第三十四話 犬 一
人間界。
森の中の、高くなった丘の地形。
大都市を見渡せる場所がある。
長い棒のような建物が、いくつも連なる都市。
ずうん―――ずうん―――。
人間界の文明の跡地、廃墟と化した大都市には、地響きが鳴り響いていた。
魔界の調査斥候部隊の一味。
鬼たちは。
彼らは、遠くから観察する。
地響きの正体は、足音であった。
「アレは、なんだ………?」
コハクは呟く。
「『犬』、かな」
「『犬』だよ―――」
バスタムとシトリンが言う。
鬼たちが『犬』と形容した、銀色の絡繰が、町を歩いていた。
大都市の間、かつては舗装されていた路上を、歩く。
鋼鉄の前足を地面に降ろすと、古い半重力車が、一瞬浮き上がる。
建物の陰から、後ろ脚を下ろすのが見えた。
白い煙が舞う。
その爪は一本一本が丸太のような大きさだった。
彼らは、遠くから観察する。
近付いて観察など、できるはずもない―――見上げるような大きさだ。
「首が一本しかない―――犬だな」
「ああ、犬だ―――ちょっと、思ってたのよりはデカいけど」
小隊の皆は、目が死んでいる。
どことなく。
「道路が揺れてるぜ、お散歩してるだけでよォ」
『人間が生み出した大いなる英知』はこれについては教えてくれなかった。
聞けば教えてくれただろうか―――いや、動物についてならまだしも、軍事的に重要なことについては、口が重いらしい。
「いい『番犬』だな―――うちにも一匹欲しいぜ」
「町中を守れる」
「ご先祖サマも、見ればびっくりだろうな」
その四足歩行の銀色の絡繰。
大都市を守るため―――なのだろう。
実際、あんなものがうろついていたらたまったものではない。
人間界の地下に行く前にずうん―――ずうんという地響きを聞いたが、逃げることに徹してよかった。
大都市の探索中になり出した、地響き。
地響きの正体はあれだったということに、今更ながら気づく。
「お前んち、犬飼ってたっけ?」
「ああ、
「へえ、エサ代とか、ヤバくね?」
「いや、そうでもない。首が三つで、胃袋はひとぉつ―――」
「ああ、そうなのか―――」
「可愛いんだぜ………べろべろ舐めてきてよぉ」
だがこのご時世だ、そう言ったものを逃がした、手放した家も多い。
「それでさーうん、うちの子がかわいいのよ」
「うん………うん?なんだっけ、赤ちゃんいるの」
「ケルべロスの」
何でもない会話だった。
「さて―――」
さてどうするか。
「もう一度、あの、地下の部屋で―――『大いなる英知』に会うか」
「まだ聞きたいことはあるはずだ」
一同は考え込む。
「魔界と連絡をうまく取れない以上、他のことを整理しよう」
もう一度、地下に向かうことに決めた。
「………で、『犬』とはどうする?戦う?」
魔導砲の柄を握り、少し揺らして示す。
リョクチュウは難しい顔をした。
なんの役に立つのだ、という目で。
「………人間の家に上げてもらうのだ、番犬とじゃれつきに行くのが目的ではない」
「だろうね、俺も勘弁だ」
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