第三十八話 ルミリオ 二


「もう一度だ―――バスタム、界門へつなげ」


結果から言えば、魔界との通信は、ひと段落した。

何故かバスタム―――気分屋の紫鬼が操作したタイミングで、状況が好転した。

単なる偶然ではないのか---?

魔界の指令室の女性の映像が映る。


「ああ!―――、よかったわ」


「つながった。データは送ったはずだ、どこまで見た」


「報告書を開封したけれど、破損していたわ。一部しか読み取れなかった。」


「………可能性はあったが。この通信の異常は、原因があるのか?指令室の方でわからなかったのか」


「もともと不安定なものだからね―――法族のほうにはあとで言っておくけれど、あなたたちの状況を教えて。結局人間界はどうなの?」


「―――ああ、この部隊は全員、揃っている。一名、腕に負傷はしたが、これ以上危険を負う必要はないと考えている。人間界については―――大都市の探索をし、人間と接触した。彼らと争うことはなかった」


結論から言うと、それだけだった。


「もう一度データを送る―――今の人間界の一部始終、を送る」


「………大丈夫?」


キンセイの顔色、様子から、彼女は報告の明暗を悟った様子だ。

隊長は、こんな内容だ、流石に言葉が出ない―――という風にはならなかった。

人間界の今を、告げていく。

そこは任務最優先であった。


「人間界は、ずいぶんと様変わりしている―――我々が人間に接触したのは、大都市ではなく、その地下の区画だ―――」


人間との接触。

記録映像。

大いなる英知。


人間の科学は遥かに進んでいたが、鬼を襲うことはなかったと。

いや、襲っても意味はないと考えたのだろうか。


「―――どうやら、人間界を支配しているのは、もはや人間ではないらしい」


そう締めくくった。

俺は報告内容に対しても気を払っていたが、

界門がしっかり安定していたことに、ほっとした。

途中で途切れてはどうしようかと思ったところだ。


『そんな顔をしていないで、キンセイちゃん、よくやったわ。二十三小隊のみんなも』


黒い眼晶装で目元を覆った容姿の女性、ルバーヴが言う。


『お疲れさま………。本当に。貴方たちの任務は終了したわ―――人間界のことを知ることができたのは、あなたたちの成果よ』


彼女はそう言う。

俺は顔を伏せた。

知らない、から知っている―――に。

未知から既知きち―――へ、変わった。

しかしこれからの魔界の希望は無くなった。


「人間界の、侵攻はそう困難なことではない―――」


隊長は言う。

実際に、長い間行軍した、地上を歩いてきた俺たちが言うのだから、間違いない。


「地上には誰もいないのだから。絡繰はいるが、軍鬼の戦闘用部隊、その戦力を送り込めば、侵攻は難しくないだろう。しかし風土に関しては希望が持てない―――ルミリオの、変わりは」


隊長は言いよどむ。



『ルミリオに対して、新しい対抗策が出来たわ』


小隊の一同は全員、顔を上げる。

耳を疑う。

そもそもの俺たちは、食糧難や汚染が原因で新しい風土を求めたのである。

ルミリオは、この、魔軍鬼第二十三小隊が、人間界斥候調査部隊に任務内容を変更させられた、元凶。

元の元なのである。

それに対して、対抗策。


「対抗策、というのは――――俺たちの部隊では?」


俺は口をはさんでしまい、しかし隊長は顔をしかめなかった。

魔界が住めなくなったために新天地として人間界を選んだ。

それに関して、もういやというほどわかっている。


「俺は聞かされていた」


隊長キンセイが言う。

小隊の隊員の顔色を見ると―――皆、困惑している。

知らなかった様子だ。

全員が答えを知るべく、画面を注視している。


「だが―――まさか、可能性としては、薄かったはずだ。完成したのか」


「ええ、『新兵器』よ」


黒い眼晶装の女性は口元に笑みを浮かべ、しかし厳かに言う。


「『第二十四小隊』―――対ルミリオのために組織された有害魔獣撲滅部隊よ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます