間章

第4話・間章~最初の夜~

 七月五日の零時。


 人々は寝静まっていた。田んぼのカエルや森のセミも、大雨の今晩は合唱をしていない。


 そんな頃、神社の裏手に一人で忍ぶ影があった。


 彼女は雨に打たれながら、神社の蔵を開ける。扉には鍵が掛かっていなかったので、なんの障害もなく中身を晒す。手に持っていた懐中電灯で蔵の中が照らし出されると、彼女のお目当てが鎮座しているのが見えた。


 磐舟神社に奉納されている七夕の神器だ。懐中電灯の光を浴びて、青い竹鞘が仄かに光る。箱には納められておらず、剥き出しで置いてあったことを僥倖に思いながら、彼女は迷わずそれに手を伸ばし、素早く懐にしまい込む。


 悪天候にも関わらず、その一連の作業には無駄がなかった。


 もともとここに置いてあるのは知っており、去年も一昨年も盗みに入っているためだろう。それに加えて、過去にバレなかったという実績からくる自信もあった。


 素早く抜け出すと、もとあった通りに扉を締める。


 彼女は手に入れた神器を見てほくそ笑み、懐中電灯の光を消すと、水たまりを蹴って闇の中へと姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る