第二十七話 大いなる英知 四
バスタムが床にへたり込んでいた。
口を開けたまま、止まっている―――身体の動きが、止まっている。
視線は、ゆっくりと隊長に向けた。
隊長、と、か細い声で言う。
「………バスタム」
隊長は、静かに答える。
「人間と接触し、今の状況、人間界全体のことまでわかるとは―――ここまで、把握できれば、私たちの任務は十分全うできただろう」
「任務を………」
「任務は、完了した―――」
大いなる英知の部屋。
部屋の、天井を見上げる。
思い起こす。
島に上陸した時からの、人の気配のなさ。
棄てられた舟。
白い絡繰。
廃墟と化した村。
砂浜の、鳥の骨。
凍った洞穴。
雪。
黒い絡繰。
人間の作った絡繰りの残骸に、降り積もった黒い灰。
廃棄された大都市。
思い起こす。
「人間が生み出した大いなる英知とやら―――感謝するぞ」
『質問にお答えするのが、私の使命です』
「とうとう、人間との接触か、しかし―――」
シャコツコウは呟く。
「人間………なんだ、これは、俺たちはもっと―――そう」
リョクチュウは呟く………言いたくもないように。
「科学の力で、人間同士での争いも起こっているなんて。白い絡繰はそれの名残だったのか」
リンカイを撃った。
鬼を、攻めるために作られた兵器。
そう思って疑わなかった。
人間は俺たちを狙っている。
そんな、壮大な―――、疑心暗鬼。
我々は、戦うつもりで、争いを覚悟し、そしてそれでも勇気を奮って進軍してきた。
だが―――。
「そして人間同士の争いも起きているのか。何をやっている。鬼を倒せばいいのだ。刀を振りかざして襲い掛かってこればよかったのだ、それが、人間だと―――そんな、千年前のままで、鬼の現れた島に乗り込んで我々と争えばよかったのだ。それでも―――それでよかったのではないか」
「いえ」
ケイカンだった。
「人間は、人間はもっと―――そう、幸せであってほしかった」
「………これから、界門に向かおう」
そうして、魔界と連絡を取る。
ここを出よう。
キンセイ隊長はそう言った。
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