第二十五話 大いなる英知 二
―――ずうん、―――ずうん。
振動が起こる―――地面に散らばっている
白い埃が足もとに広がる。
「なんだこれは!」
「ほ、砲撃か?」
建物の中を探索していたリョクチュウとバスタムは慌てふためく。
敵の襲撃かと思い、まわりにせわしなく魔導砲を向けるが、依然として敵は現れない―――。
―――ずうん。
砲撃と同等の振動が鳴りやまず、足の裏が、床と離れる。
「に、人間か?どこだ」
「建物の外に―――行かねば!」
二人は走る。
外に向かい。
地響きは道路、外からだ。
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俺とウレックは。
地下へ降りていた―――階段を下へ下へ、ひたすら、かなり下に降りた。
白い廊下を走る。
人間の、子供の背を追いかけて。
いつの間にか、壁の様相が変わった。
表れた廊下は白く、清潔さを追求し、清浄さも追求し、それ以外のすべてを許さないとでも言いたげな、そんな白だった。
人間の子供が扉を開ける。
空気が狭い隙間を抜けるような音が響いた。
その奥へ、子供を追いかけて入る―――俺たちは部屋に、飛び込んだ。
部屋の、地下ならざる光に包まれた。
白い眩しさに撃たれて、目がくらむ。
腕で、顔を覆う。
「―――む、う………」
人影が二つ、見える。
その方向に向かって、子供が、小さな歩幅でもって、駆けていく。
小さい歩幅、物心はついているだろうが、幼い。
椅子に腰かけている二人の老人がいた。
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俺と二人の老人は、しばらく立ち尽くす。
椅子に座っていた彼らだが、目の色が変わった。
目を見開いている。
鬼を目にして驚いているのだろうか。
異世界の住人を。
俺もじとりと見つめられて、少したじろぐ。
人間は、俺たちにとって異形の怪物である。
息を止め、ぐっとこらえ、魔導砲を構える。
だが、撃つ気はない。
彼らに敵意はないようだった。
「すぐに攻撃、はしない―――しない、ここはなんだ」
鬼族の言葉、言語は当然のように通じない。
が、何も話さないよりはましだ、と思った。
いや、これも違う。
俺は知りたかった。
知らないことに恐怖した。
ここは廃墟ではない。
白く、表面が
現実じゃあない―――文明の匂いが今現在、立ち込める部屋。
俺は気圧されていた。
老人は二人とも怯えている―――のだろうか。
いや、俺たちの容姿に、正確には角に、肌の色に驚いているようだが。
彼らに怯えは見られない。
「なんの場所なのだ、ここは」
俺は答えてほしかった。
人間に、返事をしてほしかった。
答えが欲しかった。
それは助けを求める気持ちに似ていた。
本当になんとなく、言葉を探すうちに気づいた。
懐の中から、俺は黒い箱を取り出した。
島での最初の砂浜探索の時に拾った黒い箱だ―――リンカイの戦利品でもある。
人間の文明を感じさせる、素材の箱。
それを、目の前に掲げる。
爺はそれに気づき、はっとした表情になる。
彼は椅子に座ったまま、すっと移動した。
その椅子は恐ろしく静かに移動し、俺の前にまで移動する。
ウレックが少し、魔導砲を動かしたような気がしたので手で制した。
爺は俺の手から、黒い箱を受け取った。
じとり、と俺の眼を見る表情からは、感情が窺えない。
俺を敵視しているのだろうか。
そのはずだ---が。
俺は緊張の中、魔導砲を向けないように堪えた。
爺は背を向けて踵を返す―――緩慢な動作で、追いかける気にはならなかった。
彼は箱を何かの台に載せる。
そうすると台が何か、小さく振動し、緑の光がともり、奔る。
壁が一面、光り出した。
静かに、物語が紡がれた。
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