第四十二話 未来桃太郎 二
ルミリオの毒気が霧のように広がっている。
もう慣れたものだ―――マスクは正常に機能している。
毒素を清浄にしている。
「四分隊はこの辺りの敵をあらかた倒したらしいな」
腹に穴の開いた、ルミリオの残骸が、死体が転がっている。
ルミリオの腕の爪、その切れ端が見えた。
無線通信具を作動させる。
「オイ、三分隊だ。四分隊へ、応答しろ、位置を知りたい」
数秒の間、返答はなし。
「ちぃ―――夢中か、と倒すのに?」
そうあわてるな、と隣を歩く隊員が言う。
悪態をつきつつ、進む。
またルミリオの死体だ。
その背には大きな穴が開いている。
仕事熱心なことだ―――と感心しつつ、新型魔石刀を構えなおす。
道が入り組んでいる―――木の陰に注意しながら進む。
樹海の中は視界が悪く、木も蛇のように曲がりくねった変形樹が多い。
気は抜いていない。
―――しかし、そこで異変を目にする。
前方で倒れているものがいた。
それはルミリオではなく、同じ魔軍服を身に着けた、仲間の鬼、であった。
「どうした!くそ―――やられたのか、奴らに」
恐れていたことは、あった。
味方の負傷、鬼の負傷。
ルミリオに対抗する武器はあっても、それでも防具の強度に関しては完全ではない。
あり得ること---だ、これは安全な戦いなどではないのだ。
「ルミリオの脅威は数だ………一度に襲い掛かられたら対処できない。刀の威力を過信するな………」
「うう………ち、ちが」
「血が出てる!待て、応急を」
「違う―――」
まわりに応援を要請しようとしたところで、木に背を預けて倒れている隊員を見る。
彼も、腹に大きな穴が開いて血が流れている。
やられたのは一鬼でないのか―――益々、こうしてはいられない
「違う―――」
もう一度、隊員が言った。
ふと、考える。
待てよ―――腹に大きな穴が?
穴が、円形が。
あれは―――あれ?
ルミリオの鋏では、挟み切られる―――のだ。
魔石刀で切ったのなら、切れた断片になるはず。
少し変な使い方だな、穴が開くとはどういうことだ。
どういう………?
あの刀で突き刺したの、だろうか………?
立ち上がって、前方を見る。
鬼の目にも涙、という言葉があるが、彼は最後まで、涙を流すことはなかった。
瞳には、赤い光が映った。
赤い光の目を持つ、鳥のようなもの―――を、見た。
―――ミヴッ。
黄緑色の閃光。
それが―――光ったように思えた。
彼は数秒後、腹のあたりの大きな穴を手で押さえながら、よろめく。
血潮がぱちゃぱちゃと音を立て、地に落ちる。
彼はゆっくりとそこに倒れた。
数瞬ののち、彼の身体の隣を、通り過ぎたものがいた。
ぎっちゃ、ぎっちゃ。
ぎっちゃ、ぎっちゃ。
ぎっちゃ、ぎっちゃ。
音を立てて、それは、森の中に消えていく。
ルミリオとは違う、それ。
バランスを崩しつつ前へ前へと足を繰り出していく―――そんな動作だった。
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