推敲(2度目)+タイトル決め

 *前回わりとまとめてやってしまった。今回やるのは、地の文と会話の検討。

 先に優先度を決める。

 1. 読みやすさ(漢字のひらき含む)

 2. 言いたいことが伝わっているか。

 3. 次に、なんとなくイイ文章になってるか。

 4. 自然な会話になっているか。

 

 例外:可愛いかどうか(最重要)

 

 以下、ルビ入れ+{書き直し}

―――


 高柳高柳宗太そうたは、玄関に腰を下ろし、靴ひもを結んでいた。眉間には深い皺が刻まれている。

 {ロウ引きの靴ひもを乱暴に締めあげて}、肩越しにリビングをのぞき込む。


「行ってきます」


 いつもなら妻の明朗な返事がある。真奈は、まだ機嫌が悪いらしい。

 {宗太は目元を押さえて首を左右に振った。立ち上がり、玄関に置かれた姿見に自分の姿を映す。トレンチコートの襟を引き寄せ整え、真奈が選んでくれたネクタイに触れる。自分では、深い赤色を選ぶことはできなかっただろう。}

 宗太は扉に手をかけ、もう一度くりかえした。


「行ってくるよ!」


 ほんの少し、待ってみる。やはり返事はない。{珍しく、本当に怒っているらしい。}

 腕時計は、午前七時三十分を指していた。もう待ってはいられない。

 宗太は舌打ちしたくなような思いを抱えたまま、{ドアノブ}を押し下げた。

 なじまパークサイドを出た宗太は{バス停を目指し、}のろのろと歩きだす。{少し行ったところで、我が家を見上げる。結婚を機に、少し無理をして買った我が家だ。}

 

 ――俺が何したってんだよ


 {心の裡ではあっても、とうとう口にしてしまった}。もうダメだった。冬の早朝の日差しは、無駄に明るく照りつけてくるくせに、温かさなど微塵もない。

 宗太は{目を閉じ顎をあげた}。{静かなものだ。瞼を開いて、}まだ冷たいアスファルトを蹴りつけた。


 通勤に利用しているバス停には、想像していたよりも多くの人が待っていた。出かけ間際のちょっとした諍いくらいで足まで遅くなっ{たらしい}。

 列の最後尾に並んだ宗太は、両手をポケットにつっこんだ。{腹立たしいことに、陽だまりは目の前で途切れていた。茶色いコートを着込んだ中年男の背中までの人々だけが、恩恵を受けている。温もりなど感じられない陽光であっても、陰の下から白日光を見ると、やるせなくなってしまう。

 

 宗太は肩をすくめて躰を揺すった。{躰を温めようというのではない。}しかし、ただ突っ立って寒風に耐えるのに比べれば、空気の冷たさに抵抗しているような気分になれる。ついでにいえば、俺はこんな日でも文句も言わず頑張っているのに、とも。


 {寒さのせいか、バスはいつもより遅れてきたような気がする。}薄い油膜が張られているかのようにヌメり気のある車窓{が見えてきた。}{疲れた顔をした若い女性が座っている。}諦念のまじった表情かおの理由は、なんとなく分かる。頭越しに、着ぶくれた会社員たちの姿があるのだ。みな、いまの宗太と同じように背を丸め、じっと、うつむいている。

 

 車内に乗り込み、左右を見渡す。{座れる席などありはしない。窓からのぞいた段階で分かっていた。}かろうじて右手奥に立っていられる隙間があるだけだ。

 宗太はできるかぎり他の乗客に触れないように気を払った。だというのに、ふいに後ろから誰かに押され、手すりに掴まる乗客にぶつかってしまった。


「すいません」


 ほとんど反射的に、首を小さく上下していた。謝罪というほどの意思はない。反抗期の若者でもあるまいし、{すすんで他人ひとの肩にぶつかりはしない。}不可抗力である。後ろから押し込んできたやつのせいだ。

 {深く息を吸い込み、目を閉じる。暖気のせいか、車内は、家と汗の臭いがした。}


 ――俺が悪いわけじゃない。


 むしろ率先して謝ることで無用な争いを避けたのだ。たいしたものじゃないか。そう思いつつ、吊革を握りしめて、腕に体重の二割ほどを任せる。

 窓から差し込んでくる日の光に{目が眩む。}陰に入った一瞬、窓に、不機嫌そうに眉を寄せる宗太の姿が映った。謝るべきだっただろうか。


 ――今朝も。


 宗太は脳裏をよぎった考えに、思わず苦笑してしまった。

 思い返してみれば、真奈とは結婚するより前から、ケンカらしいケンカをした記憶がない。険悪な雰囲気が醸成されれば、宗太の方から謝ってしまう。{いつもそうだった。}


 たしかに真奈も宗太に気を使っているフシはある。だが、それは夫婦だからというよりも、互いを尊重するためには当然のこと{だ。}言うまでもない。真奈にしたって、分かっているはず。


 ――じゃあ、今朝のあれはなんだ。

 

 朝食を終えるまでは、いつもとまったく{変わらなかった}。コーヒの濃さについて「ちょっと濃すぎじゃない?」と一言つけたのが{失敗だったのだろうか。}

 {しかし}真奈は「そう? 宗太の淹れるコーヒーが薄いんじゃなくて?」と返してきた。

 マグカップを両手で包み込み、微笑みながら言ったのだ。怒ってはいない。


 ――むしろこっちがムッとしたんだ。


 けれどそれを口にしたところで、どうなるというのか。

 宗太は「そうかな? そうかもな」と頷きかえしていた。

 

 真奈に遠慮したのは、なにも今朝にはじまったことではない。家事だって任せっきりじゃ自分の時間がとれないだろうと、率先して引き受けてきた。もしかしたら、慣れていないのもあって、迷惑をかけたかもしれない。しかし、いつだって宗太の方から謝ってきたではないか。


 宗太は、今度こそめ息をいてしまった。

 ベージュのコートを着た若い女が宗太を見て、声を押し殺すようにして笑った。大学生だろうか。

 女は宗太の視線に気づいたか、さっと前を向く。しかしすぐに背もたれ越しに宗太の顔を覗き見て、隣の男に笑いかけた。

 と、同時に。

 男は宗太をちらと見て、女になにか言った。女は憮然とした様子で座りなおした。


 ――ざまぁみろ。怒られたんだろ。


 心中で毒づいてみた宗太だが、気分が晴れるわけでもない。口の中には、濃すぎるコーヒーの苦みが、まだ残っているような気がする。

 宗太も、真奈を叱ったことがある。

 いつだったか仕事で使う書類を汚されたとき{と}、学生時代から持ち続けてきた靴を捨てられたときだ。たしかにあのとき{は}、声を荒げてしまった。非は真奈の方にある。{それでも}、宗太は謝った。


 仕事で使う書類を持ち帰ったのは宗太自身であるし、汚れる可能性のあるところに置きっぱなしにしたのも同じだ。

 靴にしたって、宗太なりに大事にしてきたつもりではあるが、ろくに手入れや修理もせず、履くこともなかった。傍からみればゴミに見えても仕方がない。


 バランスの問題だ。声を荒げてしまったことも含めて、悪かった、といった。それは、眦に涙をためて謝る真奈の姿に、同情したわけではない。

 真奈が謝ることになった原因は自分にもあったのだ。


 視界の端で、さきほどの若い男が手を伸ばし、女の髪をそっと撫でた。一言か二言つぶやいて、小さく頭を下げる。女もうなづき返していた。どうやら仲直りをしたらしい。


 ふいにバスが急制動をかけた。

 躰を振られた宗太は反射的に肘をあげていた。なにかにぶつかった。乗客の背中だ。ダウンを着ている。

 ダウンを着た乗客は、目だけを動かし、宗太をジロリと睨んだ。

 

「すいません」


 宗太は頭を下げた。{不可抗力だからなんだというのだ。}

 カップルと思しき二人に目をやると、互いに気遣いあっていた。


 ――若いなぁ。


 宗太は頬を緩めて窓の外を眺めた。

 止まったままのバスは、なかなか動きだそうとしない。

 腕時計に目を落とす。いつもよりも数分、遅れているらしい。道はそれほど混んでいるようにみえない。乗客でも拾っているのだろうか。

 

 宗太は背中を反らせて、乗車口を覗きこんだ。乗り込んでくる人がいるわけでもなさそうだ。ふたたび時計を見る。どうやら一本か二本、電車を遅らせることにな{るかもしれない。

 鼻で息を吐きだし、車内前方の電光掲示板に目をやった。表示されている時間は一分と変わらない。違う時計を{確認しても}、電車を逃す未来に、変化はおきない。


 掲示板の表示が切り替わった。×月××日。

 宗太は前に向き直り――慌てて見直した。×月××日。見直したところで日付は変わるわけがない。凍てつく外気に晒されているかのようだ。


 ――結婚記念日、だっけか?


 正直、確信がもてない。だとしたら大失敗だ。

 宗太は今朝、{食事を}終えてすぐ、真奈に言った。


「悪いんだけど、今日、遅くなるから。夕飯いらないし、先に寝てていいからね」


 真奈が不機嫌になったのは、その瞬間からの気がする。いや、そうに違いない。


 ――やっちまった。


 真奈は、どこか宗太と似ているところがあ{る}。互いに譲り合ってしまう{のだ}。{できることなら、真奈に気を遣わせたくはない。}だからこそ、籍を入れた日の夜、二人で約束をしたのだった。


「結婚記念日くらいは一緒に過ごすことにしようか」

「一緒に過ごすって、どれくらい?」

「どれくらいって、そうだな。えっと、睡眠時間を含めて十二時間以上、とか?」

「なにそれ。八時に宗太が家をでたとして、帰ってから四時間? 残業あったら?」

「そんときは、えーと、風邪でもひくよ」

「本気で言ってる? まぁ、私はいいけど。っていうか、ちょっと嬉しいけども」


 {鮮明によみがえる頬を染めた真奈の笑顔に}、血の気が引いた。自分で取りつけた約束を、自分で破ってしまうとは。

 そう思った次の瞬間には、宗太はオレンジ色の降車ボタンを叩いていた。

 乗客のみなさま、お忙しい時間に申し訳ない、なぞと思いつつ、宗太はバスを飛び降りた。いつもよりも運行が遅かったのもあって、なじまパークサイドからは、それほど離れていない。

 {歩き出し、足を速め、}駆けだしていた。


 やたらと遅く感じるエレベーターを待っていられず階段を駆け、我が家のドアを力任せに開いた。


「真奈!」

「えっ? なに!? どうしたの!?」


 部屋の奥から声がした。

 {小走りででてきた真奈は、目を丸くしていた。}

 宗太は膝に手をつき、荒い呼吸をくりかえしていた。運動不足だ。声を出そうにも出やしない。寒い中を走ってきたからか、喉も耳も痛む。

 真奈は、{肩で息をする宗太の耳を、}両手で覆った。


「うわっ、冷た!」

 

 すぐに引っ込めた手に、ほ、と吐息を吹きかけ、冷えきった宗太の耳をつまんだ。


「どうしたの? 忘れもの?」

「ちがくて、そうじゃなくて」


 宗太は真奈の手を握り、顔をあげた。


「ごめん、忘れてた。ちゃんと、定時で帰ってこれるようにするから」

「へ? そんなこと言うために帰ってきたの? 電話は?」

「えっ」


 宗太が見上げた真奈は、きょとん、としていた。閉じられた唇の端がじわじわとあがっていき、ついにはこらえきれなかったか、噴き出した。


「もう。宗太は昔っから、変なことばっかりするよね」

「なんだよそれ。慌てて帰ってきたのに」

「っていうか、定時って? なんで? なにかあったっけ」

「はぁ!? いやほら! 今日、結婚記念日だろ!?」

「は?」


 真奈の眉が、露骨に寄った。明らかに怒っている。

 いやそれよりも、違ったのなら――、


「{じゃあ、なんで}今朝は不機嫌だったんだよ」

「えっ?」

 

 しばし考えていた真奈は指先を揃えて、宗太の頭に手刀チョップを落とした。


「痛って」


 宗太は頭を押さえた。


「なんだよ。朝、機嫌悪かったじゃんか」

「もう、バカだな。そっちは憶えてるのに、こっちは忘れるんだ?」

「だから結婚記念日に――」

「そっちじゃないってば」


 そう言って、真奈は不満そうに両手を腰に当てた。宗太を見下ろすかのようにして、たん、たん、とスリッパでリズムまで取っている。


「二人で約束したよね? 結婚記念日は宗太の約束を守って――」

「あっ」


 宗太は結婚記念日の約束をした会話、その続きを思いだした。

 あの日、真奈は、しばらく考えてから言った。


「じゃあさ、結婚記念日から半年後は、我儘デーにしよっか?」

「はぁ? なにそれ?」

「一緒にいてくれるのはいいけどさ。それだと、宗太ばっかり大変でしょ?」

「そうか?」

「そうだよ。だからさ、ちょうど半年後は我儘デーにして、宗太は気をつかったりしないで、我儘いってもいい日にしよう?」

 

 そう言って、真奈は頬を寄せてきたのだった。

 真奈はにんまりと笑い、力なく落ちた宗太の肩を叩いた。


「思いだした?」

「思いだした」

「{それじゃあ、問題。なんで私は、}不機嫌だったのでしょう?」

「……俺が、悪いんだけど、って言ったから」

「正解!」


 弾むような声をあげ、真奈は宗太を抱きしめた。

 

「{いつもありがとう。宗太}」

「もういい。俺、今日は風邪ひくわ」

「我儘デーは、会社の人には通用しないよ?」


 真奈は、愛おしそうに、宗太の背を撫でた。 



*

 とりあえず、こんなところ、か?

 最後だけ、お礼+名前でイチャコラ度アップである。

 多分、素面で読むと、あぁぁぁぁぁぁ!! ってなる(酒精パワー)。


 実は稿。あばば。


 タイトルは……

 宗太と真奈、夫婦、譲り合う、お礼、譲歩、約束、大事な約束……。

 うん。シンプルに『記念日』にしませう。

 ジャンルは……カクヨム定義だとラブコメかな? あるいは現ドラ。

 

 まずは解説。

 あらすじと書き出しまでで一日(実時間だと三十分くらい)をかけました。

 初校は五千字で、休憩三回ほどで書き上げました。

 というわけで。

 不慣れで短編が書けない、という人であっても! 

 休憩一回につき一日として、

 一週間(+はちみつ梅干し一個)あれば、五千字短編がかけるはず!

 で、これで玩具ができました。

 次回以降はノーマル板からはじめ、いくつか文体試してみます。

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