H6th Hand 荒ぶれメイド達! 権謀渦巻く文化祭決戦!


   ここは世界のどこかのお嬢様女子高   

   校舎の隅のひそやかな宴   



○登場人物


     ☆サクラ   

      二年生。ポーカー部部長。天下無敵の魔王閣下。   

      ♈牡羊座AB型。占いはアテにしない。   

      人種・民族設定:ワイルドカード   


     ☆エルネスタ   

      二年生。ポーカー部副部長。冷静沈着なポーカー部の頭脳。   

      ♍乙女座A型。占いは売る側。   

      人種・民族設定:ネグロイド   


     ☆グレイス   

      二年生。自宅は豪邸のガチセレブ。根は寂しいと死ぬウサギ系。   

      ♌獅子座B型。占星術の基礎は履修済。   

      人種・民族設定:コーカソイド(ケルト系)   


     ☆スー   

      一年生。いつも朗らかのーてんき。   

      ♋蟹座O型。当たらぬも八卦でゴーイングマイウェイ。   

      人種・民族設定:コーカソイド(ゲルマン系)   


     ☆クリス二等兵   

      一年生。なぜか軍人思考、スーを隊長と慕うど初心者。   

      ♐射手座A型。めっちゃ気にしぃで朝はテレビにかじりつく。   

      人種・民族設定:モンゴロイド   


     ☆ニナ   

      一年生。きまじめ一本槍、ポーカー部の良識。   

      ♑山羊座A型。めっちゃ気にしぃで朝はテレビ見ない。   

      人種・民族設定:コーカソイド(アーリア系)   


     ★タンポポ   

      ポーカー部顧問。   

      ♊双子座O型。バーナム効果って知ってる?   

      人種・民族設定:ワイルドカード   



     ☆校長   


     ☆キャサリン:生徒会長   

     ☆ブレンダ:生徒会書記   


     ☆アンジェリーナ:手芸部部長   

     ☆ナオミ:手芸部副部長   


     ☆メイド長   





○1


   生徒会室。   

   事務机に着席している生徒会長キャサリン(銀髪ストレートデコ出し   

   キャラ)。机を挟んで立ってにらみ合うサクラ。   

キャシー「……却下」



   書類を叩きながら言うサクラ。   

サクラ 「なんでだよ。文化祭用の催事申請の書類は、このとおりフォーマット通

     り書いて期日までにきっちり提出した」



サクラ 「計画は完璧だ。夏に実務経験も積んだ。どこに問題があるんだ?」

キャシー「その実務経験について、校長先生からとっくり話を聞いたから言ってる

     んです───」



キャシー「どこの世界に校内行事で鉄火場を認める学校がありますかっ!」




○2


   部室。部員全員そろって会議中。   

サクラ 「というわけで拒否られた」

ニナ  「あたりまえですっ」

クリス 「じゃあ、文化祭どうするんです?」



ニナ  「お金を直接賭けなくたって、ポーカー教室を開いてレクチャーするとか」

エル  「意味ないわ、この町じゃルール知らない人の方がレアだもの」

   クリスの頭上に〝レアキャラ〟の称号が燦然と輝く。   



ニナ  「トーナメントの開催はどうですか? あくまで競技会って体裁にすれば」

エル  「参加費を取ったらそれは賭博になるわ、キャシーは認めないでしょうね」

グレイス「フリーロールなら大丈夫でしょうけど、賞品なり賞金なりをどこから出

     すかって話がありますの。わたくしは持ち出しでも構いませんけれど…

     …」

   部員一同、サクラを見る。   



サクラ 「儲けが出ないことなんてやってられるか」

一同  「ですよねー」




○3


   イライラしているサクラ。   

サクラ 「こうなったら、表向きは別の企画にして、闇でこっそり開くか……?」

エル  「校内で闇カジノなんて、バレたら退学級の不祥事よ?」



サクラ 「あぁもう、何かアイディアはないか。採用アイディア出したら何でも言

     うこと聞いてやる!」



   それまで黙っていたスーが、突然ずいと身を乗り出して言う。   

スー  「メイド喫茶を、しましょう!」



一同  「…………はい?」




○4


サクラ 「ポーカー部がなんで喫茶店だよ」

クリス 「ポーカーやらなくていいんスか、隊長?」

スー  「ですからー」



スー  「文化祭は2日間ありますよね。初日にメイド喫茶をやるんです。それで、

     来てくれたお客さんに、会計のときチケットを渡します」



スー  「2日目に、そのチケットを持った人だけが参加できるトーナメントを開

     くんです」



一同  「…………!」




○5


   やいのやいの実現性を議論する2年生組。   

エル  「それなら、しくみとしては福引きと同じだわ。賭博にはならない。むし

     ろ、参加人数を絞り込むためのもう一工夫がいるわね」

グレイス「うちだけでやると、飲食代が実質参加費とか言われませんこと?」

サクラ 「よその店も巻き込めばいい。賞品の供出も頼もう。その一部を胴元権限

     でガメれば儲かる! これでどうだ?」



ニナ  「いけると思うわ」

サクラ 「でかしたスー!」

スー  「メイド喫茶」

   スー、にこやかだが目が笑っていない。   



   サクラ、青ざめる。   

サクラ 「……」

スー  「何でも言うこと聞くって言いましたよね? 初日はみんなでメイド喫茶」



   グレイスは乗り気。スーとグレイス以外全員どん引き。   

グレイス「メイド服なら、わたくしの屋敷からいくらでも出せましてよ?」

スー  「ミニスカフリフリで!」




○6


   時間経過、数日後。部室。   

グレイス「採寸開始ーっ!」

   扉を開け、グレイスが連れてきたメイド部隊が突入してくる。メイド   

   たちは全員無表情&冷静沈着に各自の仕事をこなす。   



   強制的に採寸を受ける部員一同。喜んで協力するスー。   

   他の部員は悲鳴をあげるが、かまわずメイド部隊が群がって採寸。   



   服を着替えさせられる部員一同。喜んで脱がされるスー。   

   メイド部隊が群がってミニに丈直し。メイド部隊が群がってレースの   

   フリル装飾を追加。   

   クリスやニナはだんだんノリノリになっている。   



   全員のメイド服へのお着替え完了! サクラ以外ビシリとポーズを取   

   る。   

サクラ 「(ひとりだけゲンナリ)……わかったよ、やればいいんだろやれば……」




○7


   生徒会室。○1と同じ構図、ただしサクラはメイド服で、ゲンナリ継続。  

キャシー「不本意ではありますが、不備はないので受理します」



   キャサリン、書類に受理のサインをしながら。   

キャシー「初日に参加補助券を配布、10枚で参加権1スタック分。複数名で集めてよ

     く、1スタックにつき10人まで交代可能なチーム戦にする……なるほど。

     ……ところで、ひとつ質問いいかしら?」

サクラ 「なんだ?」

キャシー「あなたがたポーカー部は運営に専念するの?」



サクラ 「校内でポーカートーナメントするのにウチが出ないでどうするんだよ。

     『ポーカー部』もチームとして参加する」

キャシー「賭博ではないとはいえ、ディーラーとプレイヤーの兼任は、イカサマの

     疑念を持たれかねません。それでも人員配置的にそうせざるを得ないな

     ら、何かハンデを用意すべきでしょう」

サクラ 「……それは一理あるな。こっちのモチベ的にも必要か……」



キャシー「たとえば───KOバウンティはどうかしら? ポーカー部は、KOし

     たチームの願いごとを、何かひとつ聞かなきゃならない、とか?」

サクラ 「できる範囲ならな?」

   サクラの脳裏には『メイド喫茶!』と言うスーの顔が浮かんで、また   

   かよ、と渋い表情。   




○8


   時間経過。校長室。校長とキャサリン。   

   校長の前にデータレコーダー。〝できる範囲ならな?〟とサクラの声。   

キャシー「おっしゃったとおりに、言質を引き出しました」



校長  「よくやったわ、キャシー。これで、権力者の娘どもがワガママ放題する

     あのいまいましい部活を、廃部に追い込めます」

キャシー「さすがに廃部は『できる範囲』に入るかどうか……」



校長  「いいのよ、内容は私が考えます。それこそ学校に二度と来られなくなる

     ようなあーんなことやこーんなことを命令して……」

キャシー「校長先生の意向には逆らいませんが───こたびのなさりようは、私怨

     に見えてしかたないのですが?」

校長  「……勘ぐりすぎです。気にしないで」



   生徒会室。キャサリンとブレンダがいる。   

   キャサリン、仕事中のブレンダを見ながら、考え中。   

キャシー「(私は毒を喰らわば皿までだけど、執行部全員を私怨につきあわせるの

     は気が引けるなぁ……)」




○9


   場面転換、ポーカー部室。全員メイド服のまま。   

   グレイスが、いわゆる〝ザマス眼鏡〟をかけた初老のメイドを皆に紹   

   介している。   

グレイス「こちら、うちのメイド長です」

メイド長「これからみなさまに、メイドの所作を身につけていただきます」



グレイス「じゃ、あとよろしく。おほほほほ」

   去っていくグレイス。パチリと指で合図。   



   さっと執事がテーブルとお茶の準備。グレイス、部室の端でひとりだ   

   けティータイムを開始。   



   怒れるサクラとエルネスタ。   

サクラ 「おまえもやるんだよ部員だろ?!」

グレイス「なんでわたくしが?! わたくしはサービスされる側に決まっているで

     しょう?!」

エル  「じゃあなんでメイド服着てるの?!」

グレイス「一度着てみたかっただけですわ!」




○10


   グレイス含め、全員がメイド長の前に並ばされている。   

   メイド長、くそ真面目な面構え。   

メイド長「メイド喫茶をすると伺っています。本格的なことをお教えするつもりは

     ございません。基本的な所作だけですから、グレイス様も学ばれた方が

     よろしいでしょう」



メイド長「メイドの基本はまずお辞儀ですが、お嬢様方が接客でなさるなら、カー

     テシーの方が見栄えがよろしかろうかと存じます」

クリス 「カーテシーって何ですか?」



   メイド長、スカートを両手でちょいと持ち上げ、片膝を後ろに折って   

   少し腰をかがめる。ずっとくそ真面目な表情だったところ、一変して   

   にこやかな笑顔を見せる。ただし皺めいた厚化粧の老顔。   

メイド長「お帰りなさいませご主人様~」

サクラ 「ババァがやるな、気色悪い」



   全員がメイド長の前に並ばされている。   

   サクラの顔がボコボコになっている。   

   みな緊張の面持ち。   

メイド長「今のがカーテシーです。やってみましょう」




○11


   スーのカーテシー。にこやか朗らか。   

スー  「お帰りなさいませご主人様~」

メイド長「たいへんお上手ですね。あなたは今すぐにでもメイドになれます」



   クリス・ニナのカーテシー。慣れなくて足の位置がおかしいものの、   

   にこやかに。   

ク・ニ 「お帰りなさいませご主人様~」

メイド長「笑顔が硬いですが、よい感じです。練習すればすぐうまくなるでしょう」



   エルネスタのカーテシー。にこやかだが少し顔が引きつっている。   

エル  「お帰りなさいませご主人様~」

メイド長「作り笑いはいただけませんが、接客には十分でしょう。もう少し自然に」



   サクラ・グレイスはカーテシーができない。顔も姿勢もガチガチ。   

サ・グ 「お……おかえりなさい、ませ、ご、ごしゅ……」

メイド長「あなた方はまずへりくだることを覚えなさい」

エル  「水着の接客はできるくせに、どうしてメイド服だとそう敗北感になるの?」




○12


   ビシビシしごくメイド長。歩き方の訓練。頭に本を載せる部員達。   

メイド長「背筋を伸ばす!」



   盆やティーポットを持って、立ち居振る舞いの特訓。   

メイド長「もっと優雅に! 笑顔忘れず!」



タンポポ「どんな感じですかー」

   ふっと部室に顔を覗かせるタンポポ、すかさずカーテシーで迎える   

   スー。   

スー  「あ、お帰りなさいませご主人様~」



   サクラとグレイスはさながらロボットダンス。   

サ・グ 「オカエリナサイマセゴシュジンサマー。ぷしゅー」




○13


   サクラとタンポポの会話。他の部員は背景で、引き続きメイド修行を   

   継続。   


タンポポ「なんだか変なあんばいですよ」

サクラ 「何が?」



タンポポ「サクラさん、あなた生徒会長に、負けたら何でもする、って約束したん

     ですって?」

サクラ 「あ……あぁ、『できる範囲で』ってな。できないことは断るよ」



タンポポ「廃部に持ち込む気ですよ」

サクラ 「はぁ?!」

タンポポ「校長は生徒会長に、志望校への推薦状を確約してるんです。生徒にこう

     いう表現は気が引けますが───生徒会長は校長の犬です。会長との約

     束は、そのまま校長との約束になります」



タンポポ「そして今の校長先生は、何を言い出すかわかりません」

サクラ 「マジか……」

   腐るサクラ。   




○14


   時間経過。   

   メイド修行は終了(ただし服はメイド服のまま)。その後、サクラが   

   部員一同を整列させている。   

サクラ 「……というわけで、あたしの立ち回りが原因のひとつなんで、あんま偉

     そうなことは言えないんだが……(頭を掻く)」



サクラ 「ただのレクリエーションとはいかない、負けられない戦いに、なった」



   グレイスが不機嫌そうな表情。   

グレイス「気に入りませんわ」

サクラ 「どこがどう? 一時期は、ポーカーなんて遊びだから部活にふさわしく

     ないとか言ってたじゃないか。廃部なら、願ったりじゃないのか」



グレイス「キャシーごときが、わたくしどもに楯突いて大人気ないイヤがらせを講

     じていることが、ですわ。絶対に勝ちませんと」

サクラ 「あ、そういう……」

エル  「(一年生に説明)生徒会長のキャシーは市会議長の娘なのよ。市長と議

     長は犬猿の仲で有名なの」




○15


グレイス「それに……」



   グレイス、赤面。   



グレイス「(赤面のまま)それにわたくし、今はこの部室がとても好きですもの」

   サクラとエルも思わずはにかむ。   



   嬉しそうにグレイスに飛びつく一年生組。   

一年生 「グレイス先輩がデレた!」

グレイス「お、おやめなさい!」





○16


   文化祭初日。   

   メイド喫茶及びトーナメント会場となる第一会議室(普段の部室より   

   広い)。室外に机を置いて受付、室内はカーテンで仕切って客席とバ   

   ックヤードに分けている。   

   サクラだけこの場にいない。受付にエルネスタがいて、他は全員メイ   

   ド姿で忙しく立ち働いている。客がやってきて、スーがカーテシーで   

   出迎える。   

スー  「お帰りなさいませご主人様~」



   メニューを手渡し注文を取るグレイス&ニナ。グレイスはすっかりメ   

   イドが板に付いている。   

グレイス「こちらのケーキはあっさり目の味ですから、ダージリンが合いましてよ」

客A  「へー」

ニナ  「(グレイス先輩、紅茶話になるとイキイキしてる……)」



   注文された品をトレイに乗せ客に出すスー&クリス。トレイには、ト   

   ーナメントへの参加補助券も一緒に乗っている。   

スー  「お待たせしました~」

客B  「これは何?」



クリス 「明日のここは、ポーカートーナメントの会場になります!」

スー  「ここ以外でも、あちこちの出し物でもらえますから、10枚集めてプレイ

     ヤー登録してください!」

客B  「ふむふむ」




○17


   サクラが戻ってくる。巨大なテディベアを含む多彩な品を、四輪カー   

   トに積んでいる。部室入口の喫茶受付で、エルネスタとの会話。   

サクラ 「協賛してくれる部を回って、賞品を回収してきた」

エル  「協賛のお礼に、優先参加チケットも渡したのよね? なら、敵情視察も

     兼ねてたと思うのだけど、どんな感じだった?」



サクラ 「選手交代可能とはいえ、明日まる一日かけるイベントに、参加してくる

     クラスや部活は多くはなさそうだ。来るようなところはそれなりにメン

     タル強いから、生徒会の言いなりにもならないと思う。ウチらが警戒す

     るのは生徒会だけでいい。……ただ問題は、その生徒会でな……」



   サクラ、カートの中から紙片の束を出す。   

エル  「なぁに、それ?」

サクラ 「学食・購買部共用の金券。優勝賞品にうってつけだ」



エル  「そんなの供出できるのは生徒会だけよね、てことは……」

サクラ 「あぁ、明日のトーナメント、生徒会が直接乗り込んでくる。頭の回るヤ

     ツばかりだ、強敵だぞ」




○18


   エルネスタ、会議室の入口から、室内にいるひとりの人物(生徒会書記   

   のブレンダ)を、顎でしゃくってサクラに指し示す。   

エル  「あれ、生徒会」

サクラ 「何してる?」



エル  「さぁ? 私たちがイカサマ仕込むとでも思って監視してるんじゃない?

     少なくとも、紅茶を味わいに来たのでないことは確かね」

サクラ 「めんどくせぇ……」

エル  「いっそ、トーナメント中止して、明日もメイド喫茶やる?」



サクラ 「……何を今さら?」

   エルネスタ、A4紙の束をサクラに差し出す。   

エル  「アンケート結果。たぶん、ずっとメイド喫茶の方が、実入りいいわよ」



   アンケートの内容。『ケーキおいしい』『明日もここで紅茶が飲みた   

   い』『トーナメント要らない』『カジノ反対』『スーたんハァハァ』   

   etc。   


サクラ 「娯楽産業は風当たりがキツいな……」

エル  「業界の宿命よ。覚悟なさい」




○19


   入口での会話を聞きつけて、ニナが外に出てくる。   

ニナ  「戻ってきたなら手伝ってください、サクラせんぱ……」



ニナ  「い……」

   ニナ、カート内のテディベアを凝視。目がカワイイコレホシイと訴え   

   ている。   



サクラ 「手芸部が供出してくれた賞品だ。胴元権限でガメてもいいぞ?」

ニナ  「いえそんなのダメです! せっかく手芸部の方が出して下さったんです

     から」



   ニナ、ぐっと拳に力を込める。   

ニナ  「勝って賞品として手に入れます」

サクラ 「いや優勝賞品は金券だから。それ2位以下の賞品になるから、その順位

     で負ける、ってことになっちゃうんだよ……?」

   部屋の隅でブレンダがこの会話を聞いている描写。   




○20


   ニナの背後から、ナオミ登場。   

ナオミ 「あの……いいですか?」

ニナ  「あ、お帰りなさいませごしゅじ……ん?!」



   ナオミはのしかかるほどの高身長。ベリーショートの髪に褐色肌筋骨   

   隆々の体格。ビビって後ずさるニナ。サクラは軽口で挨拶。   

サクラ 「よう、ナオミ。さっきはどーも」



ニナ  「お知り合いですか?」

サクラ 「同じクラスのナオミだ。身長195、体重xxx、文句なく学内最大のガタイ

     で、体育なら学年トップ、ボディビルの大会で優勝したこともある」



サクラ 「で、手芸部の副部長で、そのテディベアの作者だ」

   テディベアに抱きつくナオミ。   

ナオミ 「部長が勝手に賞品にしちゃったんだよぅ! 自己最高のデキなのに! 

     返して!」

ニナ  「なんですかそのギャップ?!」




○21


   もうひとり近づいてくる人影。アンジェリーナ登場。   

アンジー「あらあらナオミ、おいたはいけませんよ?」



   振り向いて気づくニナ。アンジェリーナは身長140cm以下。さらふわブ   

   ロンド長髪、赤いリボン。   

ニナ  「(スーよりちっちゃい! 人形みたい!)」



   小さいアンジェリーナと大きいナオミのツーショット。   

アンジー「そのくまさんはもうポーカー部にお任せしたのです。どうしても欲しい

     のでしたら……」



   アンジェリーナ、急激にドス黒い表情に変わる。   

アンジー「(ドスの利いた声)自力で取り返してきぃや」

ニナ  「(そうくるか~!)」




○22


ナオミ 「えぇ~、部長、だったらさっきもらった優先参加チケット、私に回して

     くださいよぉ~」

アンジー「あ? あれはワシが使うんじゃ。ポーカー部ぶち倒しゃ何でも言うこと

     聞くちゅう話じゃけぇの」

サクラ 「あー……ちなみにバウンティ取れたら何を……」



アンジー「コテージの修繕を見た。あの器用さ、手際……欲しい。手芸部の貴重な

     戦力になる」



   アンジェリーナから、一瞬だけドス黒さが消えて白アンジーに戻る。   

アンジー「ですから、スーちゃんは私たちの部に加わっていただきますわ。え

     へっ♡」



ニナ  「……手芸部ですよね?!」

エル  「アンジーの家業はゼネコンなのよ。確かスーのおじいさまも、その会社

     から引き抜きの誘いを受けてたはず……」

   スーが会議室中からチラリ顔見せ。不機嫌な表情。   

スー  「勝手なことぬかしゃァがって、てやんでぃこんちくしょーめ、です!」




○23


ナオミ 「部長ー、じゃあ私は……」

アンジー「あぁ? 好きにせぇや」

ナオミ 「でもチケット……」

アンジー「ここで券10枚分、飲み食いしたらえぇじゃろがい!」



   考えるナオミ。   

ナオミ 「……」



   ナオミ、会議室内に突入、メイド喫茶のメニューをもの凄い勢いで食   

   い尽くす。狼狽するポーカー部員一同。   

グレイス「イヤアァァァ紅茶にプロテイン入れないでえぇぇっ!」



   満腹以上になり、かつ参加補助券を大量入手して去っていくナオミ。   

   入口に〝売切〟の表示を貼り出し、新たに来た客に頭を下げるエルネ   

   スタ。   




○24


   時間経過。   

   第一会議室。部員全員が椅子を並べて車座になって反省会風。サクラ   

   は、腕を組み膝を組んで尊大な姿勢。   

サクラ 「みな、今日はご苦労だった。メイド喫茶は好評をもって終えられた」



サクラ 「だが本番は明日だ。いよいよポーカー部主催のトーナメントなワケだが

     ……強敵で、かつKOバウンティを悪意で使ってくる可能性のあるチー

     ムがふたつある」



サクラ 「生徒会と」

   生徒会のビジュアル。キャサリンとブレンダ。   



サクラ 「手芸部だ。こいつらは2チーム送り込んでくる」

   手芸部のビジュアル。アンジェリーナとナオミ。   




○25


サクラ 「こいつらにKOされると後々ヤバい。生徒会に至っては、ウチの廃部を

     目論んでいるらしい」

ニナ  「それがわかってるなら、KOバウンティなんてなしにしたらどうですか?

     ルール決めるのは私たちなんですし」



サクラ 「主催者が、自分らに都合が悪いからといっていちど決めたルールを覆す

     のは、ゲーム自体の信頼を失う悪手だよ。まぁ、初めのうちの勝負で事

     故負けしてどショートになったら、関係ない参加者に突っ込んでリタイ

     アしよう」



ニナ  「それもそれでプライドが傷つきません?」

サクラ 「プライドでバクチやるのはもっと悪手だ。リスク&リターンだけ考えろ」



サクラ 「ただ、イカサマにならん範囲で、作戦はいくつか仕込む」




○26


サクラ 「ひとつは、明日のトーナメント開始時、ポーカー部のいる卓と生徒会・

     手芸部がいる卓は意図的に離す。さっき言った事故負け対策の保険な。

     うっかりKOされても、相手がヤツらでないように」



サクラ 「それからもうひとつ、考えている作戦があるんだが───」



   サクラ、少し考えるそぶりの後、スーとクリスに向かって、   

サクラ 「スー、クリス。おまえらニンジャ好きか?」



   スーとクリス、一瞬でニンジャコスプレにお着替え。しゅたっと着地   

   し、偉そうに座るサクラの前に跪く。   

スー  「御意」

クリス 「何なりとお申し付けを」

サクラ 「よし。任務を伝える」

   他の三人はビックリの表情。   

グレイス「(あきれて)……軍人思考って設定、もうもてあましてますわね?」




○27


   文化祭中、手芸部は作品展示会を実施している。その会場となってい   

   る教室。スーがニンジャコスプレで陰から耳をそばだてている。   

   アンジェリーナが、他の手芸部員の前で演説調。   

アンジー「おぅてめぇら。明日は出入りじゃ。ポーカー部に殴り込みじゃぁ」

   ナオミが軌道修正。   

ナオミ 「向こうの企画のトーナメントに参加してくるだけですよー。作品展示会

     は明日も通常営業ですから、いっぱいお客さん呼んで、作品を愛でていっ

     てもらってくださーい」

   身長が凸凹なので、手芸部員は首の上げ下げが面倒くさい。   



アンジー「優勝して金券たんまりゲットじゃ。おまえらにえぇもん食わしたるけぇ

     のぉ!」

ナオミ 「私はクマちゃん取り返してくるだけだから、優勝とか考えてませーん」



アンジー「そしてもしポーカー部をKOしたら」

ナオミ 「それでもクマちゃん返してもらいます」

アンジー「違う! ポーカー部から使える部員をひとり引き抜く算段じゃ。えぇ手

     駒になるけぇ期待しと……」

   アンジェリーナの耳のそばを何かがシュッと通過する。   



   床に釘が突き立っている(手裏剣の要領でスーが打ち込んだ)。何事   

   かわからず辺りを見回す手芸部員たち。   

ア・ナ 「……く、くせもの???」




○28


   生徒会室。クリスがニンジャコスプレで陰から耳をそばだてている。   

   キャサリンが、他の生徒会スタッフの前で演説調。   

キャシー「というわけで、運営で忙しいさなかではありますが、我々はポーカー部

     のトーナメントに参加します」



キャシー「求められているのは勝利です。権力者の娘やその取り巻きだからと思い

     上がって、反体制的で勝手極まる言動が目立つ彼女らに、一泡吹かせて

     やりましょう」



ブレンダ「でも、文化祭の運営に支障はないでしょうか?」

キャシー「我々はチームです。チームの誰かが参加して、誰かが勝ち残ればよいの

     です。開場から後夜祭まで文化祭を円滑に進行し、かつ勝負にも勝つ。

     それくらいの余裕は残して準備を進めたと自負しているわ。そして、そ

     れを為せるだけの優秀なメンバーが揃っている。問題はありません」



   場面転換、第一会議室。   

   スーとクリスがニンジャ姿のまま、偉そうに座るサクラの前に跪いて   

   いる。   

ス・ク 「以上が報告です、閣下」

サクラ 「ご苦労」




○29


   時間経過、翌日。   

   第一会議室。ポーカー部員は昨日に引き続きメイドスタイル。ポーカ   

   ーテーブルは10人分×5卓。サクラがマイクを持ってMC。   

サクラ 「そんじゃ始めるぞ! ポーカー部主催のトーナメントを開始する!」



   離れて賞品の棚があり、1位に金券、2位にテディベア。3位以降も   

   あれこれあるが割愛。   

サクラ 「豪華賞品獲得を目指して、みなはりきってくれたまえ!」



サクラ 「本トーナメントはスタックを共有するチーム戦であり、同チームの中で

     あれば、ハンド中以外の任意のタイミングでプレイヤーを交代してもよ

     い。そして……」



サクラ 「この大会には我々ポーカー部6人も、ディーラーを兼任しつつ、全員が

     プレイヤーとして参加する。告知したとおり、ポーカー部をKOしたら

     バウンティとして、ポーカー部に何かひとつ命令できる。もちろんこち

     らはそれを阻止すべく全力で戦う所存だ。では、諸君の健闘を祈る!」




○30


タンポポ「トーナメント・ディレクターは顧問の僕が務めます。それでは、シャッ

     フルアップ・アンド・ディール!」

   着席するキャサリン、アンジェリーナ、ナオミら参加者たち。ポーカ   

   ー部員は、グレイスを除き、ディーラーとして各テーブルで待機。   






○31


   ポーカー部の最初のプレイヤーはグレイス。他の部員はディーラーを   

   しているので、以下『』内のセリフは枠外回想風に表現。   

サクラ 「『ポーカー部一番手はグレイスだ』」



   グレイスに手札が配られる。   

ニナ  「『実力とプレイングスタイルを考えると危険では? 真っ先に飛んでし

     まうかも』」

サクラ 「『それならそれでいい、相手が生徒会や手芸部でなけりゃな』」



サクラ 「『それに───』」

グレイス「どーんとオールインですわ!」



   〝絶対負けませんオーラ〟を放ちながらオールインするグレイスに、   

   ビビる他のプレイヤーたち。   

サクラ 「『トーナメント序盤、誰だってすぐに飛びたくはない。あのオッズに合

     わない〝どーんとオールイン〟に、真っ向突っ込めるヤツはそうはいな

     いよ』」

ニナ  「『なるほど……』」




○32


   グレイスの卓、継続中。   

   グレイスが〝どーんとオールイン〟を連発して、他のプレイヤーが萎   

   縮している様子。   

グレイス「負けませんわよ~」

サクラ 「『グレイスはプレイが荒くて引きも弱い。リングゲームならもちろん、

     トーナメントでも、スタックに差がついた後なら格好のフィッシュだ』」

ニナ  「『言い切りますね』」



   他のテーブルで、アンジェリーナもオールインを連発している。   

サクラ 「『だがポーカーは、相手を全員下ろしても勝ちの競技だ。それを狙って

     気迫でマウントするラフプレーだって、バクチの打ち方にゃ違いない

     さ』」

ニナ  「『そうでしょうけど……』」



サクラ 「『ま、市長の娘や社長の娘に突っかかるヤツはフツーいない、って話で

     もあるがな』」

ニナ  「『あ、結局は権力ですか……』」

   グレイス、チップを1.5倍に増やしてニコニコしながらエルネスタに交   

   代。ゲンナリしている他のプレイヤーたち。   



サクラ 「『二番手はエルだ』」

ニナ  「『また権力者を!』」

サクラ 「『権力者だから先に終わらすんだよ。後半戦は、あいつらの圧力はディ

     ーラーとして役立てたい』」




○33


   エルネスタ、堅実な打ち回し。ショートしていた参加者を食らい、チ   

   ップ量はスタート時の3倍ほどまで増やす。   



   一方、アンジェリーナは引き続きオールインを連発。   

アンジー「死ねやおるぁ!」

参加者A「キャーッ」

   参加者A、オールインに応じて敗れ、チップをすべて奪われ退場。   

タンポポ「テーブルブレイクです!」

サクラ 「『最初の10人が飛んだか』」



   アンジェリーナが大量のチップを持って(この時点でチップリーダー)、 

   エルネスタのいるテーブルにやってくる。エルネスタの2つ右の席に   

   着席。   

アンジー「さぁ、やったるけぇの、ポーカー部!」



   エルネスタ、少し考えた後、席を立つ。   

エル  「ポーカー部メンバー交代するわ。次はクリス」

アンジー「なんじゃとぉ?!」

クリス 「えっ! なんで今?! あの人めっちゃ恐いじゃないですか!」




○34


   クリス、ガクブルで着席。   

   他でディーラーをしているサクラがいったん立ち上がり、大声ですべ   

   ての卓に呼びかける。   

サクラ 「ポーカー部三番手はクリスだ。こいつはこの春ポーカーを覚えたばかり

     の初心者! バウンティを狙うなら今がオススメだぜ!」



   一方でクリスにはこうささやく。   

サクラ 「スタックを守れ。有利でも攻めるな。その代わり、リンプやゆるいレイ

     ズは積極的にコールして、マルチプレイヤーに持ち込め。アンジーによ

     そと食い合いをさせろ!」

スー  「(ディーラー中の別のテーブルから)クリスちゃんならできます。がん

     ばって!」

クリス 「りょ、了解ッス!」



   クリス、緊張の面持ちでプレイ開始。荒いプレイが継続するアンジェ   

   リーナ。   

クリス 「(れ、冷静に……)」

アンジー「オールインじゃおるぁ!」



アンジー「そこのポーカー部の! 縮こまっとらんと攻めてこんかいワレェ!」

クリス 「(ひいぃぃ!)」




○35


   数ハンドが経過。アンジェリーナはさらにチップを増やしている。   

   アンジェリーナDPディーラーポジションで、手札♣J♣T。MPミドルポジションの3BBレ

   イズオープンに10BBで3Bet。クリスBBビッグブラインドでコール、MPも   

   コール。      



   フロップ♠Q♠J♡J。MP、アンジェリーナ30BBベット。クリ   

   スコール、MPフォールド。   



   ターン、♠T。アンジェリーナ、フルハウスになってほくそ笑む。   

アンジー「(プリフロップの3betにOOPアウトオブポジションからコールするレンジに、このフ

     ルハウスに勝てる手はない。勝ち確定じゃ。しかも、ストレートやフラッ

     シュがヒットしとったら下りれん手じゃ……、誘い出せたら上々!)」



   アンジェリーナ、オールイン。   

アンジー「攻めてきぃやちゅうとるんじゃこんダボがぁ!」

クリス 「え、えっと……守れって言われたけど……これはコールしていいよね…

     …」

   クリス、オールインにコール。   

アンジー「(かかった!)」




○36


   クリス、♣Q♢Qをショウ。Qハイフルハウスでクリス勝利。   

アンジー「え」

   アンジェリーナ、呆然。   



アンジー「ちょぉ待てやぁ! なんでその手をプリフロップでレイズせんのじゃ!」

クリス 「え、だってAがボードに落ちたらヤだし」



   アンジー、魂の抜けた顔。   

クリス 「それに、相手がレイズするってわかってるときは、こっちからレイズす

     る必要ない、って、以前スーちゃんが……」



アンジー「(くっ……じゃがまだ負けとらんけぇ! 強気イメージが残っとるうち

     に少しでも取り返して……)」

スー  「クリスちゃん、交代ですー」

   スーがにこやかに登場、しかし目が笑ってない。   




○37


サクラ 「『四番手はスー。あいつの場を読む能力は傑出してる。混戦乱戦に向く

     タイプだ。しかもクリスのファインプレーのおかげでビッグスタック、

     止まらないぞ』」

ニナ  「『……ていうか、なんか鬼気迫ってません?』」

   スーが着席(SBスモールブラインド)、微笑を貼り付けたまま。   

   COカットオフのアンジェリーナの手札は♣A♢9。3BBレイズしながら   

   苦々しい表情。   

アンジー「(クソッ……なんじゃあいつ、薄っ気味悪い笑い方……)」

スー  「コール」



   フロップ♡2♢7♠9。   

アンジー「(クソドライボード! ポットが膨らまんで終わる、つまらんパターン

     じゃ……)」

   スー、つとめて冷静に、チップをすべて押し出す。   

スー  「オールイン」

アンジー「……?!」



   アンジェリーナ、混乱の後、怒りの表情。   

アンジー「ドンクオールイン?! ありえん! ……こっちがショートした思てク

     ッソなめたプレイしくさって……」



   アンジェリーナ、ほくそ笑みに表情を変えて、コール。   

アンジー「ミエミエのブラフベットじゃろうが! こちとらトップペアじゃオ

     ラァ!」




○38


   スー、♠T♠Jをショウ。   

アンジー「2オーバーにガットショット!」

スー  「それとバックドアフラッシュドロー。今は役なしブタでも、トップ

     ペアに4割勝てる。下ろして良し、キャッチされて上等」

   スーの声がとても冷徹。   



   ターン♠Q。スーのハンドにフラッシュドローが付加。   

スー  「こういう勘所は、毎日研鑽を積んでないとわからない」

アンジー「がっ……」



   リバーに♠A。アンジェリーナはツーペアになるも、フラッシュでスー   

   の勝利。   

   スー、やおら立ち上がって、中指おっ立てるポーズ。   

スー  「ナメてんのはどっちだ───現場の兵隊、モノ扱いしてんじゃねぇぞゴ

     ルァ!」



スー  「……って、おじいちゃんが言ってました、てへぺろ!」

   衝撃を受けるポーカー部員たち。   

クリス 「『隊長がガチギレするの、初めて見ました』」

ニナ  「『手芸部に引き抜かれるって話、よっぽど不愉快だったのね……』」

   轟沈するアンジェリーナ。   

アンジー「後は任せたけぇの、ナオミぃ……」




○39


   時間経過。その後もスーは稼いで、へろへろになりながらも、チップ   

   リーダーを維持してサクラと交代。   

サクラ 「五番手は、あたしだ」

ニナ  「……やっぱり、私がトリなんですか」

サクラ 「ポーカー部きっての理論派だからな。最終盤、少人数勝負になってから

     の方が強いはずだろ? それに、追加の〝作戦〟は、あたしやエルがやっ

     たら怪しまれる。おまえが適任だ」



   さらに時間経過描写。   

タンポポ「ナオミさんがふたりまとめてノックアウト! 残り10人、ファイナルテ

     ーブル突入です!」

   ナオミとキャサリンが、サクラのテーブルにやってくる。   



   キャサリンがサクラの前に立って、上から目線で声をかけるが、サク   

   ラは目も合わさない。   

キャシー「ようやく勝負できますね。相まみえるまでちゃんと残っていてくれて幸

     いです、サクラさん」

サクラ 「別にこっちは、誰が相手でも楽しくのんびりやるまでさ。そういきり立

     つなよ」



   サクラ、ナオミを指差す。   

サクラ 「……それより、こいつに手こずりそうだ」

キャシー「同感です。さっきのテーブルでもほとほと手を焼きました」

   ナオミはアンジェリーナ同様のアグレッシブプレー。   

ナオミ 「オールイン!」

参加者B「キャーッ」




○40


   あるハンドでナオミがレイズオープン。   

ナオミ 「レイズ!」

サクラ 「………………下り」

   BBにいたサクラ、長考してからフォールド。   



   別のハンドで、レイズオープンしたサクラが、ナオミからのリレイズ   

   に、長考の後フォールド。   

ナオミ 「もういっちょレイズ!」

サクラ 「………………下り」

キャシー「(……ナオミが難敵とはいえ、これじゃわざとチップを分け与えて延命

     させているような……時間もかけすぎだし……いったい何なの? サク

     ラを正面対決で打ちのめしたいのに、全然チャンスが来ない)」



   突然、スピーカーから校内放送が流れる。   

放送  「〝生徒会長、生徒会長、至急生徒会室にお戻りください〟」

   キャサリンがはっと顔を上げる。   

サクラ 「おい、呼んでるぞ、キャシー。後夜祭でキャンプファイヤーやるんだろ。

     火の始末は責任重大だ、トップが遊んでましたじゃ通らないんじゃない

     のか」

キャシー「くぅっ……残念だわ、あなたの泣きっ面が直接見られないなんて」



キャシー「(これを待っていたの? 私個人の排除のために、ナオミを利用して時

     間稼ぎをしていた? なぜ? 私がいなくても、生徒会には優秀なメン

     バーが揃っているのに……)ブレンダ、いる? 後は任せます」

サクラ 「こっちも交代だ。お膳立てはすませた。ニナ、行け!」

ニナ  「はい!」

   ポーカー部はサクラからニナへ、生徒会はキャサリンからブレンダへ   

   交代。   




○41


   時間経過。窓の外は暗くなり始めている。グラウンドでは後夜祭の準   

   備が始まっている。   

   ついにナオミ、ブレンダ、ニナ(チップリーダー)のラスト3人にな   

   る。ディーラーはタンポポ。みな一様に疲れが見えつつ、懸命に頭を   

   働かせて勝負に挑むニナ。   

ニナ  「(ナオミさんは、さっきから急にタイトになってる。ならこっちからど

     んどんレイズする。ブレンダさんは思ったよりアグレだけど、ディフェ

     ンス率を下げるよりはむしろフローティングしてこっちからしかけ

     る!)」



ニナ  「(そして、もうひとつの作戦……)」

   回想。   

サクラ 「『アグレに攻めて、積極的に五分五分フィフティフィフティの勝負を仕掛けていけ! 勝て

     ればヨシ、負けても〝作戦〟が残ってる!』」

   回想戻り、ニナに手札♢7♡7が入る。   



   ニナ、3BBレイズ。ナオミフォールド。ブレンダ、大きくリレイズ。   



ニナ  「(!! ブレンダさんのこのレイズにブラフはほぼない。レンジ的に2

     オーバーは確実……普通なら7ポケは勝負に出たくない手、だけどここ

     が仕掛けどころだ!)オールイン!」

     ニナ、敢然とチップを押し出す。



○42



ブレンダ「(悩んで)……コール」

   ニナの♢7♡7に対し、ブレンダは♣A♣Kをショウ。   



   どよめくギャラリー。〝勝負に出た! これは決まるか? 典型的な   

   フィフティフィフティ!〟   



   フロップ、ターンとボードが開かれる。すべて無関係なラグ。   



   リバー、♡A。勝利して、ブレンダはほっと胸をなで下ろす。   

   〝あぁ~〟と、再びどよめくギャラリー。   

   チップ量が逆転、ブレンダがチップリーダー、ナオミが2位、ニナは   

   3位に転落。   




○43


ニナ  「負けちゃったかぁ~、勝負どころだと思ったんだけど……」

   ニナ、ふぅ、とため息をついて外を見る。   

   外はもう夜で、後夜祭の準備は着々と進んでいる。   



   ニナ、ブレンダとナオミに、朗らかに話しかける。   

ニナ  「みなさん、もう遅くなっちゃいましたし、ここでお開きにしませんか」

ブレンダ「どういうこと?」



ニナ  「ディールです。今の順位で確定しようってことです。生徒会は、私たち

     に勝てれば面目が立つんでしょう?」

ブレンダ「えぇ……まぁ」



ニナ  「ナオミさんがさっきからタイトだったのは、2位キープで賞品のテディ

     ベア確保が狙いですよね? なら、このまま確定できれば御の字ではな

     いですか?」

   ナオミはうんうんと頷く。   




○44


   回想。   

サクラ 「『クリスのニンジャ報告を聞く限り、キャシーはKOバウンティの獲得

     が主目的だと生徒会メンバーに伝えてない。それが校長の命令で、犬み

     たいに従っていること、後輩には後ろめたいんだろう。それなら……』」



   回想戻る。   

ニナ  「先輩方はガチだったみたいですけど、ポーカー部主催の大会でポーカー

     部が勝っちゃうのはどうなのかな、って私は思ってて。ここらへんが潮

     時かなって」



ニナ  「生徒会さんには、今の私のチップ分、賞品の金券を少し融通してもらっ

     て、ナオミさんは……私にも1個、小さいテディベア作ってくれません

     か? それで私たちは敗北を認めます」

ナオミ 「(頼まれて嬉しそう)OK! 異議なし!」

ブレンダ「まぁ、手芸部がそれでいいなら……」



サクラ 「(会話に割り込んで)よーしディール成立! トーナメント終了、お疲

     れさま! 優勝は生徒会チーム! おめでとー!」

   わざとらしく拍手するエルネスタとグレイス、舞い散る紙吹雪。   

   ホッと息をつくニナ。   

ニナ  「ディール作戦成功……、よかったぁ~」




○45


   生徒会室。ブレンダから結果報告を受けたキャサリンが愕然とする。   

キャシー「ディールで終了? KOじゃないからバウンティはなしですって?」

   キャサリンがなぜ驚いているのかわからず、ブレンダは腑に落ちない   

   表情。   



   校長室。キャサリンから結果報告を受けた校長は怒りの表情。   

校長  「ディールで終了? KOじゃないからバウンティはなしですってえぇぇ

     ぇ!?」

キャシー「(ホント、どういう私怨があるのかしら……)」

   キャサリン、神妙にしつつもあきれ顔。   



   後夜祭会場。キャンプファイヤーが燃え盛っている。   

   テディベアを愛でるナオミ、〝今日はこんくらいで勘弁したるけぇ   

   の!〟と吠えるアンジェリーナを背景に、ベンチに一列に腰掛けて  

   ポーカー部一同の会話。   

サクラ 「みんなお疲れ!」

グレイス「これでメイド服もお役御免、ちょっと寂しいですわね……」

スー  「えー、一生着ていたいですよぉ」

グレイス「それは絶対イヤ」



クリス 「ところで、そもそもディールって何ですか?」

エル  「要するに、勝負を話し合いで決めること。高額賞金の大会の終盤では、

     勝負をつけて順位を確定するより、手持ちのチップ量で賞金を按分した

     方が取り分が増える場合があるから、負けそうな人が勝ちそうな人に取

     引を持ちかけるのよ」

ニナ  「私、サクラ先輩はディールで負けるなんて認めないと思ってました」

サクラ 「だからさ、リスク&リターンなんだよ。……リターンってのは、ゼニカ

     ネだけじゃなくって、そう……こうして『楽しかった』って笑えるのが、

     最高のリターンなんじゃないの?」

ニナ  「そうですね!」



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