第三十三話 第二十四小隊 五
魔界。
魔導医療署。
人間界の島で負傷を折った黄色い肌の鬼、リンカイ。
彼は魔導医療署の病室にいた。
「あいつら、今頃何してるかな―――」
リンカイは病室にいた。
空の向こうで、鳥の鳴き声がした。
魔界にしか存在しない種である。
人間がこの声を聴いたら、新型の楽器か何かに聞こえるだろう。
「暇だな………」
暇だった。
何しているか。
決まっている、いよいよ人間との戦闘をおっ
くそ、俺も一発で退場しなければ。
こんな怪我でなく、軽い怪我であれば―――
「人間界に行ったって本当かい、
老魔の声がしたので、振り返る。
隣の寝床で布団にくるまっていた魔族であった。
「ん?ああ―――エヘヘ、まあ」
見つめられると照れてしまう黄色の鬼。
その心中は複雑だが、人間界に行ったのは確かである。
「この前のお見舞い、にぎやかだったねえ、若いのはいい」
彼は骨を折って入院をしたらしい。
「
びくり、となる。
リンカイは訝しむ。
怪しむ。
この老人―――いや、人ではなく鬼だが。
体格からして和系の鬼ではなくオーク系統だが。
西洋系。
どこまで知っているんだ。
俺がどうしてけがをしたかまで知っているのか。
死ぬところだったが。
割と奇跡的に助かった。
実感がわかないけれど。
「この前兄ちゃんら、騒がしく話していたじゃあないか」
「ああ―――うん、それね」
警戒し過ぎた。
流石に俺の隊も
「人間は怖い―――儂は餓鬼の頃から、親父には―――儂の親父には、『悪さをすると人間に食べられるぞ』と脅されたもんじゃ、しょうもない………」
「はぁ」
魔界ではよくあることである。
魔獣は茶飯事、人間は幻想。
「あんた、軍鬼のお偉いさんかい?精鋭ってやつかい、出世コース?」
若いのに、もしかしてとんでもない軍鬼なのか―――と目を輝かす爺さん。
体格はリンカイよりも二回りほど大きいので、少したじろいてしまう。
「ううむ、まあね」
しかし詳しく話をするわけにもいくまい………。
行ったのは確かである。
人間界に行って、人間に会った―――そう思った。
腹を撃たれて目が覚めたら医療班に担がれて―――か。
しかも目覚めてから詳しく聞いてみれば。俺を攻撃したあれは、どうやら人間ではない―――と説明された。
………こうやって思い起こしてみると。
「いいとこないですよ―――本当に」
と………そうなる。
「謙遜なさんなって」
俺は怪我をして退場だが―――まあ
未知の世界、人間界を経験した鬼。
………しばらくはデカい顔ができるかもしれない、と思うが。
付いたのは
箔しかつかなかったが。
俺の肌はド派手で明るい黄色。
金箔ならぬ、黄色の箔だったのだろう。
「………界門適性試験に受かったんです。人間界に行く、素質がある。と―――そこまでは良かったのですがね」
チャンスはあったから、行った。
俺は魔界を救う、英雄になれる―――とは、思っていなかった。
そんな
だが―――。
うちの小隊は島を見たらしいが、村に降りたらしいが、いまのところ、人間界で大きな成果は得ていないらしい。
村は廃墟。
風土調査のデータは豊富なようだが―――。
遠くの席の、報道画面が目に入る。
魔界の情勢。
映像。
今流れているのは。
相も変わらず、燃えかけた町の煙である。
日々の暴動は、魔界を魔石工場のように燃やしている。
アレは加工の段階で燃えやすい、発火しやすい。
「こんなもん医療署で流さんでもええのに」
「まあ―――」
同感だな、と感じた。
映像に移っている、あの荒れ果てた町。そこにも軍鬼がいる。
というよりも、人間界に行く軍鬼が、極々、わずか一パーセント。
大半は治安維持。暴動の相手をし―――場合によっては怪我をする。
今の自分よりも
「こんなもんみてんな、見るな、傷の直りが遅くなる―――ほれアンタ、他をやれ、他を―――チャンネル回すぞ」
近くにいた職員の蛇顔の男を急かすオークのじいさん。
俺も大けがをしていなければ、すぐにあそこに駆り出されていたのだろうか。
バチン。
画面が変わる。
獣人族の男が整ったたてがみを片腕で押さえながら報道を読み上げる。
『新しく実験的に投入された『対ルミリオ』を目的とした部隊。これは甲殻を切り裂く武器を開発し―――アグラ区をはじめとした地区に―――』
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