01話 「ツインロリ」
ザワ……サワサワサワサワ……サアアアアア……
―――ちっさい頃に聞き覚えのある懐かしい音。
そうそう、丁度今時期くらいに稲が風に靡いて立てる音と似てるな。
子供の頃、秋になっと兄貴と一緒にトンボ追っかけたりしたっけか。懐かしい。
「あ……れ?」
そんな事を考えながら俺は目を開くと、青空と広大な草原。
病室じゃ、ない?
「……いや、いやいやいやいや。何、どうなってんの?」
身を起こして俺は思わず青褪める。
胸の傷を始め、体中に出来てたハズの切り傷、擦り傷、打ち傷全部が綺麗サッパリ消えている。
そして服に空いたハズの穴も無く、治療で一命取り留めましたとか言うレベルを超えていた。
ペタペタとアチコチ触ってみるが痛みも無い……
「助かったと思ったら実は臨死体験中とか言うオチですかねコレ」
じゃなきゃ説明が付かない。
夜勤やってたのにここは昼間。
しかも仮にも住宅街の中にあるコンビニに居たってのに、ここはどっかの北の大地みたいなどこまでも続く平原だ。
そうだ、現実じゃないなら。
「あれ、スマホはあんのか。てか財布もあるし……レジキーと家の鍵、バイクキーもある。てか仕事着まんまかよ!」
おいおい。いつもの通常装備しかねーじゃんか。
エクスカリバーまでとは言わねーから夢ならショートソードくらいはあっても良いだろ。
服も青のマミマの制服に下はジーンズ。こんなんじゃ強敵と遭遇した場合はトンズラしか出来ねーよ。
はぁー……しかし今更になって手が震えて来たわ。
俺も咄嗟だったとは言えよくあんなのに立ち向かったよホント。
まぁ昔に結構ヤンチャな青春時代送ってましたがそれがあんなとこで役に……
「立ってねーから死んだんじゃね? ダメじゃん」
自分で突っ込んで凹む。
あー空が綺麗だなー。
こういう時は現実逃避に限りますわー。あはははは。
「あー! またニンゲンがいるー! いっけないんだぁー!」
「むー……ま、また居た……ニンゲン。さいあく、しね」
ナーバスの海へダイブする俺を背後から引き留める声。
何か子供っぽい声な気が……。
最後に物騒なセリフが聞こえた気もすっけど、とりあえずそれは置いといて振り返る。
そこには銀髪でウサギみたいに赤い目をしたヘンチクリンなぼわっとした黒ドレスを着たロリが2人。
見た目も格好もおんなじでどっちがどっちかわかんねぇし、服は変だけど……
「可愛いじゃん」
思わず出た言葉を前にロリっ子2人はビクっと身を震わせる。
「か、可愛いって……このニンゲン、アレフみたいな事……言ってる、の」
「な、なによーこのニンゲーン!」
おおっとぉ?
スゲー動揺してますなお嬢さん方。2人揃ってもじもじし出して予想外の反応ですわ。
3次元は滅びろと今まで思っていたがこう、初々しい反応見せられると悪くないな。
このロリっ子たちがもう少し大きくて、この辺りもバイーンとしてたら言う事無かったんだが―――
俺の好みはさて置き、これは第一村人との大事なファーストコンタクト……好感触な第一印象を皮切りに情報を手に入れねば!
「やぁ可愛いお嬢さん方。俺はさっき目が覚めて自分がどうしてここに居るのかわからなくてね……良かったらここがどこなのか教えてくれないか?」
俺はさわやか青年を演じながら尋ねる。
―――と、同時にもじもじロリ二人は真顔に。
あれ?
「お、おねえちゃん…………か、簡単に可愛いって言うヤツは、タラシって言うのだって、アレフが言って、た」
「うん、ルシードも言ってた」
さっきまでの可愛らしい顔はどこへやら。獲物を狩るような目でジロリと俺を……
じゃない、高校時代に告ってきた女子に「芋過ぎてムリ」なんて向けた時にされた顔と同じ物だ。
そうこれは、
「タ、タラシはわるいやつ。だか、ら……」
「ぶっ飛ばせってルシードとアレフが言ってたー!」
そう、軽蔑の目だ。
「ちょ、マテマテマテってぇえ!
お前どこからうんなでけぇハンマーとか出したし!?
そっちのドモリ系ロリも大斧(ギガントアックス)二刀流とか殺す気マンマンすぎんだろ!」
問答無用に俺へ向けられる2m級の絶対殺すウェポン。
暴風を纏った一撃を紙一重で避ければユンボで掘ったみたいにゴッソリ地面が抉れ、土砂が散らばる。
頬を掠ったかと思えばかゆみを伴った痛みが走り、指で拭えば……血ぃ出てんし!
そしてまた一つ、もう一つとドッコンドッコンと打ち下ろされる一撃はあっという間に草原を穴だらけにしていく。
「お、おおおおおお、おま殺す気か!? ちょっと可愛いって言っただけだろ正気かお前ら!!」
「ダイジョーブ! ちょおーっとプチっとして!」
「は、半殺しにする……だ、け!」
「だーからーチョコマカ逃げちゃダメなのー!」
「な、なのー!」
可愛らしい顔と見た目とは裏腹に恐ろしい事をほざきまくるツインロリ。
武器からして半殺しどころか一撃で全殺しだろ。
オーバーキル確定じゃねーか。
しかもドモリ系ロリは大人しそうな顔してたくせに大斧持った途端、目が爛々だ。
ツインロリは130cmくらいの身長で2mはある斧やらハンマーを虫取り網みたいにブォンブォン振り回しながら俺を追いかけ、こっちは必死に逃げの一手。
つーか死んだと思ったら生きてて、また殺されそうになってって何だよこの状況!
普通、臨死体験って今までの記憶とかなんかこう、不思議なほわほわ~っとしたもん見るんじゃねーの?
何で好みでも無いロリに追い回されて、殺されそうになってるんだ……早く目覚めろ俺。
リアルも胸に風穴空いて死にかけでヤバいだろうがこっちもヤバい。どうせ死ぬならさっくり逝こうぜ。
ってこっちも逝きそうだったわ。
「こう言うときゃ逃げるが勝ち!」
「あっ! そっちに行っちゃダメー! こらぁー!」
はつらつ系ロリが俺の逃げ先に慌て出す。
見渡す限りの草原だがこっち方面に何かあるのか……?
「だ、だめなんだよ……今、ソッチへ行ったらぁ……!」
「村そっちじゃないよ逆だよ! 行ったらダメー!」
俺は制止する声をガン無視してひたすらダッシュする。
笑顔で俺を追い回してたロリはどう言う訳か半泣きになりながら追っかけてくる。
イチかバチかだがこの先に行けばとりあえず猛襲ロリから逃げられる。
なら行くっきゃねぇ!
俺は息切れで悲鳴を上げる身体に気合を入れる。
走り続ける先に見えるのは―――森。
よし、樹が生い茂る中じゃ斧やハンマーなんてデカイ武器は相性が悪いハズだ。
「ぜぇ……はぁ、はぁ、ぜぇ……こ、根性見せろ俺の脚ぃいいいいい!」
肺いっぱいに息を吸い込むとラストスパートをかける。
脚を大きく前へ出し、振る腕に力を込め、歯を食い縛って木々の中へ飛び込む。
生い茂る草木や枝を掻き分けながら駆けて、駆けて駆けて駆けて―――
草木が拓け、突然柔らかくなった足元のせいで俺はバランスを崩し。
「おわったった……おぶふっ!?」
ばしゃあん! と勢いよく俺は水場へ大の字で盛大にダイブ。
全力ダッシュしてたせいもあり、加速が付いたまま突っ込んだもんだから顔を中心に痛いのなんの。
森の中にあるって水場って事は湖か池か?
浅かったお陰で水びだしになっただけで済んだが―――。
そんな事を思いながら先程のロリが来るのではと四つんばいのまま慌てて振り返る。
「追って―――こねぇか。はぁ……助かった」
唐突の事に色々と考えがおっつかないがとりあえず命拾いをしたと実感すると全身から力が抜け、情けない声が出る。
一体なんだったんだ……と、自分の顔から落ちる滴が水面に波紋を作る様子を眺めていると違和感を覚えた。
……水面に映る色に自分以外の肌色があるのだ。
ドクドクと動悸が早打ちする中、俺はゆっくり顔を上げる。
見るべきではないとわかっていながらも、衝動がそれを許さず興味が俺を突き動かした。
そしてその先には
「ふえ……?」
そこには絵に画いたような少女が佇んでいた。
飴細工の様に美しい青髪へ雫の珠を宝石の如く散らし、光を受けた毛先は新緑の色を見せる。
脅えて潤む青い目もサファイアの様に美しく、少女は一つの芸術品のようで俺は思わず凝視する。
そして頬をどんどん赤く染める彼女を前に俺ははたと気が付く。
この子すっぽんぽんじゃん。
次の瞬間、お年頃の少女の声にならない声が俺の鼓膜をブチ抜いた。
コンビニ店員とドラゴンPrinces’s @mentaiko_kouya
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