短編小説「思い出のクリスマス」

永遠の二十四歳☆

「思い出のクリスマス」




?「ねぇねぇ三沢ミサワ君」


三沢「はい、なんでしょうか八雲ヤクモ先輩」


八雲「もう、そう硬くならないで。これから私達、予定がない者同士で飲もうって話しになってるんだけど、一緒にどう?」


三沢「あ~、マクノを除いて皆独り身ですもんね」


八雲「うるさい、余計なこと言わないの! で、どうする?」


三沢「いいですよ。それじゃあどうせですし、自分の家でやりましょうか。一軒家のほうが、いろいろ自由にやれますし」


八雲「お、ラッキー! 三沢君の作るおつまみはおいしいんだよね~♪」


三沢「先輩……もしかして最初から狙ってました?」


八雲「んん~♪ そんなことはないよ」


三沢「良い笑顔で言われても説得力がないですね」




八雲「ひいっさしぶりのみっさわく~ん、のお手製お手製おつまみちゃ~ん♪」


三沢「変な歌歌いながら横でステップしないでください。恥ずかしいです」




――三沢家




?「いやぁ、三沢先輩の家に来るの初めてで、すこし緊張してますよ」


三沢「あ~そういえば拓海タクミうち来るの初めてだっけ。というか隣の可愛い子はご家族さん?」


拓海「あ、すいません。三沢先輩にはまだ紹介してなかったですね。内の妹の美弥ミヤです」


美弥「み、美弥です。よろしくお願いします」


三沢「拓海君の先輩の三沢です。よろしくね……しかしなるほど、どうりで雰囲気が似てる訳だ」


拓海「えっ、似てますか? 僕と妹は」


三沢「ああそっくりだ……このちょっと怖がってるところが特に」


拓海「はははっ、それは先輩が強面だからですよ。先輩全然笑いませんし」


三沢「ぐっ、そ、そんなことないよなぁ幕ノ内マクノウチ


幕ノ内「いんや三沢は全然笑わない。昔お前を笑わせたら飯奢りって勝負で、クスリとも笑わなかっただろうが」


三沢「そ、そうだったか…」


幕ノ内「そうだったよ」


三沢「……そんなことよりもだ! 皆グラス持ったんだし、サザナミさんの音頭で飲もう!」


?「三沢!」


三沢「は、はい!」


花蓮「私の事は、会社以外では花蓮カレンと呼べと言ったろう。私は自分の性が嫌いなんだ」


三沢「そ、そうでしたね花蓮さん。すいません」


花蓮「いや、わかってくれればいいさ。大声で呼んですまないな」




花蓮「それじゃあ特になにもないが、クリスマスってことで! かんぱーい!」


全「「「「「かんぱーい!」」」」」




――後輩の妹・美弥




三沢「ああぁ、やっぱ黒糖梅酒こくとううめしゅは不味いなぁ」


美弥「ま、不味いのに飲んでるんですか?」


三沢「あ、美弥ちゃん…えぇと、無理に話しかけなくてもいいんだよ?」


美弥「い、いえ! 兄さんにこれも社会勉強だと言われましたので!」


三沢「あはは、仲が良いんだね。でもお酒はダメだよ? 未成年なんだから」


美弥「わかってます…それにしても、本当に笑わないんですね」


三沢「え? あ、う~ん、自分では結構笑ってるつもりなんだけどなぁ。なんでか周りにはそう見えないみたいだね」


美弥「無表情ってわけじゃないんですけど、なんか苦笑いって感じです」


三沢「はっはっはぁ!」


美弥「笑ってるんですけど、なにか違います」


三沢「手厳しいねぇ。そういえば、学校とか勉強はどうなの?」


美弥「あ、はい。兄さんに教えてもらってるおかげで、大丈夫です」


三沢「そうかい。実に良い事だ」


美弥「…あの、三沢さんはどうだったんですか? ……学校」


三沢「ん? ああ…………俺は酷かったよ。親に迷惑ばかりかけて、他人を傷つけて…その癖大人の真似事をして、適当なこと言って玄人くろうとぶっててな。ホント、最低でみっともなかった」


美弥「………………」


三沢「あ~、ごめんよ? 辛気臭くするつもりはなかったんだ……難しい事だろうけど、後から後悔しないように生きなよ」


美弥「……心に響かない、ありきたりで普通の言葉ですね」


三沢「ははっ、そうかもな……でも、その普通がなによりも大切なんだって、いつか気づけるようになるよ」


美弥「ふふっ、そうなったら、今度は一緒にお酒を飲みましょうね」


三沢「あいよ。ただし! その時に未成年でなければな」


美弥「はい!」




――後輩・拓海




拓海「どうでした? 内の妹は」


三沢「ん? ああ、良くできた子だったよ。慣れない相手、相手が大柄で怖くてもしっかりしてるし、あれは将来大物になるかもなぁ」


拓海「はははっ、僕のときはそんなこと言ってくれもしなかったのに、随分と高い評価を得てきたようですね、僕の妹は」


三沢「お前は初対面でビビリ過ぎだ。半泣きになるって、あれはさすがに失礼だし…なにより結構沈んだぞ」


拓海「そ、そんなにしょげないでくださいよ先輩! ほ、ほら! 今ではこうやって普通に会話できてるじゃないですか!」


三沢「それはお前が入社して二年も経ってるからだ。妹ちゃんみたいに、出会ってすぐ慣れたわけじゃない」


拓海「先輩、頼みますから急に真顔にならないでください。怖いです」


三沢「ははははは」


拓海「笑うのもやめてください。怖いです」


三沢「おいおい、どこが怖いって言うんだ、この完璧な営業スマイルが」


拓海「いえ、確かに営業のときは、先輩人懐っこくて良い笑顔なんですけど、フリーのときだとかなりやばいですよ? それはもうお迎えの死神かと見間違うくらいに」


三沢「どんだけ破壊力があるんだ、俺の笑顔」


拓海「道端で出くわしたら、通報なんて考える暇もなく飛んで逃げますね」


三沢「そんな事がマジであったら、俺は泣く自信がある」


拓海「泣き顔も怖そうですよね、先輩」


三沢「…………ほう。拓海君はそんなに俺の最高の笑顔が見たいのか」


拓海「ぼ、僕! 妹とちょっと話があるんで! 行ってきます!」


三沢「ははは、はいはい……お前はまだ若い、それに入社も二年目だ。期待している。頑張れよ」


拓海「…はい!」




三沢「くっくく、返事の仕方も同じか。さすが兄妹けいまいだな」




――同期・幕ノ内




幕ノ内「み~さわっ! 飲んでるかぁ~えっひゃひゃひゃひゃひゃ!」


三沢「マクノ、お前は飲み過ぎだ。あと変な笑い方するな」


幕ノ内「お、いいねぇその呼び名、懐かしいわ~!」


三沢「聞いちゃいねぇってあ~、確かこれ十年近くは前か」


幕ノ内「そうそう! いやぁマジで懐かしいな!」


三沢「やめろ、おやじ臭いだろうが」


幕ノ内「三十路みそじ前半の野郎が、今更なにを言っても無駄だろうよ」


三沢「それもそうか、ははは!」



幕ノ内「ところでよぉみさわぁ、おまえ結婚とかしないわけ~?」


三沢「あぁん? 俺かぁ? 俺はマクノみたいに、人付き合いが上手いわけじゃねぇからなぁ。残念ながら結婚なんて考えらんねぇわ~」


幕ノ内「へへへ、おまえもようやっと酔いがまわってきたみてえだな!」


三沢「お前がぐいぐい飲ませるからだろうがぁ。まぁ俺は酒につえぇからまだいけるけどな」


幕ノ内「とか言ってぇ、顔赤いぜぇ?」


三沢「おういいじゃねぇか。明日明後日は会社も休みだ、一勝負いくかぇ?」


幕ノ内「おおうけぇ、酒飲み勝負じゃあ!」




――数分後




三沢「うぅっぷ、おろろろろろろろ」


幕ノ内「げぇ、ごっ、ぼああぁ」


花蓮「お前ら…飲み過ぎだ」


幕ノ内「あぁ、やぐぼぜぼらららららら」


花蓮「幕ノ内、三沢、大丈夫か?」


三沢「うぉれはまぁいりほうらいりょうふでふが、いまのらきようをみらろおり、ばくのうりはががびやばぁいでる」

(俺はまぁ一応大丈夫ですが、今の吐きようを見たとおり、幕ノ内のほうはかなりやばいです)


花蓮「口内ドロドロお化けに言われてもな。わからんぞ」


三沢「がぁ~、ろりがくがでんらん! らろりまひた!」

(がぁ~、とにかく花蓮さん! 頼みました!)


花蓮「お前はどうする?」


三沢「ひずもってそろりらひってひらふ、うえっぷ」

(水もって外庭行ってきます、うえっぷ)


花蓮「わかった…はぁ、ほら行くぞ幕ノ内!」


幕ノ内「がっ、ぼぇぶ」


花蓮「袋を用意してるのが、唯一の救いだな」




――先輩・八雲




八雲「にゃは~、み~さ~わ~くーん!」


三沢「うぐっ、苦じ…抱きつかないでください。八雲先輩」


八雲「うえぇ~? もう酔いが醒めれるの~? つまんなーい!」


三沢「はあ、そう言われましても、俺の体は元々アルコールの分解が早いんですよ」


八雲「ぶっ…あぶらいあぶらい、ふくろころらった」


三沢「先輩は袋もなにも持ってないんですから、吐いちゃだめですよ。吐くならせめて外じゃなくて、トイレでしてきてください」


八雲「んん~、つ~め~た~いー!」


三沢「んあぁあああ! 引っ付かないでください酔っ払い!」


八雲「むぅ、先輩にむらってひつれいらろ~?」


三沢「もう…つまみはあっちですよ」


八雲「え~、せっかく一緒に飲みにきらのにぃ~!」


三沢「あぁあああぐびをづがまないでぐだざい…じぬ」


八雲「ふっぅうう! えっへへー!」


三沢「ぶはぁ! はぁ、はぁ、あぁ~……死ぬかと思いましたよセンパァアイ?」


八雲「あ、あっははー、こ、怖いよみしゃわ君!」


三沢「先輩」


八雲「ひゃい!」


三沢「乾杯です」


八雲「……………………カンパイ♪」




――数分後




八雲「すぅ…すぅ…」


三沢「ああぁ、リビングに担ぐのも一苦労だぁああ」


花蓮「ははは、そっちもそっちでお疲れのようだな」


三沢「あぁ、花蓮さん…」


花蓮「どうだ、あと一杯、私に付き合ってくれないか?」


三沢「…上司のお誘いとあらばよろこんで」




――上司・花蓮




花蓮「んく、んっ、ん……ぷはぁ、やっぱりいいな、発泡酒は」


三沢「んっ……あぁ…自分は梅酒ですがね」


花蓮「すこし飲むか?」


三沢「いえ、遠慮しておきます」


花蓮「ははぁん、もしや間接キスとか気にしてるのかぁ? はっはっはっはっは!」


三沢「花蓮さん…実は結構酔ってますね?」


花蓮「そりゃあぁなー! 私も結構飲んだぞ~?」


三沢「ま、呂律ろれつとかはまわってますし、まだいけますね」


花蓮「はっはっは、飲むのはこの一杯だけだがな!」


三沢「……そうですか」




花蓮「んっ、はぁ…こんな自由な飲みは久しぶりだ……悪くないな」


三沢「んっ、くはぁ~、そうですね、俺も悪い気分じゃありません。このあとの片付けを考えなければ、ですが」


花蓮「ははは! まぁ頑張ってくれ!」


三沢「ふっはっは、せいぜい頑張りますよ」


花蓮「そういえば三沢、もうすぐ幕ノ内の娘の誕生日らしいぞ」


三沢「あぁ、そういえばそろそろでしたねぇ」


花蓮「これでやっと、ピカピカの園児だな」


三沢「幼稚園。いやぁ、もし戻れるなら戻りたいもんですよ」


花蓮「はっはっは、お前が抜けたら部署内が更に忙しくなるから、勘弁してほしいものだ!」


三沢「あはは、まぁ大丈夫ですよ。俺はこの会社を去るつもりなんてないですからね」


花蓮「ふっ、そう言ってくれるのは、上司としても嬉しいな」


三沢「っははは、これからもよろしくお願いします。上司の花蓮殿」


花蓮「ふふふ、こちらこそよろしく頼むぞ。部下の三沢君」




――――――――――

――――――――

――――――

――――

――数年後




花蓮「三沢、そういえば、あれがお前との最後の飲みだったな」


拓海「三沢先輩、向こうでどうしてますかね……」


幕ノ内「さぁ、もしかしたら笑いながら俺達を見守ってるかもよ?」


美弥「そうでしたら…嬉しいですね。約束を破られたのは未だに恨んでますが」


八雲「あっははー、三沢君モテるねぇ」


花蓮「そうだな、モテモテだ」


幕ノ内「……チッ、あいつめ、まだまだこれからだって時に、先に逝きやがって…畜生がっ」


拓海「仕方ありませんよ、幕ノ内先輩。最後まで三沢先輩は三沢先輩だったんですから」


八雲「まさか幕ノ内君の娘さんが車に轢かれそうになったのを、体を張って……命を懸けて助けるなんてね」


幕ノ内「ちっくしょうが。本当なら俺が――」


美弥「幕ノ内さん、それは言っても仕方がないことですよ。それに、幕ノ内さんが亡くなったら、娘さんも奥さんも後がないじゃないですか」


幕ノ内「それでもやりきれない気持ちは抑えられねぇよ」




花蓮「さ、湿っぽい話をしてたら三沢にも悪い! 今から皆で飲みに行こう!」


幕ノ内「わかりましたよ。よっしゃ! 飲んで飲んで飲みまくるぞー!」


八雲「ほどほどにしたほうがいいよー? 前もそんなこと言って酔い潰れて、奥さんに怒られてたし」


幕ノ内「うぐっ、わ、わあったよ」


拓海「あっはは、先輩も八雲先輩には振り回されるんですね!」


美弥「兄さん、八雲さんに失礼だよ」


幕ノ内「えぇ! 俺は!?」


美弥「私は女の味方です」


幕ノ内「うげぇええ」


花蓮「その話は歩きながらしろ、とっとと行くぞ~!」


全「「「「はい!」」」」




~Fin~

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短編小説「思い出のクリスマス」 永遠の二十四歳☆ @Eternal24th

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