映○村でお土産に買った苦無型のペーパーナイフと共に忍ぶ方の忍びが蔓延る里同士の覇権争いみたいな世界に来ていたので生来の勘違いスキルを駆使して無双する話

劇鼠らてこ

第1話『盛りの付いた獣は助走ラインを踏み抜く』


「ん?」


 背後をガサガサっと何かが通ったような?

 なんだ猫か……ってのはフラグだから、俺はこう言う。


「フ……出てきたらどうだ? それとも……その程度で、隠れたつもりか?」


 聞く人が聞けば……というか、ある一定以上の年齢且つ一定以上の知識がある奴が聞けば、痛みにのた打ち回るセリフ。つまり厨二病真っ盛りなセリフ。

 なんだよ「フ……」て。包丁の切っ先かよ。


 だが、


「……何者だ。ここは射雅いがの里。それをわかっているのか?」


 何者かが俺の背後、結構近い所に現れる。

 俺の背後に現れた何者かは、全く気にした風もなく……むしろかなり真剣な雰囲気を纏ってそう聞いてくる。イガ……伊賀かな?


「フ……クックック……お前、俺を知らずにソレを向けてるのか? 久しぶりに命知らずが出てきたと思ったが……単なる無知だったとは」


「何ッ!?」


 ちなみに俺はまだ振り向いていない。だから、ソレってのが何なのか俺にも見えていない。何かを向けられているという事すら今知った。相手の反応で。

 単なる無知はどっちかというと俺の事である。命知らずも追加で俺の事である。


「貴様……名を名乗れ! 我が里に楯突いた者として、」


「忍びが名を名乗ると思うのか? それとも……俺が忍びだと、わからなかったのか?」


 いい具合に雲が晴れていく。あ、さっきまで月明かりの無い森の中で、かなり暗かったんだぜ。

 そして俺はセリフに合せてパンツのポッケに入れていた手を引き出す。

 親指に嵌っているのは――苦無。


 っぽい形をした、ペーパーナイフ。


 だが、周囲が真っ暗で且つソレだけ月明かりに照らされたら――


「チッ、他里の忍びか! なら、ここで死ね!」

「遅いよ」


 本物に見える、ってワケで。

 俺は後ろに倒れるようにしてペーパーナイフ……まぁクナイを振るう。


 このまま行けば後頭部を地面にゴッチンしてしまうだろう。痛いのは嫌だ。

 が。


「な――クソッ!」


 ゴォォォオオオー! と、まるで俺を支えるかのように突風が吹く。

 すると俺は体勢を立て直し……後ろにいた何者かはつんのめる事になる。見えてないから経験則でしかないんだけど。

 そして、俺はクナイを振るい続けているわけで。


「グッ――……?」


 クナイが、何者かの首に当たって……まぁ、ペーパーナイフなのでそのまま進む事も無く、そこで止まった。

 背後で疑問の混じった息を飲む音が聞こえる。


「フ……命拾いしたな、若い忍び。どうやら今日の俺の紙刀しとうは血に飢えていないらしい」


「――! 死刀しとう……!? まさか!?」


 血に飢えた事なんて一回もないけどな。

 ちなみにペーパーナイフだから紙刀ね。この世界、まだ英語ないっぽいからさ。

 英語自体存在してるのかわからないけど。


「ま、ここは近道に寄っただけだから……安心しろ、お前の里を脅かしにきたわけじゃない」


 まず里があるって事を知らなかった。

 普通に不法侵入だよね。んで、俺が侵入者だよね。

 

「まさか貴様――刀狂いの、」


「おっと……むやみやたらに藪はつつくものではないぞ? 出てくるのが蛇や鬼とは限らないからな」


「――ッ!」


「それじゃ、せいぜい精進しろよ……若い忍び君」


 何事も無かったかのように歩き出す俺。

 堂々と、俺何も悪い事してないぜベイベーとでも言うかのように。


 カラン、と重そうな鉄器……多分苦無か小太刀を地面に落とした音が、背後で響いた。


 ふ……男は背中で語るんだぜ……!


 気付かれない様に少しだけ歩を早めて、俺はその場を去った。














 異世界に転移したっぽい。

 俺がソレに気付いたのは、修学旅行先の旅館の従業員の皆さん(めちゃくちゃ良い人たちだった)に礼をするため、頭を下げた直後だった。いや、直後って言うかその後っていうか。その直ぐ後だから直後でいいのか。

 

 ヒュン、という風切り音と共に、さっきまで俺の頭が在った場所を何かが通り抜けたのだ。次いで、頭を上げるとそこに旅館は無く。

 あったのは鬱蒼と茂る……青木が原よりも茂る樹海と、俺の目の前に聳え立つ樹に刺さった手裏剣だけだった。ちなみに八角形の奴じゃなくて、ひし形の棒手裏剣な。


 まぁこの時点で薄々勘付いていた。あ、コレアレだなって。アレアレ。


 だから俺はこう言ったんだ。


「その程度の技量で……本当に俺を仕留められると思っているのか?」


 ってな。

 そしたらば、ガサガサって後ろで音が響いて、


「貴様……どこの里の者だ」


 って、ちょっと若良わかいい感じのねーちゃんが声かけてきてたんだ。

 里、って聞いた時点で俺の中ではお祭り騒ぎだったね。棒手裏剣の存在と里。この2つのキーワードがあったら、想像するのは一つ。

 

「フ……東京からさ」


刀狂とうきょう……最果ての一族か……ッ!」


 俺は余裕を持ちながら、ゆっくりと顔だけ振り向いた。俗にいうシャ○度。割と首が痛いヤツな。

 そんな体勢で、不敵な笑み(昔練習した)を浮かべながら、


「ここでやりあってみるか?」


 って聞いたんだ。ちょっと低い声意識してな。

 で、振りかえって見て気付いたんだが、どうやらねーちゃん以外に結構な人がいたようで。見える限りで3人。で、忍びっぽい恰好だから多分隠れた場所に5人くらいいるんだろう。

 キョロキョロと目線を動かしてやれば、ねーちゃんの瞳が揺れる。

 全部当たりか。


「いや……貴様とやるには、戦力が足りなそうだ……。私達には目的がある。だから、私達は何も見ていない……そういう事にしておこう」


「フ……的確な判断だ。俺の紙刀しとうとやるには……少し若すぎるからな」


「……死刀。それが貴様の獲物の名か」


「血に飢えたじゃじゃ馬さ。それじゃ、俺は行かせてもらおう。次に会う時が戦場でない事を祈るかね」


 旅行用リュックを背負い直し、全く道を知らない樹海に歩き出した――。



 ってのが、この世界に最初に来た時にあった出来事。

 あのねーちゃんにはその後何回か会ったんだけど、結局一度も戦ってない。

 その内の1回は甘味処で2人っきりという理想のシチュエーションだったりする。


 ねーちゃん側は大分びくびくしてたけどな。


 どれもこれも、俺の体質が為せる業だ。俺は別に古武術とか習ってないし、剣道だって授業の一環でしかやったことない。

 だから、この世界じゃ多分俺は最弱もいい所だと思う。

 さっきの小物臭い若者にすら負けるだろう。


 俺の体質さえなければな!



「……フ」


 意味有り気にクナイを振るえば、ソレに何かが当たる――直前でスライダーのように落ちる。

 

「……よっ」


 特に意味も無く首を傾ければ、そこを何かが通り過ぎていく。


「ほれ」

「なあッ!?」


 舗装されていない道端の石ころを蹴れば、勝手に何かに当たる。




 そう、俺は勘違いされ体質なのだ。

 俺の為す事、言う事全てが俺の都合の良いように解釈される。おれの一挙手一投足に世界が意味を付加してくれる。

 

 世界は俺を中心に回っているのだ!!


 ……まぁ、中二病を経験した後に厨二病を患っている身としては、自分の言動自体が最大のダメージだったりするんだけど……。

 

 そんな俺の勘違いスキルとご都合主義による異世界漫遊譚。

 始まり始まりー、ってな!

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