第8話「ヤーデルの手記」


俺は王国軍第13支部 所属、大佐のヤーデルだ...


仕事も終わり、夜も更け、居間で1人の時を過ごしている...

コーヒーにシロップを入れすぎた液体をすする。凄く不味い。


「ヤーデル、ちょっと相談があるんだけど...」

1時間かけて半分まで飲んだ頃、1人の少女がおずおずとやってきた。


「相談...?お前が...?珍しいな。」


こいつはミリー、俺の後輩の1人だ。

いつも明るく元気いっぱいなこいつを、俺は妹のように思っている。

相談があるなら是非のってやろう。


「う、うん...その......実はね、僕......タキのことが好きになっちゃったかもしれない......」


(ブフッ)

コーヒーを吐き出そうとするのをどうにかこらえる。


「そ、そうなのか......」

今までこいつがこんなことを言ってきたことは一度もなかった。

同年代との出会いがこいつにはあまりなかったのもあるかもしれない。


「何か、理由はあるのか...?」


「えっとね...タキは僕に可愛いって言ってくれたんだ!2回も!

この髪留めもくれたんだよ!」

満面の笑みで、それはもう嬉しそうにミリーは言う。


(チョロい......!お前2回可愛いって言われたくらいで好きになるのか!?

それにその髪留め1000円しないぞ?)


「それで、タキのことを考えてると変な気持ちになって...どうしたらいいのかわからなくて...」


「そうか...告白する気はあるのか?」


「告白なんて!そんなこと!僕みたいな子に告白されたら...迷惑だよ......」


しょぼんとしながらミリーは俯く。

こいつは自己評価が低いのが玉にキズだ。


「まあ、焦ることはない、時間をかけてよく考えてみるといい......」


「うん、そうだよね、よく考えてみる!ありがとね!」


そう言ってミリーは自分の部屋へと行ってしまった...いったいどうなるのか...?


「おや、ヤーデル先輩。今お茶をいれるとこなんですが、先輩も飲みますか?」


ミリーがいくと、滝山が風呂から上がってきた。

滝山はこないだ別の世界からやってきた奴で、うちの雑務を担当してくれてる。


「ああ、もらおうかな......滝山、お前に1つ聞きたいことがある。」


「なんです?」

この際だから、滝山はミリーのことをどう思っているのか聞いてみることにする。


「お前、ミリーをどう思う...?」


「え゙っ...?ど、どうとは...?」

顔を軽く、赤らめ、明らかに動揺した素振りを見せる滝山。


「好きかどうかだ。」


「えっと......その...好き、ですかね......」

顔を赤くしたまま恥ずかしそうに言う。


「その...どんなところが?」


「......彼女、凄く良い笑顔で挨拶してくれるんです。」


(えっ?)


「おはようって言ってくれる彼女の顔が...失恋で傷ついた心を癒してくれるといいますか......」


「・・・・・」

(チョロい......2人揃って超チョロいじゃないか...!挨拶されただけで好きになるのか!?)


「そうか...告白とかする気はないのか?」


「いえ...そもそも私は幼なじみに振られてこっちの世界に来たわけですし...絶対振られるでしょうし、そんな精神的余裕は......」


「なるほど......」

なんて厄介な事態だ...これが両片思い......

間近で見るとじれったくて腹立つな...


「これ、お茶です。熱いので気をつけて。

それと、さっきのことミリーには内緒にしてくださいね...」

テーブルに私の分のお茶を置き、滝山は部屋へと行ってしまった...


「あ、ああ...」


泥水のように不味いコーヒーをなんとか飲みきる。



「めんどうだな......」


俺の〈マインド・コントロール〉の魔力にかかれば、アイツらをラブラブのカップルに洗脳することもできるが...

しかし...


「何か悩んでいるのか!?ヤーデル!」

アレコレ考えていると、ハイユがいきなり声をかけてきた。


「ハ、ハイユか...ビックリした......

大したことじゃない、部下の面倒をみるのは大変だなと思ってな......」


「わかるぞ!でも2人ともいい子で良かったな!」

ハイユは高らかに笑う。


「そうだな...」


これから、どうなるんだろうか......?

そんなことを考えながら、口直しにお茶をすすり盛大に舌を火傷した。



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