第十二話 人里に降りた鬼たちは 七

 それからも、魔界から遠征した、やってきた選ばれし鬼たちの調査は続いた。


 島の調査は続いたが、この島に関しては特に収穫がないようだった。

 村の家屋はよく見なくとも古い蜘蛛の巣が天井脇に張ってある。

 やはり相当古いようだ。

 放置されてから三年、あるいは十年か、判然としない。

 しかし、千年の時をそのまま、ということはあり得なかった。

 ここは廃墟ではあっても遺跡というほどではなく。

 人間が身を潜めている可能性はあったので、精神的には、そう楽な作業ではなかった。



 この頃には全員が、新しい発見を期待しなくなっていた。

 諦めか、安堵か。

 または困惑か。

 しかしそのたびに隊長が叱責する。

 ここは敵地である―――と。


 町を降りてさらに西に行くと港がある。

 港と言っても、島の港だ―――小型の舟が二つあるというだけのものだった。

 棄てられた、廃墟だった。

 これもまた、ひどく腐食したような舟であり、埃をかぶっていた。



「しかし、舟で海を渡れる可能性はある」


「漕いでいけば、隣の島まではいけると思います―――きりさえなければ、よく見えますし」


 自然の景観は。

 日本の美しい自然そのものに見えた。

 海に囲まれた国。

 小さな―――ただ単に島が近くにあり、北側の岬からは、向こう岸が近く見えた。

 この島よりも大きいかもしれない。

 ここは地形的には、あまり海という感じはしない。

 島々の中に海が存在する、そう表現してもよい、群島地形であった。


「行ってしまいますか?別の島に」


「任務とあればな。今はこの島だけだ」



 島を一周した。

 やや南北に長い地形の、普通の島だ―――という結論に至った。

 最初に界門を設置したねぐらの大洞窟は、やけに立派なものだったが、それがかろうじて存在する、島の特徴だった。

 森はあったが、浅い。

 木々が痩せている。

 潮風でバサバサとうるさいのだが、その所為で葉が落ちたのだろうか。


 村へ降りるときに石垣のようなものが多い。

 魔界で太古に繁栄していた遺跡を思わせる地形だった。

 気になってはいたのだ。

 それが、人の手で整えられた地形だということはわかっていた。


「ご先祖サマが作ったということはないの?」


 シトリンは言う。

 言われてみれば、人間ではなく鬼が作ったという可能性は、確かにあった。

 何でもかんでも人間に関係する、と考えていた自分に気付く。

 頭が固くなっていたかもしれない。

 だが、そういった考えはすべて徒労に終わったようだった。


 答えがわかったのだ。

 潮風をよけようとして腰かけているときに、しばらくして気づいた。

 避難してしばらくして気づいた。

 なんのことはない―――、風避け。

 海からの絶え間ない風を防ぐためのものだろう―――と。

 そういう目的のものなのだろう。


家来けらいだけ出てきて、『桃太郎』は出ずじまい、か――――」


 リョクチュウがぽつりと言った。

 あの『雉』 の出現を警戒しながらの作業だったため、調査であったため、歩くスピードは、自然、遅くなった。

 孤立しての行動も、極力、禁止だった。


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