第7話「初任給で媚を売る」


この世界に来てまだ日は浅いが、色々と分かってきたことがある。


まず、この世界全般とは限らないがこの国に関して言えば、文明レベルも生活レベルも超高い。


家事の手伝いをしてわかったが、洗濯機は全行程を5分で済ますし、

コンロは食材に合わせて熱量を調節してくれるし、

掃除用品はサイレントな上性能もいい。


魔法が存在しているのは魔力を持っている

人間がいることからわかっていたが、どうやら科学もあるらしい。

夢のコラボレーションだ。


国の制度は遥かに進んでいるうえ、政治は安定している。

これで完全に私が下に見れる要素が完全に無くなった。


まあそれはいいとして、如何せんまだ情報不足......

それを補うのには、人に聞くのが有効な手だ。


「あの、ミリー。ちょっと聞きたいことがあるんだけど...」


「あっ!タキ?いいよ入って!」


「お邪魔します...」


『肉欲の壺』という変態集団と出会い、激しい議論を交わしたその日の夜、私は同じ13支部に所属するミリーの部屋を訪れた。


中に入ると、ミリーはベッドの上に座っていた。


「また散らかってるけど...あ!そうだ!あんまりこっち来ないで!」


(え......)

いや、こういった扱いには慣れてるけど面と向かって言われるとキツい...死にそう......


いつも優しく笑いかけてくれるというのに、なにかしでかしたのだろうか?


隠したつもりだったが、表情から傷ついたのがわかったのかもしれない。

彼女は必死で手を振り否定する。

「あ!いや!そんな酷い意味じゃなくて...

僕最近お風呂入ったりしてなかったから...」


「ああ、そういうことなら大丈夫。

むしろ好k......そういうの気にしないから。」

私を気遣ってくれたのか...だが私は不潔な女性は好きだ。心が安らぐ。


「そうなの?ありがとう!……で、聞きたいことって何?」


ミリーが散らかった部屋にスペースを作ってくれたので、彼女と向かい合うようにして座る。


「えっと…私この世界に来てまだ日が浅いから、いくつか聞きたいことがあるんだ。」


「いいよ!僕が答えられることならなんでも聞いて!」


ん?今なんでも(ry

「ありがとう、私がいた世界にはこういう機械があって、写真を撮ったり、音楽を聴いたり、遠くにいる人と連絡を取ることができたんだけど…」


ポケットからずっと電源を切ったままのスマホを取り出す。

昨日会った変態集団との会話から、こちらにもあるはずなんだが…


「ああ!あるよ!ちょっと待ってね……あった!」

ミリーは体をあちこち探ったあと、布団の下からスマホっぽいものを取り出した。


「『スマート・マジック・フォン』の略でスマホって呼ばれてるんだ!色々なことができるんだよ〜」


「へ、へぇ・・・」

なんと、こちらの技術がそこまで進んでいたとは…それにしても良いデザインだ。


「魔法と科学の両方の技術を組み合わせて出来てるんだ、色々な種類があるんだよ。」

言いながら、ミリーは私に手渡してくれた。


見た目は元の世界のスマホとなんら変わりないように見える。

しかし曲線美が美しい。シルバーの背面に会社のシンボルマークが光沢を放っていた。


(………欲しい。)


「そうだ!そろそろお給料日でしょ?タキもスマホを買ったら?」


(給料…だと……?)

ここで働き始めてから忙しくて全然考えていなかったが、そうか、働けば給料がもらえるんだった。


(いや…待てよ……私に貰う権利があるのだろうか?)

異世界から来て身分証明も何も無い私に、衣食住与えてくれてるんだし…

それに私のやってること全然軍隊と関係ない家事とかだし…

そもそもこちらに来て一週間しか経ってないのに、他の人と同じ給料日に貰えるもんなの?


「いや…まだいいかな。」


「なんで?あると便利だよ?」


「ほら、私働き始めて一週間くらいだから多分まだお金貰えないしね。」

重度のスマホ依存症だった私としては、異世界のスマホに興味は尽きないが居候の身でそこまで望むのはいささかマズい、時期を見定めるべきだ。


「じゃあ隊長に聞きに行こうよ!」

「えっ」


そう言うと、ミリーは突然ベッドから立ち上がり、私の手を掴んで部屋を飛び出し、その勢いのまま下の居間まで駆け下りた。


「隊長〜!タキってお給料いつ貰えるの〜?」

「おっ、ちょうどいいとこに来たな♪今渡すとこだったんだぜ。」


そう言って隊長は茶色の封筒を私に差し出した。


「まだお前の口座作ってねぇから、今回は手渡しな。」

これが給料か…割と重くて少し驚く。


「あの…まだ一週間くらいしか働いてないのにもらって大丈夫なんですか?」

「ガキがそんなこと気にすんな!受け取っとけ〜!」


「はい…ありがとうございます!」

働いてお金を貰う、バイトなんてしたことなかったから初めての経験だ。


「じゃあタキ!明日は僕とお買い物に行こうよ!案内してあげるから。」

「え!?ああ、じゃあお願い。」


そう答えると、ミリーは非常に嬉しそうにしていた。

私のようなろくでもない奴と一緒に買い物に行くのがこんなに嬉しいとは…奇特な人もいたものだ。


しかし女子と2人で買い物か…湧き上がる下衆な下心を表に出さないように気をつける。

幼なじみと昔に行ったきりだな…振られたけど。


良い日になると良いのだが…


ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー


「よし!じゃあ行ってきま〜す♪」

「行ってきます。」


「気をつけて行ってこいよ〜♪」


隊長に見送られてミリーと2人で出発する。

ミリーはシンプルな色合いのワンピース、私は支部に置いてあったという服を適当に選んだ。


昨日はなかなか眠れなかった。

楽しみだったというより、粗相を起こさないかという不安の方が主立った理由だったのだが...ああ胃が痛い。


昨日確認したところ給料は19万円程あった。


ヤーデルに常識とかを1部書き換えてもらったから、元の世界と同じ金銭感覚で、同じ単位のまま認識できる。

使い過ぎないように注意しなければ。


ミリーの後に続き、支部の基地から町の外れまで歩いた後、路面電車らしきものに乗った。

ミリーと私は隣り合うようにして、窓を背中にした席に座った。


バスの中は人はあまり乗っていなくて空いている。


(しまった!そう言えば...)

「ミリー、このお金ってお札で払えるの?」

「あ...だいたいの人はスマホで払うんだよね。でも大丈夫、今日は僕が奢るから!」

ミリーは弾けるような笑顔でそう言ってくれた。


「ありがとう...!」

私にプライドは無い、奢ってもらえるなら喜んでお言葉に甘えよう。


肩越しに窓から景色を眺める。

流れていく町並みはある種近代的でもあり、中世的でもあり、近未来的でもあった。


見たことも無い建物、様々な格好に身を包んだ人々、多種多様な乗り物。


元の世界と同じ青い空を鳥らしき生き物や、なんか翼竜っぽいものが飛んだりしている。


なんかよく見たらバスっぽいものや車みたいなのも空を飛んでいる。

地上と空の両方を交通に使えるのか...

この世界の技術には頭が下がる。


「ふふ......♪」

隣のミリーは実に楽しそうだ、隣にいるのが私なのにこんなにも嬉しいものだろうか。


そのまま路面電車に揺られること30分、街の中心部と思われる場所で降りた。


「ここがね、王立デパートだよ。色々なお店があって大体のものはここで手に入るんだ!」


見上げるととんでもない高さな上、両端はここからかなり先まである。

高さだけなら東京タワーくらいあるんじゃないか?

栃木在住だったからよくわからんが。


「よしじゃあ、行こう!」

「ああ、うん...」


子供のようにはしゃぐミリーに続き、デパートの中へと足を進める。


中に入ると、そこはまさに華々しい宝石箱のような世界だった。


虹色のステンドグラスに、美しく磨きあげられた床、様々な店が各々のスペースで魅力を放っている。


「魔法科学製品は3階だって!行こう!」

「わ、わかった」


ミリーに手を引かれ、透明なエレベーターに乗り込む。 どんな仕組みなんだろ...


とんでもない数のボタンがが並ぶ中、ミリーが3と書かれたものを押すと、フゥーーーンといった穏やかな音を立ててエレベーターが上昇する。


あっという間に着いた...


透明なドアが開いた先は、先ほどとはまた違った雰囲気のする空間だった。


スマホ、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、掃除機、元の世界で私がそう呼んでいた物が所狭しと並んでいる。


「はぁ...」

呆気に取られてふと呟く、本当に驚きばかりだ。今まで見たことも想像したことすらない製品もある。


「スマホはこっちだよ!タキ!」


見てみると、様々な機種が見てくれて言わんばかりに輝きを放ちながら並べられていた。

どれが良いのかよく分からないな...


「これがね、今一番人気な商品、Foihone21だよ。高いけど、凄い性能が良いんだよ〜」


「へ、へぇ......」

フォイフォンコーナーのパンフレットをパラパラとめくる。


見たことのない単位ばかりだが、カメラの性能、バッテリーの能力、頑丈さなんかについて事細かかつオサレに書かれていた。


(げぇ......)

展示品の近くにあった値札を見てみると、なんと15万円もするではないか...!

4万円残るにしたって、次の給料日まであと1ヶ月はあるし...

それに他に買いたいものもある。


「ミ、ミリー。もっと他の...そうだ!ミリーの奴はどこにある?」

「え?僕の?でも僕のあんまり性能良くないよ...?」


「大丈夫大丈夫、あぁこれか...」


付近のコーナーにはdoroido9と書かれていた。

持ち上げたり、起動して使用感を確かめる。


「うん...これにする!これの黒!」


「本当にいいの...?もっと良いのじゃなくて?」


「うん、これが欲しいからね」


フォイフォンには性能は劣りそうだが、これの方がデザインが好みだ。

値段が3万円くらいなのも有難い。


レジにて購入手続きを済ませ、漸く初めてのスマート・マジック・フォンを手に入れた。

とても嬉しい。


「帰ってから使うのが楽しみだな〜」

「う、うん。そうだね...」


そこで私は初めてミリーがどことなくぎこちない様子なのに気づく。顔も少し赤い。

なんだ?何かヘマをした覚えは...


(あぁっ!)


そこで私は自分のしでかしたことに気づいた。

私は先程、ミリーと同じスマホを買った...

より性能が良いものが買えるにもかかわらず、ミリーと同じものを...


彼女からしたら、おそろいの物を買いたがったように見えたのかもしれない...

これは不覚だった...


「そ、そういえばこれの契約ってどうやるの?」

動揺を悟られず、話題を変えるために私は務めて明るく話しかけた。


「契約...?なんの......?」


ミリーはキョトンとした顔でこちらを見てくる。

まさか...


「いや、私の世界だとスマホで通信をするには専門の会社と契約して、毎月お金を払わなきゃいけなかったんだけど......」


「そうなの!?こっちはそんなの必要ないよ、買えばすぐに通信できるし」


なんと...ネットワークの無料開放だと......?

そんな次元にまで進んでいたとは。


「へぇ...そうなんだ。それは凄いね〜」


その後は、たわいのない話を繰り返しながら上へ下へと物色しながら広大なデパートの中を歩いた。

全部を見て回るには3日間かかるらしいから、ほんの1部だけだったが。


「ふぅ...... ん?」

トイレから戻ると、ミリーが熱心にアクセサリーを眺めいた。どうやら髪留めらしい。


「それ、買うの?」

「!?!!」


私に見られていたことに気づくと、ミリーはビクゥッと驚いた。


「ま、まさか〜僕は可愛くないから、似合わないしね!ト、トイレ行ってくるね!」


そう言うと慌てて行ってしまった...


「やれやれ......」

ミリーは自己評価が低すぎる。

充分可愛いのにそれに気づかない。

......いや、気づこうとしないと言った方が正しそうだ。


先程までミリーが眺めていた、薔薇と百合のハーフのような、美しい赤色の花の髪留めを手に取り、買うことにした。


おそろいのスマホにしたせいで「こいつキモッ」と思われたかもしれない、ご機嫌取りをしなくては。


......まあプレゼントなんてあげたら逆効果の可能性が高いが。


購入を済ませ、手持ち無沙汰で周囲を見渡していると、奇妙な店がすぐそばにあるのに気づいた。


店の名前は「嵐山プリンセス」、紫系統の色で構成されていて、どことなくしっとりとした感じがしている。


ミリーを待つ間暇だったので、覗いてみることにした...が......


「なんと...」


どうやらここはアダルトグッズ専門店のようだった。

詳しくはわからないが、液状のもの、筒状のもの、それによく分からないものが綺麗整列されている。


そのあまりのオシャレさは、一流のブティックの用に感じられる。


(これはマズい......)

私はまだ未成年、さっさと出て行った方が良さそうだ...


「何かお探しでしょうか?」


(!?)


いきなり背後から声をかけられ、驚いて振り向くと、全身を黒のスーツに包んだ男が立っていた。


男は黒い髪を七三分けにし、細目でニッコリと笑っている。

まさき商売人の笑みだ。


「驚かせてしまったようで大変申し訳ございません。

わたくし、アダルトグッズ専門店『嵐山プリンセス』店長を努めさせて頂いております、カミノと申すものです。」


カミノと名乗った男は紳士的にお辞儀をしてきた。


「えっ、いや、初めて来たもので戸惑ってしまって...」


「さようでございますか。

当店はローションからバイブ、鞭など様々な物を取り扱っておりますので、お気軽にお声をおかけください。」


ニッコリスマイルを崩さず、カミノは私に滑らかに話した。


しかし、私は童顔の上、低身長。

未成年にしか見えないハズなのにアダルトグッズを勧めるものか...?


「あの、私遠くから初めて来たのですが、ここの国だとアダルトグッズを買うのに年齢制限は無いんですか?」


「そうでしたか、それは失礼致しました。

昔はわたくしどもの国にもそういった制限はあったようですが、何世代か前の国王が経済促進と出産奨励を兼ねて廃止したそうです。」


なるほど...英断だ。


話すこともなくなり、気まずくなって周囲を見渡すと、媚薬コーナーが目に入った。


「へぇ......」


実に多種多様な効果を持ったものが色々と売られている。なかなか面白い。


「お気に召されましたか?

ただいまセールを行っておりまして、媚薬10種類セットに加えて、媚薬自作キットと入門書をお付けして9980円でご提供しておりますが...?」


「え...?か、買います!」


つい購買欲が刺激されて買ってしまった。


「お客様、会員登録はなさいますか?」

「えっ、ああ...そのまだスマホを準備してなくて...」


「でしたら、簡易会員カードをお作りできますので、そちらをお使いしていただいてもいいですし、スマホで読み込んでいただければそちらでも使えます。」


「あ、じゃあ入会します...!」


「かしこまりました」


カミノは非常に慣れた手つきでテキパキと仕事をこなしていく。有能だとひと目でわかる。


「本日はご来店誠にありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております」


「はい、また来ます…」


カミノのピシッとしたお辞儀に見送られ、私は店を出た。


「あ、いたいた〜!どこ行ってたの〜?はぐれたかと思ったよ!」


店を出て先程分かれたところに行くと、ミリーが心配したといった顔で待っていた。


「ごめんごめん、ちょっと買い物をしてて...」

ミリーは私がアダルトグッズ専門店に行っていたとしったら、いったいどう思うのか?

確かめる勇気は無い。


「でも良かった!あと何か買いたいものある?」


「あー......ちょっと食料品売り場を見て行きたいんだけど......」


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ーーーーーーーーーーーーーー


「買いすぎた......」

食料品売り場は広大な上に、並んでいる商品がどれも美味しそうだったので、つい買い込んでしまった。


「持ってくれてありがとね、ミリー。」

私とミリーはそれぞれ大きな袋を両手に抱えている。彼女がいなければ到底運べなかっただろう。


「いいけど...こんなに買って食費大丈夫なの?」

どうやらミリーは私が軍の食事予算で買ったと思っているらしい。


「ああ、うん、大丈夫......あ、バスが来た。」

来た時と同じバスに乗り込む。

幸いにも席が2つ空いていたので、ミリーと隣り合って座れた。


「ふぅ......」

今日は色々あって疲れた...

まさかここまで色々買うとは...


「あのね、タキ...」

「?」

椅子に座り、リラックスしようとした時、ミリーが呟くように話しかけてきた。


「僕ね、同じ年頃の友達がほとんどいなくて...

こうやって一緒に遊びに行くのって初めてだったから......その......」


ミリーは決まり悪そうに目をそらしている。


「今日、とっても楽しかったんだ。ありがとう、タキ。」

彼女はそういって心底恥ずかしいといった笑みを私に向けた。


この笑顔の美しいこと、失恋した私の胸にダイレクトに刺さる。

「私も楽しかったよ、こちらこそありがとう。」


精一杯表情を取り繕って返事を返す。

変に満ち足りた気分のまま、家路へとついた。


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ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー


「ふふ...滝山は買い物を楽しんだだろうか......」

第13支部基地内、居間のスペースで、ミリーと滝山を除く面々はくつろいでいた。


「それにしても、隊長もたまには良い提案をするな!」

「そうですね、滝山くんの不足分の給料をみんなでカンパしようなんて。」


「そうだろ〜俺もやるときゃやるんだぜ〜♪」

「いつもやってくれれば楽なんですけどね」


「おいおいフィフスそりゃないぜ〜」


「ただ今戻りました......」「ただいま〜!」


「おっ♪ちょうどだな!どうだった〜買い物は♪」


「色々と面白いのが買えました...すぐに食事にしますね」

アダルトグッズはこっそりと隠して、買ってきた大量の食材をテーブルに置く。


「おい滝山...これ今月の食費大丈夫なのか......?」

ヤーデルが私が机に置いた豪華な食べ物を見て聞いてきた。


「ご心配なく、私の給料で買ったので。」


「え...?」

するといきなり、みんな目を丸くして私を見出した。


地雷を踏んだか?と思ったが、後戻りもできない。


「えっと...私の以前いた国では、初めて給料を貰った時には、それでお世話になった人にプレゼントをするのが慣習でして...

その、ここだと親に上げられないんで、皆さんに、と......」


特段欲しいものもないし、機嫌取りでもしておこうと思っての提案だったのだが...


「かぁ〜!見上げたやつだぜ〜〜!」

するといきなり、ライツ隊長が私の頭をわしゃわしゃとやり始めた。


「そんな気を使わなくても良かったんだぞ...嬉しいが。」

「有難くいただくぞ!ありがとう!!」

「少し感動しました」


どうやら喜んでくれたみたいだ、良かった......


ーーーーーーー

ーーーーーーー


食事も終わり、後片付けも済み、もう寝る時間だ。

ミリーと並んで階段を上る。


「タキ、今日はごちそうさま、とても美味しかった〜」

「いやいや...あ、そうだ。ちょっと待って。」

「?」


「はい、これ。」

ミリーに昼間に買っておいた髪留めを渡す。


「えっ...?これを、僕に......?」

「う、うん...今日案内してくれたお礼にね。」


「あ、ありがとう...!」

そう言いながら、ミリーはおそるおそるといった感じで、髪留めをつけた。


「ど、どうかな......?」

恥ずかしそうなミリーの笑みに、目が眩むような感覚を覚える。


「えっと...とてもよく似合ってて、可愛いよ。」

正直に言っていいものか悩んだが、アレコレ考えるのも面倒だったので、思ったことをストレートに言ってみた。


「えっ...そ、その......あ、ありがとう。おやすみ!」

ミリーは顔を赤くして、逃げるように部屋へと入っていった。


気を悪くしたのか、それとも喜んでくれたのか...?


まあいいか。

残りの階段を上がりきり、部屋へと入るなりベッドに倒れ込む。

買ったものは机に置いた。


「やれやれ...ああ疲れた。」

初任給で媚を売る、下心はあったが喜んで貰えて良かった...


私は、ここで上手くやっていけてるのだろうか......?


ふと、先ほどのミリーの笑顔が思い浮かび、胸が熱くなる。


必死にこころを落ち着けて、どうにか眠りについた。


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