6
他の『
その時になって
彼は自分などよりもずっと一貫した世界で生きていて、そんな相手を何も知らず
人のために戦いたいなどと
弱い自分なんて撃ち殺して、兄と同じ
銃口の向こう側で、暗闇がそう
※※※
かつて北海道の中心都市として栄えたP市には、
その年、市内のいたるところに発生した
強さだけを
そのまま余計なものを削り取って最適な自分を
結果として巣の九割が
この北海道で、自分にできることは何もない――そういう無力感だけが残り、いよいよ決断の時が来たのだと悟った。
生き残った者たちは早々に離れていったが、聖二は一日だけその街に居残ることにした。
その日は良く晴れていて、
最も激しく戦いが繰り広げられた、スポーツドーム跡地――その
そこだけ雪の被っていない
だが、誰が? 何のために?
疑問に答えるように、背後から「おい」とぶっきらぼうな声を掛けられた。
短い髪を逆立たせた少年が
「誰か探してるのか?
仲間の
「いいや、大丈夫だ。それより、これは君が?」
「ああ、うん。おれと、あと二人で作った……ほら、あそこ」
少年が遠くの方を指差す。
「ぐちゃぐちゃになって、人なのか怪物なのかも分かんねえような
あくまで
回収もせず、かといって放置するでもなく、墓を作って
「よければ手伝いたい」
ルール
※※※
「うちは四人チームだったけど、
チェーンソーで器用に穴を掘りながら、少年こと
「あなたはどうしてここに?……仲間を探しているわけじゃないらしいけれど」
黒髪の少女――深雪が、運んできた袋を降ろしながら尋ねた。
「いや、特に理由があるわけでは……」
「じゃ~あ、きっとわたしとおんなじですねっ♪」
金毛をふわりと
「陽彦くんと深雪ちゃんが、みんなのことをちゃんと埋めてあげてるのを見て、なんか『いいなあ』って思ったんです! ね、聖二くんもそうですよね?」
「あ、ああ、うん……じゃあだいたい同じ、かなあ……」
表情一つ変えずに遺体から
「ヤバいよな、
「……ええと……実は僕もそうだ」
「……マッジかぁ~~~~~~~~~~~~~」
完全に
「
深雪がそう
「知ってんのか、深雪」
「……良くない評判だろう」
「否定はしない。けれど、あなたが
「どういう噂なんですかっ?」
「凄く強いけど、他人を見下していて冷たい人だって」
深雪のその
「でも、ホンモノはこうやって手伝ってくれてるいい人じゃないですかぁ」
「いいや、噂の通りだよ。僕は人の気持ちも分からないクソ野郎だった。きっと何人も、心ない言葉で傷つけてきたんだろう。『君たちは真面目に生き残るつもりがあるのか』とかってね」
「そんなこと言ったの?」
「似たようなニュアンスのことは言ったさ。自分の言うとおりにすれば生き残れるのに、どうして言うとおりにしないんだ、なんて思ったりもした。そのくせ、誰一人救えなかった」
言い終えてから、しまったと思った。こんな話をされても気まずいだけだろう――一人でいた時間が長すぎて、よほど話し相手に飢えていたのだろうかと
そう、思っていたのだが。
「なんだ、やっぱいい奴だな」
陽彦の口から出たのは、そんな言葉だった。
「気を
「だってあんた、救ってやりたかったんだろ? 赤の他人を」
ガツン――と、頭を
「おれだって、仲間が死んだら嫌だとか思うけどさ。一番大事なのはやっぱ自分だと思うし、嫌われる覚悟決めてまで人のためになんて戦えねえよ、普通」
「止してくれ」
柔らかなはずの少年の言葉が、だからこそ深く突き刺さった。そんな自分はもう捨ててしまえと思っていたはずなのに――せっかく付きかけた決心が揺らいでしまいそうな気がして、
「あんたが自分をどう思おうと、おれはすげえと思う。大変だっただろ」
ただの言葉が、どうしてこんなにも自分の心を揺さぶるのか分からず――ふとそれが、自分が求めてやまないものだったからだと気づいた。
強さではなく、道を踏み外さないということ。少年の持つ共感の心こそが、その答えだった。
きっと世界が救えると思った。どんな時でも正しくいられると思った。
それは世間知らずな少年が
「その……ありがとう」
後ろを振り向いて、涙を一度だけ拭った。あとはもう泣かなかった。
※※※
一週間後、本土の駐屯基地に戻った聖二は、正式に陽彦たちとチームを組んだ。
それから地下の通信室に入り、初めて自分の方から兄に通話をかけた。
「あなたの望むまま、なんだってします」
あの日――
そして聖二は、やはりそれを葬ることにした。
正しくあれという願いの
ただそれを野ざらしではなく、
あの日、自分を受け入れてくれたものが、幼い自分にとっての墓標だった。
残された自分は、その
「僕の他にもう三人、猟犬に引き上げてください」
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