第22話 『昼の街 エレベータの中』

 人ごみに揉まれながらもなんとかはぐれず全員でデパートに入り、エレベーターで空に向かって僅かな時間で移動する。

 天に挑むつもりなのかと問いかけたくなるくらい高くそびえ立つ超高層ビルが、雲の影のように街に深い日陰を作っていた。その間を、高速道路が抜ける。

 高速道路は知識として知っているが、一琉にとっては夜空にかかるデカい橋の影という存在だった。高架の厚い柱の壁は、至近距離に現れた死獣を一旦撒くのに一役かってくれる。それがあんな風に、カラフルな自動車がぶんぶん走っているのを見ると、本当に使われている建造物だったんだなと実感する。車なんてものは普通の夜勤はみんな持っていない上、夜はここ、戦場だから。俺たちの住む世界にはしょせん、こんな煌びやかな文明都市なんて存在していないことになっている。どうしてもほしいものがあれば昼の間に、寿命縮めて買いに行くんだ。

 眼下に広がる夢のような近未来風景。それぞれに仕立てた黒衣でかいた汗をぬぐいながら、「わあ」とか「うおー!」とか窓に向かって喜んでいる有河や加賀谷。照りつける太陽。まぶしさに一琉が目をそらすと、その先にはまひるがいた。目が合ってにっこり微笑まれた。混雑した中で押され、壁際に細身をへばりつかせるようにしているまひるに倒れ込みそうになって一琉は、あわてて壁に手をつく。関節がきしむほどの力で後ろからさらに押されたが、耐えた。きょとんとした顔でこちらを見上げるまひる。盾になってやる。ついでに、そこに存在する性悪な混雑さえ視界から消してやる。でも、安心しろ。この手でおまえに触れるほど俺は、厚かましくはないからな。

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