうか。
「いや、こちらこそ悪かったね。大丈夫かい?」
その人は私に目を合わせて少しかがんでくれました。隣にいる男は鋭い眼光で私を穴が開くほど見ています。
「ウィーベルさん、大丈夫ですか? 金銭などとられてはいませんか?」
なんて言う人でしょう。私がそんな人に見えますか。
「大丈夫だよ。それにこんな女の子がそんなことをするようには見えないだろう?」
うんうん。と私は首を縦に振ります。
「あ、汚してしまった洋服、どうしましょう。洗濯代を……あ、そういえば所持金ないんでした。どうしましょう……こ、こうなれば」
私は三つ編みに編まれた両の髪を触りました。これを切って売ればお金になるやもしれません。
せめて女の子らしくあるようにと伸ばした髪の毛。オレンジ色の綺麗な髪の毛。私は卒業時に学校から拝借した剣を抜こうと震える手を腰に添えます。
しかし、目つきの悪い男の方は、私を見下したように言います。
「そんなん金になんかならねーからな。なんの呪いだよ」
ショックです! こんなに綺麗な髪の毛を呪いだなんて!
「で、ではどうしましょう。わたし、お金ないんです。さっき騙されてしまって」
そう言って私はニャペソ硬貨を二人に見せました。二人はそれを受け取ると、太陽に当ててみたり、指で撫でてみたりしていました。そして、顔を見合わせると、この硬貨をもらってもいいかと聞いてきました。
「一枚につき3ペニャンください」
私だってお金に困っているんです。一文無しなんです。
どういう反応をするかとみていると、目つきの悪い男は皮袋を出してきました。開けた袋から見えるのは、金貨。1枚で10ペニャンの価値があるやつです。男はそれを1枚私にくれました。
「い、いいんですか? 本気ですか?」
「いいんだよ」
優しそうな男の人の方はそう言うと、ニャペソ銀貨1枚を自分の胸ポケットにしまいました。
「見たところ冒険者さんかな? この辺りは治安が悪いから気を付けるんだよ」
「そう、みたいですね。実は冒険者、といいますより、就職口を探してまして。お二方はこの街にすんでる方ですか? よろしければこのあたりで雇ってくれそうなギルドやらこの際ギルドじゃなくても宿屋でもなんでもいいんですけど、ありますかね?」
あははは、と頭を掻きます。なんだかむなしいです。
「あーそうだねぇ」
優しそうな男の人、ウィーベルさんと言いましたっけ? その人は顎を撫でると、にっこりと笑った。
「じゃぁうちに就職する? この街にあるギルドの一つなんだけど」
「はぁ?」
目つきの悪い男はすっきょんとうな声をあげました。私もビックリして言葉を失いました。
「……い、いいんですか?」
「ただし、簡単には辞められない超ブラック企業だけど」
ウィーベルさんはウインクすると、私によれた紙を差し出してきました。
「ギルドの位置。気が向いたら来てよ。君なら面接だって大丈夫。ちょうど人手が足りていなかったからね」
もちろん即決でした。
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