この大陸でしか取れない茶葉でな

 玲と明奈が再開してからすでに約1日が経過していた。


 シエナ達はすぐにでも会議をしたかっただろうが玲が頭を下げ断った。


 さすがに情緒不安定になっている明奈を放っておくわけにはいかなかったからだ。


 玲は明奈を自分の部屋まで連れて行くとこの世界に来てからの出来事を話し合った。


 玲はシエナと出会い魔王とは知らずに魔王城について来てしまった。


 そしてあれこれやっている間に魔王軍に入ってしまい、今や魔王軍の最高顧問にまでなってしまったということを明奈に話した。


 明奈は知らない人について行っちゃダメでしょとか、大出世だねなどと楽しそうに聞いていた。


 しかし明奈が自分の話をするときだけは思い出したくないオーラ全開でわかりやすいほどに顔に出ていた。


(あぁ、なるほど)


 だが話を聞いて納得した。


 いきなり勇者に選ばれ国中から歓迎された挙句、命懸けで魔王と戦えと言われたのであれば仕方がない。


 さらに断ったら毒を盛られ脅しをかけられたと言うのだから納得するしかないだろう。


 明奈は物語に出てくるような勇者とは違うのだから。


 お気楽に過ごしていたのが非常に申し訳ない気がしてくる。


 その後はひたすら明奈の愚痴を聞き続けた。


 明奈が満足して眠りに着くまで。




 その後正式にシエナと明奈は挨拶を交わした。


 正直言って魔王と勇者が顔を合わせたらどうなるのか少し不安だったが取越し苦労だったようだ。


 タイプの違う二人ではあったが、二人は意外と気が合いすぐに意気投合していた。


 初対面の相手にこんな人懐っこい笑顔を見せたのには玲も驚かされた。


 勇者と魔王だというのに現実ではこんなものかと。



 そして次に玲一番の心配事もついでに片付けた。


 魔王とはいえシエナの見た目は人間と大差ないからいいのだが、その部下はそうはいかない。


 シエナの部下は人外の強面達なのだから。


 だから玲はしつこいくらいに意外とみんないいやつだからと念を押しておいた。


 最初はかなり顔を引きつらせていたものの、なんとか挨拶をすませることに成功する。


 これでとりあえずは落ち着くだろう。


 …そう思った矢先問題が起こった。




『この紅茶美味しいですよね。あの国にいた時同じ紅茶をいただきました』


 明奈がル・リビレイア聖王国にいた時の話を楽しげに話すのを見て玲は少し意外に思う。


『この茶葉はこの大陸でしか取れない茶葉でな。気に入ったようで何よりじゃ』


『やっぱり。私たちのいた世界にはない紅茶だと思ってたんです』


『クヌァールという品種でな、わらわも一番気に入っておるのじゃ』


 魔王と勇者の二人は楽しげに会話している。


 意外と言ったら失礼かもしれないがシエナは意外とガールズトークが似合っていた。


 そこへ急報が入った。


 廊下を慌てて走ってきた兵士がシエナに告げる。


『魔王陛下。ル・リビレイア聖王国が15万の大軍をもってこちらに進軍しているとのことです!』


『シープズから知らせが入ったのか?』


『はっ!西方砦より直に報告が入りました』


『ご苦労、下がって良いぞ』


 シエナは腕を組み組んでいた足を組み替える。


 これはシエナが考え事をする時のデフォルトの格好のようだ。


『えっ?軍隊攻めてきちゃったの?予定とだいぶ違くない』


『勇者がこちらにいれば無茶はしないだろうと踏んでいたのじゃが、あちらの姫は随分の血の気が多いようじゃ』


(いやいや、君も十分血の気が多いと思うけど…)


 そう思うがもちろん口には出さない。


 口は災いの元。まったく先人はとても素晴らしい言葉を残してくれたものだ。


 そこで不安そうな顔をしている明奈が口を開く。


『あのっ…。それってもしかして私のせい?』


 明奈が不安そうにしていたのは自分が勝手に来てしまったから戦争が始まってしまったと考えているからだろう。


『こんなに早く50万の大軍を出せたということは初めから準備万端じゃったという事じゃろう。明奈のせいではない』


 シエナがすかさずフォローを入れる。


『それでどうするんだ?戦うしかないのか?』


『くふふ、あやつらがこの大陸に攻め込むという事は船で海を越えてくるしかないのじゃ。つまり戦わずに済ませる方法などいくらでもあるのじゃ』


 シエナは自信満々に答える。シエナは何かしら秘策を持っているのだろう。


『出来るだけ穏便にいこうな』


 どんな秘策かは知らないが出来るだけ被害の少ない方法を選んでくれるようクギを刺しておく。


『ひとまず西方にある城塞へと転移するとしよう。シャアズナブル城塞はシープズが管理しておるまずはシープズと合流するとしようかの』


 シエナはカップの最後の一口を啜り立ち上がった。

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