第3話 鬼ヶ崎 雷奈の事情(後編)
【我ヲ欲スル者。ソノ
それは音ではなく思念として、耳ではなく肌と骨を通して
彼女は驚きに心打たれて息を飲む。
「あ、
呆然とした
そんな彼女の目の前には化け物に
だが、途端にまるで大地が裂けるかのような轟音と地響きが鳴り、彼女の背後の大岩が真ん中から真っ二つに割れた。
すると急激に周囲の空気が変わる。
重苦しいプレッシャーが辺りを支配した。
特に
その男は
その視線の先には世にも恐ろしい
「う、
頭上を見上げながら
割れた大岩から現れたのは、成人男性の二倍の身の丈はあろうかという漆黒の大鬼だった。
筋骨隆々たるその体は炭色の肌に包まれ、頭部では灰色のたてがみが風になびいている。
瞳のない目は赤く輝き、たてがみの間からは真紅に染まった二本の角が雄々しく天を突いていた。
神社に残された資料でしか知らないその姿や様子に
「あ、あれが……
だが、いつまでも呆然としている暇はなかった。
その巨体が
半端な妖魔では抵抗する意思すらも奪い去られてしまうだろう。
それほど
固まっている男に
人の頭ほどもある巨大な拳に
途端に頭骨妖魔の体はまるで粘土細工のようにひしゃげて
「グィェェェッ!」
断末魔の悲鳴はほんの数秒に満たず消えた。
それは圧倒的な暴力であり、敵の存在を文字通り握りつぶしてしまう破壊の意思そのものだった。
「す、すごい……」
頭から妖魔を引きはがされた若い男は意識を失って地面に倒れ込んでいた。
その顔からはまさしく
妖魔から解放された者の典型的な表情をしているからだ。
「これでもう大丈夫……」
そう言いかけた
彼女の目の前で
それを見た
「待ちなさい
だが、
そしてすぐに顔を背けると、男を
(まずい!)
「やめなさい! もう妖魔は滅びたのよ!」
だが
【契約ヲ交ワサヌ者ノ言葉ハ我二届カヌ】
「契約するわ! 私の鬼になりなさい!」
決然とそう言い放つ
それこそ彼女の望むところだったからだ。
「
神社の
だが鬼
やがて
その視線を
巨大な鬼との
ほどなくして
【ナラバ
だが……。
「がっ!」
彼女の身に訪れたのは全身を
力で満ち
そんな状態であるにもかかわらず
体がほとんど動かなくなりつつあるというのに、
助けたはずのその男を殺したくてたまらない。
そんな欲望が己の中に涌き上がるのを知り、
手にした力はあまりにも大きく凶暴で、自分ではとても制御できそうになかったのだ。
「そ、そんな……」
彼女はあらためて思い知らされた。
先祖代々の鬼
だが自分の微々たる霊力では、すぐに
そのことが
うつ伏せに横たわる彼女の耳に遠くから自分の名を叫ぶ声が聞こえてきた。
それが家族の声だということまでは分かったが彼女の意識が保たれたのはそこまでだった。
(せっかく……せっかく鬼
失意に沈む
漆黒の大鬼・
だが、彼女の行く先にはどこまでも見通せぬ濃い闇が続いていたのだった。
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*本編はこちら
『オニカノ・スプラッシュアウト!』
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