第3話 神凪 響詩郎の事情(後編・上の巻)
「はぁ、はぁ……」
まだ
6歳の
その視線の先では複数の男たちが彼を追ってきていた。
「はぁ……はぁ……父さん、母さん」
幼い
子供にしか通り抜けられそうにない隙間を次々とくぐり抜ける
追っ手の彼らにとって自分は
「はぁ……はぁ……桃先生」
やがて細い路地裏をいくつも通り抜けるうちに、
そこにはいくつもの有料ロッカーボックスが立ち並んでいる。
立ち止まって息を整える
「桃先生……怒ってるかな」
今、幼い彼と同居しているのは
特別な仕事というのがどんなものであるのか幼い
自分の暮らしが普通の家庭とは違うということだった。
小学校に上がったばかりの彼は、周囲の友達らの暮らしぶりを見てそのことに初めて気が付いたのだ。
以来、幼い彼の胸には疑問や割り切れない思いがくすぶり続けていた。
生まれてからまだほんの数年しか経っていない子供にも関わらず、彼には本音でぶつかったりワガママを言える相手がいなかったのだ。
今の同居人である
「私はあんたのママじゃない。あんたのママは今日も遠い魔界であんたのことを思ってるさ。だから甘えたいなら次に会った時にしな」
現に
だが、彼は年に数回しか会えない母親にワガママを言って困らせることは出来なかった。
そんな思いを抱えながら迎えた今日のクリスマスイブ。
「魔界って遠いのかな」
そう言う
だがその時、強い力でいきなり背中を押されて
「うわっ!」
肩を床に強打して強い痛みに顔をしかめながら
だが背中を誰かに足で踏みつけられ、床に押し付けられたまま起き上がれなくなってしまう。
「ようやく見つけたぞ。ガキめ。おい! おまえら! こっちだ!」
頭上から降り注いだその声は粗野な男のものだった。
そして大勢の声と足音が近づいてきた。
(つ、つかまっちゃった)
「こいつか。
「確かにうまそうだ。血肉と一緒に霊力をたっぷり吸い取ってやろうぜ」
男たちが口々に言うその言葉に、自分がこれからどうなってしまうのかを悟った
「や、やめてよ! ぼ、僕……僕……何も悪いことしてないよ」
恐怖のあまり、ほとんど
「うくっ……」
後ろから首を
それは全員が動物や昆虫のような顔や手足を持つ半人半妖のような異形の化け物たちだった。
「ひっ!」
魔界に生まれ、妖魔の
ましてや彼らは自分に危害を加えようとしているのだ。
恐慌してガタガタと震え出す
「悪いことしてない? だからひどい目に
そう言うと狼男はその鋭い爪を
「痛いっ! 痛いよぉっ!」
腕に突き刺さる鋭い痛みに
狼男はその腕を
腕からはどくどくと真っ赤な血が流れ出ていた。
血まみれになっていく自分の肌を見た
「っく、ひぐっ……」
「おい見ろ。赤い血が出たぞ。痛いだろ? 痛いよな? でも今からもっと血が出るし、もっと痛くなるんだ。泣いても震えても誰も許してくれないぜぇ? 悪いことしてないのに、こんなひどい目に
そう言うと狼男は楽しくてたまらないといった様子で笑い声を上げた。
それにつられて周りの妖魔たちも下品な笑い声を上げる。
妖魔らの
彼の下腹部から生温かい液体が
「ハッハー! ガキが小便
そんな
「残念だったな。おまえは俺らの
そう言うと狼男は爪を振り上げて
(た、助けて。父さん、母さん……桃先生)
心は折れ、かと言って死を覚悟する度胸もなく、彼が最後に出来ることは救いの手を求めることだけだった。
(これは桃先生の言いつけを破って勝手に外に出た罰なんだ)
彼の心に後悔の念とともに浮かぶのは、
そして狼男の鋭い爪が振り下ろされた。
それは幼い
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*本編はこちら
『オニカノ・スプラッシュアウト!』
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