第三十話 第二十四小隊 二
―――魔界の辺境、バルバスン区。
魔界の、本来ならばよくある月並みな、居住地である。
そこで鳴り響く爆発音との焦げた匂い。
荒廃し始めた町には黒々とした煙がいくつも上がっていた。
最初の暴動が起こってから、すでに一年が経過しようとしていた。
魔導砲の砲声が鳴り響く。
その砲声は、人間界に旅立った一行のものとは違う。
第二十一小隊。
銃弾の種類が異なるのだ。
暴徒の一体、三つの頭を持つ悪魔は胸を撃たれて倒れる。
倒れた暴徒を踏みつけ、また何体も魔人がやってくる。
迫ってくる。
「こっちは痺れ
撃つ、撃つ。
痺れ弾だけで止まる魔族だけではない。
元は暴動鎮圧を目的とした、殺傷力のない銃弾だけで食い止めていたが、その弾も尽きたので本物を使わないと間に合わない。
「結界が破られるぞ!何やってんだ!クソども!」
下品な言葉遣いの鬼、オインゼが叫ぶ。
「数が多すぎるんですよ!暴徒の数が!」
カラビィナが言った。
暴徒たちの喚き声に飲み込まれないよう、皆大声になる。
暴徒の波が、押し寄せる。
他種族の言語が積み重なり、騒音を作り出し続けている。
掲げた手看板には『食料を渡せ』『貴族階級は独占している』『種族間の差別に断固反対する』といった文言が並べられている。
暴動開始から一年が経過した―――それはあくまで、この町でのことであり、五年前に始まった遠い地区の町は、すでに廃墟と化している。
廃墟にされた。
その流れ者、飢えたものがこちらに流れてきただけのことだ。
「精霊魔術師の結界がもうだめだ!」
「結界が―――け、決壊………ぶふぅうう!ぶふうう!おい、もう一回言うからな、聞いて!結界が―――け、決壊!」
一人でツボに入っているのはハーネス。
「本物の
「ヴェヘヘエヘ!もう本物の弾、撃っていいかな!」
暴動の長期化でおかしくなった鬼、リルギノー。
軍鬼の中には、日々の鳴りやまない砲声で耳だけでなく精神もやられかけている者がいる。
「痺れ弾とか、もういいだろ!」
「黙ってろ、いま応援を呼ぶ」
「呼んでるけれど来ないよたぶん―――そんな余力ないでしょ」
「くそ、コハクの野郎………」
「ん?コハク?」
うっかり口を滑らせてしまった。
何故奴の名を口にしたかは、自分でも理由がわからないが。
「第二十三隊のあいつ?」
「人間界斥候調査部隊サマ―――だ、今はな!クソだ。俺がクソどもの相手を毎日している間にあの野郎は―――」
魔界の期待を一身に背負う立場になったあの鬼と、自分は同期だった。
憎き人間、伝説上の怪物とされる人間という種族と交戦するのなら、あんなぱっとしない奴よりも俺が適任だ。
殺せる。
俺は敵がどんな大群だろうとなんだろうと、敵ならば撃つ。
そういう心構えで生きている。
人間界には何千、何万という人間がいるのだろう。
鬼を攻撃しようとしているのだろう。
滅ぼそうとしているのだろう。
戦って倒す、食らいつくという心構えならコハクに負けねえ。
何故俺だけこんな目に。
八つ当たりをしないと収まらない。
魔導医療署ではコハクたちに罵声を浴びせたが、本当は殴り合いの喧嘩をしたかった。
結界の切れ目を乗り越えた魔神に、痺れ弾をぶち込む。
また爆発が起こり、結界が衝撃で振動する。
バチバチと、火花が散っている。
「適性試験に受からなかったオインゼが悪いんじゃん?」
きっ、と睨みつける。
本当にクソなのは自分だ、そう言われた気分になる。
今の自分なら仲間だろうと遠慮なしに撃てる。
「くそが!何が界門だ!人間に食われて死んで来い!」
「ヴェヘヘエヘ!こうしようぜ!間違ったっつってェ、払い下げの雷発弾をぶちかまして―――」
暴動はまだ続く。
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