就職先は超ブラック企業でした。
樹
第1話 ぷろろーぐ
就職先は超ブラック企業でした。
私の現在の手持ちは三ペニャン。就職活動に見事失敗し、日雇いの仕事で食いつなげていましたが、どこもかしこも世界的に就職氷河期大不景気なわけでして、三ペニャンだとパンの耳一つしか買えません。
育ちざかりの娘さんにそれはないでしょう神様。
天を見上げて神を呪うがそんな思いはせらせら笑う青空に吸い込まれていく。
春に学園を卒業。友達は今頃大きなギルドでバンバン稼いでいるのかもしれない。それに比べて私の手持ちは三ペニャン。本当にこれは酷い。もっと他に有るはず。私はポケットの中を探る。そうすればまぁ出てくる出てくる。
パンカス、道端で拾った記念の石ころ、薬草だと思ってむしった草(ふつうの草だった)。
パンカスを捨てると、鶏が群がってくる。えさに媚びる低能動物め。なんて思わない。ただちょっと自分が恵まれる側から恵む側へ移ったという優越感はあるが。
今度は逆のポケットを探る。出てきたのはきれいなウサギのガラス細工(拾い物)と指輪(拾い物)だった。
よし、今日はこれを売って食料を確保しよう。
「よう、お嬢ちゃん。そのガラス細工きれいだな。指輪も一緒に百ペニャンでどうだ?」
さっそくお声がかかりました。あごひげつるっぱげ小太りのいかにも怪しい人ですが、お金を払ってくれるならどうこう言いません。しかも、百ペニャンとか、三日は食糧と宿に困りません。
「はい、喜んで」
私は百ペニャンと手に入れた!
私はガラス細工と指輪を失った!
すこし商業スキルが上がった気がします。
私はあらかじめ持っていた三ペニャンでパンの耳を買い、小鳥たちに与えました。
ものすごい優越感です! あははははははははははははははははは!
両手を広げ、空を見上げてくるくる回る私。ふわりとスカートも喜んでいます。
だってまだ百ペニャンあるんです。安い宿を探して、ご飯を食べる。なんて素敵な日。
私は百ペニャンはいった袋を取り出しました。中身を確認。入っています。ちょっと夢かな? とか詐欺かな? って思いましたけど、現物を私の手の上にこぼしても、じゃらじゃらと嫌らしい音を立てるだけで消えたりも何にもしません。夢じゃなかった!
私はペニャン硬貨を一枚取り出して、ほおずりします。そして、愛おしいペニャン硬貨を見つめるのです。
一枚五ペニャンの価値のある銀色の硬貨。ああ、なんて素敵な……
「五ペニャ、ソ……」
私はもう一度硬貨を見つめます。
銀色に輝くペニャン硬貨。そう、これは紛れもなく
「五ペニャソ」
ペニャソ硬貨でした。
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