よろしくラミちゃん×お主は大きな勘違いをしておるぞ
景色が切り替わり先ほどいた木の下ではない場所に移動したことが理解できた。現在いる場所は誰かの部屋だろうか、部屋はかなり広く8坪の玲の部屋と比べても何回りもあるほどの広さだった。
部屋にはベッドと机と椅子が置いてあるだけで他に何か置いてあるわけではない。全体的に薄暗い感じの部屋だったが、埃っぽいわけではないし掃除はキチンとされていると思われる。
『シエナ~?…いないか…またかよ』
またしても近くに誰もいない今日で二度目だ。一緒転移してきたというのに側に誰もいないのはなかなかに孤独な気分を味あわされる。
(この部屋で待っていろということだろうか?)
玲はそんなことも考えてもみるがジッとしているのはあまり好きではないし部屋の外をうろついてみよう。玲は直ぐにそう決めるとドアへと向かう。ドアは両扉になっていてかなりの大きいドアであった。
玲は両手でドアを開けようとドアに手を掛け力を入れる。
『あれっ?』
だがピクリとも動かない。ドアには取っ手が付いていたので引いてみたがやはりピクリともしない。
『押してダメなら押し倒せっ、ふんっ』
玲はグッと力を込める。
『…ダメかぁ』
(さすがに監禁とかじゃないだろうけど…。まぁ、待つしかないか)
玲は外をぶらつくことを諦めベットに向かう。客として招かれたのだから平気だろうと勝手に決めつけベッドに腰掛ける。若干固めだが寝づらいこともない、よくある普通のベッドだ。
(あの子は人を騙して監禁するようなことするタイプじゃなさそうだったよなー)
女の嘘は笑って許せがモットーである玲はシエナが騙していたとしても怒ることはないだろうが、そもそも人を疑うことが嫌いなためシエナを信じようという気持ちを持っていた。それがさっき会ったばかりの子であろうとも一度信じたのであれば疑う気などない。
玲はベッドに腰掛けながら5分ほどのんびり考えているとカツカツと廊下から人の歩いてくる音が聞こえてきた。
(誰かお出迎えに来てくれたのかなぁ…。)
そんなことを思っていると足音は玲のへやのまえで止まる。
コンコンコンと大き過ぎず小さ過ぎない強さでドアがノックされた。
『シエナ様よりお迎えを仰せつかいました。ドアを開けてもよろしいでしょうか』
『どうぞー』
玲は軽く返事をするとドアが静かに開いていく。ドアを開けて入って来たのはメイド服を着た10代後半くらいの女の子だった。
『失礼いたします、私この城でメイドをやらせていただいておりますラミと申します。シエナ様のいらっしゃる書斎まで案内させていただきますのでついてきていただいてよろしいでしょうか』
部屋に入るなりメイドさんは若干早口でそう言った。
(本物のメイドさんだ…でもなんかすげぇ緊張してるみたい、声震えてるし早口だし)
玲の想像した通りラミというメイドは極度に緊張していた。彼女は元々あがり症などではなく少し人見知りはあるもののいたって普通の少女である。彼女にとっての極度の緊張とは初対面の人と話すことや、大勢のいる前で発言することなんかではない。
頭に拳銃を突き付けられた人質や、一歩でも踏み間違えたら数十メートル下のアスファルトに落下してしまう高層ビルでの作業をさせられているのと同じくらいの緊張だろう。
しかしそれほどの極度の緊張状態というのは彼女にとっては珍しくないものなのだ。決して彼女があがり症だからというわけではなく。日常的に彼女は命の危険を感じながら生きているのだ。
『うん、よろしくラミちゃん♪』
そんな彼女の気持ちは露とも知らずに玲は気さくに返事を返す。
『は、はい、かしこまりました』
(彼女が緊張しているようだから少しでも緊張が取り除けるよういつも以上に明るく軽く返事をしんだけどなぁ、逆効果だったかなぁ。ていうか緊張してるっていうより怖がられてない俺?)
『ではご案内します』
彼女は玲の答えも待たずに背を向け歩き出す。
ラミはあまりツヤのない金髪のショートボブ。そして若干痩せ気味の女の子だ。正確に言えば痩せ気味というよりは疲れて少しやつれている感じだが。年はおそらく16歳くらいだろうか?背はあまり高くなく150センチちょっとというところだろう。肌は白くきれいだが目の下にクマがありやはり疲れている印象が強い。
(せっかくの美少女なのに勿体無いなぁ)
勿論口には出さずに心の中で呟いた。
ラミは案内すると言いながら逃げるように歩き出すので玲は慌てて追いかける。
部屋から出ると両側にどこまでも続くような長い道が続いている。先ほどまでは昼間ぐらいだったのに廊下は薄暗く灯りがなければ遠くまで見えないだろう。腹の空き具合からあまり時間は経ってない気がするしおそらくまた遠くに移動したのだろう。
ラミは廊下をひたすら真っ直ぐ進むので玲もそのあとに続いて歩く。廊下にある窓から外を見るが暗くてあまり見えないが何となく不気味な感じがする。
『なんか暗いねー、今何時くらいなの?』
『えっ、暗いんですか…失礼しました。今は午後2時過ぎです』
『午後2時でこの暗さか、天気良くないんだね』
『は、はぁ、その、いつもとあまり変わりないと思いますが』
何とも歯切れの悪い会話になってしまっている。というか会話が全く噛み合っていない。変な質問をしたつもりはなかったが彼女からしてみれば当然のことを聞いてきて、どう返せばいいのか困惑しているよう見受けられる。
会話が途切れ若干気まづい雰囲気になるかと思われたが目的地のシエナの書斎とやらに着いたようだ。
ラミは他の部屋より一回り小さい扉の前で足を止め扉をノックすると玲を連れてきたことを告げる。
『入れ』
部屋の中から声が聞こえる。間違いないシエナの声だ。先ほど話した時の無理に大人っぽい声を出している感じではなく、自然に大人の女性のような声になってはいるもののシエナの声だ。
『お邪魔しまーす』
『えっ、あっ、ちょお、お待ちを』
入っていいと許可が出たのでドアを開けて入ろうとすると、ラミは目を丸くして素っ頓狂な声をあげて玲を止めようとする。しかしすでにドアを開けている玲を止めることはできなかった。
(勝手にドアを開けるのはマズかったのかもしれないな。ラミさんの仕事を取ってしまったようだ。)
『あっ、ごめんね』
『い、いえ、失礼しました。私はこれで失礼いたします』
彼女はそう言って去ろうとする。
『待て』
『はひっ』
シエナが呼び止めるとビクッと先ほどよりも大きく反応して裏返った声で返事した。
『この者とお茶する約束なのでな、紅茶を二人分持ってきてくれるかの』
『かしこまりました只今持って参ります。』
(この子は何をそんな怯えてるんだ?)
玲にビクビクしていたのは初対面だからなのかと思ったが、主人のシエナに対してはさらに怯えている様子なので違う原因があるようだ。先程よりもさらに早歩きで去っていくラミの後ろ姿を見ながらそんなことを思う。
『我が城へようこそ玲』
『おじゃましま………あれっ?』
玲が書斎に入るとそこにいたのは一人の美女。美少女ではなく美女だ。玲の記憶にあるシエナはおそらく12歳くらいの少女だった。しかし今目の前にいるのは20~24歳?《外国人の年齢は正直分かりづらい…》くらいの女性。美しい銀色の髪に紅い瞳気品溢れる佇まい、そのどれを取ってもシエナなのだが決定的に年が違う。
(シエナのおねぇさん…いや、本人のような気がする…)
玲がシエナを見つめたまま数秒間考えていると玲の疑問に察したかのように妖艶な笑みを持って答えた。
『クフフ、先程お主がお茶に誘った正真正銘シエナ本人のじゃぞ』
『んー、マジか』
『大真面目じゃ、いつもはだいたいこんな姿をしておる』
『大体って姿を変えるなんていったいどんな手品を使ったんだ?』
『くふふっ、そんなに驚いてないでまずはそこに座ったらどうじゃ』
『あぁ、そうだな。』
玲はそう言うと4つある椅子の一つに座る。
この書斎には向かい合ったように置かれた4つの黒い椅子があり、その奥に大きめの机、そしてその奥にシエナが座っている。書斎とは言っていたが想像より結構広いスペースのある書斎だ。机の上には本などは置いてないがいくつかの書類が置いてあった。玲が先程いた部屋同様若干薄暗いが何となく落ち着く雰囲気がある。
(このアロマのような香りの所為だろうか)
玲が座るのを待ってシエナが口を開く。
『まず何から話したものか……。うーむ、まぁ、お主の知り合いのハヤミ・アキナという女が聖剣の所有者に選ばれてお主達がいた世界からこの世界に連れて来られてそれに巻き込まれてお主も来てしまった可能性が高いという話なんじゃが』
『・・・・・・・・・・・。』
『くふふ、言葉も出ないといったところかのう』
『うーーん、いきなりの超展開過ぎて反応に困ってるんだけど。異世界って本当にマジなの?』
『大真面目じゃ、聖剣が異世界から所有者を選ぶのは珍しいことではないらしいからのう。魔族いない魔法もない世界にいたというならこことは別の世界であろう』
『それで明奈がいきなり聖剣に選ばれて俺はその巻き添えで異世界に来たってこと』
『そうじゃ、いろいろ調べた結果そんな感じで間違いないじゃろ』
『異世界ねぇ…。俺たち元の世界に戻ることってできんの?』
『そうじゃのぅ……』
シエナはほんの数秒間玲の目を見つめ玲も目を逸らさずシエナの目を見つめ返す。
『まぁ、戻るのは難しいことではない。方法を教えてやってもいい。じゃがのう、教える前に主に協力して欲しいことがある…』
シエナは口を閉ざし数秒間の時が流れる。玲がこの部屋に来てからずっと纏っていたシエナの妖艶な微笑みが消え真剣な表情へと切り替わる。自ずと玲にも緊張が走る。
(協力かぁ……ここから本題みたいだな)
主は先程魔族と人間は共存できると言っておったな。』
『あぁ、そうだな』
そういえばさっきそんなことを言っていたなと思い出す。彼女の表情から察するに彼女にとっては非常に重要な案件だったのかもしれない。しかしさっきは言っている内容が意味深すぎて理解できずにあまり考えずに返事してしまったことを後悔する。もし本当にここが異世界で本当に人間以外に魔族というものがいるというなら自分と明奈の身の安全など考えなくてはいけないだろうし。恐る恐る玲は明奈に尋ねてみる。
『わらわは魔族と人間が一緒に笑って過ごせる世界を作りたいのじゃ。その協力をおぬしに頼みたい』
さっきは深く考えずに返事してしまったことを猛烈に後悔している。確かにあの時できるといったが魔族がいるなんて思わなかったし、何をすればいいのかさっぱりなのに協力を頼まれても困る。女性の頼みは断らないという自分のポリシーを今回は守れなそうだ。
だが一度できるといった手前即座に断ることもできないので一応話だけ聞いてみることにする。
『魔族は人を食べたりしないのか…?』
『人を喰う奴もおる』
『えっ、いるの!?』
人を食べる魔族がいるという答えは予想外だった。念のために聞いたつもりだったが聞いておいて正解だったようだ。
(ていうか人を食べる魔族いるのかよ、それじゃさすがに共存出来なくね…?)
『確かにそういう輩はいるが人間を食べなきゃ生きれないわけではないからのう。ただの肉食なだけであって他の物を食わせておけばよい。人間は襲ってはいけないというルールを作り守らせれば何の問題もない。』
(なんだか一気に魔族との共存が難しくなった気がする。そもそもなぜこの子が魔族と共存したいと望むのかその理由はなんだろう?魔族は人間を食べるんだろ)
そこで玲はふと湧いた疑問をぶつける。
『なぜ君は魔族と共存したいんだい?』
玲がそう言うとシエナは大きく目を見開き口を開け驚く。今まで淑女として振舞っていたシエナらしからぬ反応に玲は困惑する。
(今俺そんなにおかしな質問したのか?ここの人間はみな魔族と仲良くなりたいと思っているもんなのか、人間を喰うやつまでいるというのに…)
シエナは数秒間口を開けたままになっていたがしばらくして表情を戻す。そしてシエナは両肘を机に乗せ顎を包み込むようなポーズをとる。呆れているのか悲しんでいるのかわからないが彼女は少し残念そうに呟いた。
『主は大きな勘違いをしておるぞ。わらわは人ではなく魔族じゃ、しかもこの大陸を治める魔族の王でありつまりは魔王じゃ』
『なっ!?』
今度は逆に玲が驚く番だった。玲は先程のシエナよりも大きく口を開けている。しかしそれは仕方のないことだろう。非常に美しいとはいえどう見てもシエナの見た目は人で間違いない。翼が生えたり角があるわけでもない、歯だって非常にきれいな歯並びをしていて牙なども生えていない。それなのに自分のことを魔王というのだ驚くしかないだろう。
(シエナと初めて会話したあの時から会話が噛み合わない時が多々あったけど、彼女のことを人間側だと思って話してたからか…。まぁ、普通魔族だなんて思わないけどな)
いきなりの衝撃発表をした彼女にどんな言葉を返せばいいのかわからず数秒間考え込む玲。するとちょうどいいタイミングで部屋の外から声がかかる。
『こ、紅茶を持ってまいりました』
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