3
冷たい夜の空気が肺を
「はっ、はっ、はぁっ、クソ……!」
とんだ
そいつは狼の化け物に
どこまで逃げればいい――どこへ逃げればいい?
もう嫌だ、どうにでもなってほしい。その言葉が
「あっ……――?」
瞬く間に広がる
「たす……たす、け……」
「落ち着いて呼吸をしろ」
ひどく冷たい、若い男の声だった。おそらくあの狼野郎の仲間だろう。
「なん、で……ちく……しょ……」
ヒュウ、ヒュウと息をする。絞り出すように声にした。
「分からないとは言わせない。カバンの中の薬が、どれだけの人間の人生を台無しにしてきたか」
ふざけるな――そう叫び返すための空気が、肺の中に足りていなかった。
大学を出て、会社に入って、
ただ幸せになりたかった。なんの喜びもなく歯車として
「悪いのは時代だ。君はなにもおかしくなんてない」
男をその道に誘ったのは、
自分の
リスクを踏んでまで、赤の他人に人生を取り戻す方法を教えてくれた。その恩を返したかった。
薬で身を滅ぼすような
ゆとりのない厳冬の時代ですら、真面目に働いて人の役に立つつもりもないクズ。
そいつらが
何も知らないやつが、その
「
不意に声がした――
「
「分かった」
その言葉で、仲間たちも捕まったのが分かった。
「く……そ……てめえ、ら……なんなん……だ……」
何もかもが終わりだ。ここから助かる希望なんてなく、
「ワイルドハントだ」
「……っ……! ざっ……けんな……!」
息苦しさが少し抜け、言葉を吐き出せるようになってきた。
「てめえらが……怪物どもを全滅させてねえから……こんなクソみてえな世の中になってんだろが!」
バカげている。ふざけている。自分たちのような小遣い稼ぎをいじめる暇があるなら、さっさとあの北海道を占領する
社会が豊かになれば、こんなやくざな商売に手を
「そうだな」
冷たい声は、あっさりと認めた。
「僕らはフィンブルに勝てない。これまでも、これからも」
「あ……?」
「この国はフィンブルに負ける」
カチッ、という音がした。自らの手に突き立った細長い針を最後に見て、男の意識は眠りの
※※※
ペン
人間が相手では、どうにも神経毒の調整が難しい。
そんなことをぼんやりと考えていると――
「聖二くん。わたしたち、負けちゃうんですか?」
夕食の
「ああ、負ける」
「……そっかー」
北海道で戦うワイルドハントたちのほとんどが
重要な戦力であるはずの
ワイルドハントたちがどれほど必死に戦おうと、人間は滅びる。既にそういう
聖二たちが考えなければならないのは、どうやって自分の人生を逃げ切るかだ。
いずれは
だらんと
鼻歌を歌いながら
ビルの
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