第四十話 ルミリオ 四

 魔軍鬼第二十四小隊。

 魔界を救うべく新しく結成された部隊、その隊員たちは森の奥へと進む。

 対ルミリオのために組織された、有害魔獣撲滅部隊。

 彼らはアグラ区の樹海の中を進んでいく。

 ぱしゃり。

 草むらに足を踏み込むと、わずかに水が跳ねる。

 近くには腹に大きな穴の開いた、ルミリオの死体が転がっていた。

 苔のような湿った緑色の甲殻。

 そこから毒の息が舞うと、あたかもそれは、巨大な毒茸どくきのこといった様相である。


 黙々と。

 森の中を。

 ルミリオの死体を足にかけ、時には転がし、行く。


「今ごろ、第二十三隊は何をやっているのだろう」


 隊員の一鬼は言う。


「ああ、例の――――――」


「『人間界』に行った隊か―――はは、ううむ」


 鬼たちが、侮蔑を含意した笑いを漏らす。

 第二十三小隊の、人間界斥候調査部隊について、軍鬼内での評判は別れているところだ。

 その多くは、良くないほうに。


「新たな土地を見つけて住みうつる、か。我々には夢物語としか言えないな」


「実際に、第二十三小隊は何か目立った成果を得たのか―――?」


「無理だろう、指令室の面々からも、何か言ってくるはずだぜ、その人間界とやらで、収穫があったのならば」


 もともとはルシフェル公の命令であるため、おおやけの場では批判できないが。

 魔界以外で新天地を探し求めるなどという冒険、無茶もいいところだ。

 困難を極める―――彼らには、荷が重すぎたのだ。


 そういった印象が強かった。

 目にしたことはあるが、何やら若い鬼が多かった。

 結果を出せるとは考えにくい。

 自然、笑みがこぼれる行軍。


「これからは、我々の時代だ」


 ルミリオ討伐隊が魔界を救う。

 栄光を手に入れる。

 有害魔獣よ、来るなら来い―――。

 新型魔石刀を握る腕に力が籠もる。

 魔石採掘の近代化は、人間界の物理現象とは違う仕組みで新兵器を生み出していった。


「この新兵器さえあれば、有害魔獣など、いくらでも駆逐可能―――」


 今は三十二鬼しかいないこの隊であるが、新型刀の生産が追い付けば、増員の目処が立つ。

 この荒廃した魔界にも光が差すだろう。

 町で暴動の対応をしている隊も、この隊への移籍を願っていると聞く。

 魔導通信具が鳴った。


『こちらの方はあらかた、始末した』


『そうか』


 状況は良好だ。

 環境半分樹海のような土地の影響で鬼にとっては良くない―――歩きにくいが。

 地形も、半分沼地のような場所である。


『四分隊へ通信が届いていない。おそらく迂回のしすぎだ―――』


『了解した。我々が合流する―――左に進路修正だ』


 鬼に金棒ならぬ、刀を得た第二十四小隊は進軍する。

 彼らもまた、キンセイ等の第二十三小隊に決して劣らぬ存在。

 危機に瀕した魔界を救うべく結成された、戦士たちであった。

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