第六話 人里に降りた鬼たちは 一

「人間は兵器を所持している―――新型の弓矢なのかもしれない。もっとも、千年前に既に火薬で弾を飛ばす兵器を生み出していた人間だが」


 布団の中でリョクチュウは念仏のように唱えていた。

 考察、だそうだ。

 バスタムとケイカンの話から考えているらしい。


「―――寝ろよ、明日もなんかあるんだぜ、ほら………」


 俺はと言えば、思考が働かない、働かせたくない程度には眠かった。


「千年の間に文明が進化していることは把握していた、だがしかしこんな小さな島の民族、どこにでもいる一般的な住人が殺傷力を持つ兵器を、普段から所持しているとは―――これではみやこにどれほどの人間戦力が集結していることか、しかしここで問題となるのは」


 うん、うん。

 そうだね………それは明日の昼に考えよう。

 お前は寝る気が起きないのか。

 俺は主張すると眼が覚めてしまいそうなので、徹底して布団を眺めるのみだった。


「あの白い人間がかなり訓練された兵士だということはあり得る―――そうは思わないか?」


「ん………ああ―――」


 いや、俺眠いし。


天稚彦あめわかひこという人物がいた。日本神話に出てくる、一人の神だ。彼は天がつかわした一匹のきじを弓矢で撃つのだが、やがて天から返り矢が降ってきて、命を落とす―――」


 なんだか、いつの間にか話や引用が壮大になってきた。

 神話か、伝説か。

 堅苦しい古典を引っ張り出してこられてもね。

 お前ほど学がないのさ、俺は。


「雉だって………?」


 何かを連想しそうになったことは確かだが。


「は、寝る前なんだからもっとさらっと聞ける話を頼むぜ、生まれたての餓鬼でも―――わかるのを」


 と言ったら、リョクチュウは歯噛みした。

 そんなに怒るなよ、俺は眠いって言っているだけなんだから。

 今日はあやうく死にかけたしな。

 そして任務は続行なのである、ならばそれに備えて休むしかない―――。


「バスタムは―――どう思う」


 俺ではらちが明かないと思ってくれたのか、リョクチュウが問いかける。

 奴はもう寝ていた。

 すやすやと。

 あいつに関しては、こう、壮大ないびきをかいていそうなイメージを抱いていたのだが。

 うるさいし。

 寝顔だけは可愛らしいくらいだった。


 リョクチュウは布団を抜けて、立ち上がって、俺たちから離れていったのが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る